表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fated Oath ─血に抗う者たち─  作者: りんごあめ
第一部 真贋の饗宴
2/82

第1話 世界が彼女を見つけた日

 短縮版をスタートしました。

 一章を読まなくてもわかるような構成にしています。

 文章をできるだけ短め・改行多め・視点切替など入れています。

 一章から読みたい方は誓約の果ての方へどうぞ。

 あの夜から、数年後。

 

 その時、大地が裂けた。


 空が悲鳴を上げるように、揺れた。


 熱風と衝撃が森を薙ぎ払った。

 地表はえぐれ、円形に削られた巨大なクレーターが出現した。

 すべての草木は燃え、石すらも熔けていた。


 爆心に、ただ一人──赤毛の小柄な少女、レナ・ファリスが立っていた。

 その血が、魔力と共に暴発していた。

 抑えきれずに。


 次の瞬間、膝が折れた。

 身体は熱の塊のまま、重力だけが先に戻ってきて、彼女は崩れ落ちた。


 あの日、彼女の巨大な魔力反応は、確かに、世界中の探していた者たちの網に引っかかっていた。


 ただ、普通に生きたかっただけなのに。


 

***


 

 ◆レオン視点/森・爆心クレーター

 

 爆心の中心で、レナは倒れていた。

 呼吸は浅く、瞳の焦点が揺れる。暴発した熱だけが、まだ彼女の周囲に残っている。


 その傍らに、レオン・ヴァレントはしゃがみ込んでいた。

 金の髪が煤に汚れ、青い瞳だけが冷えている。

 彼はレナの顔を覗き込み、すぐに視線を地面へ落とす。


 焦げた土。熔けた石。赤黒く染み込んだ残滓。

 セルトリア王国の禁術監視班が嗅ぎつける。あの監視網に触れた以上、先発が来るのは時間の問題だった。


「……レナ」


 指先が、彼女の頬に触れかけて止まる。


「……ん……」


 レナはゆっくりと瞼を開けた。

 焦点の合わない琥珀色の瞳が、レオンを捉えようとして揺れる。


 レオンはその顔を見下ろしていた。

 いつもの冷静さの奥に、何か壊れかけたような脆さが混じったまま。

 

「レ……オン……? ああ…夢……?こんな所……来るわけないし……」


「夢じゃない。お前は生きてる」


「……私……魔竜に……」


「魔竜なら……お前の暴発で、消えたよ。骨も残ってない」


 レオンは抑えた声で伝えた。


「……そっか」


 レナはうっすらと笑った。


「もう喋るな。お前の魔力の痕跡は、俺が隠す。学院に戻るぞ」

 

 レナが再度気を失った間に、レオンは一人で動いた。


 周囲の木々、焼けた土壌、魔力の残滓。

 彼はそれらすべてに干渉し、追跡の手掛かりになる部分を潰していった。


 手のひらに、封印の式が浮かぶ。

 幾重もの結界が、焦げた大地を覆っていく。

 暴発の中心に残った鋭い反応を削り、薄く、広く、森の闇へ散らした。完全な抹消はできない。だが「確定」だけはさせない。


 風向きが変わり、焦げ臭さが森の奥へ流れていく。


 日が沈みきった頃。

 夜の闇の中、遠くで、規律の揃った足音がした。


 思ったよりは遅い。

 レオンはレナの前に立ち、息を殺した。


 木々の隙間から現れた影は三つだった。黒い外套。胸元の紋章。腰の短杖と魔術具。

 視線だけで分かる。禁術の監視班。現場慣れした少数精鋭だ。

 近づくほど、森の音が消えていった。


「反応が散っている。中心は──」


「薄い。攪乱が入ってる」


 彼らはクレーターの縁で止まり、魔術具を展開し始めた。探知結界だ。


(張らせるな)


 レオンは影のまま近づく。足音は立てない。

 結界は完成してから壊すのが面倒だ。

 だから起動の瞬間を折る。


「誰だ」


 声が広がる前に、レオンは剣の柄へ触れた。

 青い眼が細まる。世界が遅くなる。音が遠のく。

 浮遊する魔力の線が、彼には視えた。


 剣が一閃する。


 光の線の結び目が断たれた。

 探知結界は立ち上がる直前に崩れ、伸びかけた線だけが千切れて消える。


「なっ……!」


 隊長格が短杖を構えた。


「結界班、張れ! 対象は剣士だ!」


 遅い。


 レオンは距離を詰める。狙うのは術式を動かす指と声だ。


 一人目が護りの輪郭を浮かべた。

 輪が閉じる前に、刃が継ぎ目を断つ。

 結界が落ちた瞬間、剣先が喉を裂く。

 男は声を出せずに崩れた。


 二人目が半歩下がる。

 腰の通信具へ指が伸びる。

 報告だけは通させない。


 レオンは男へ向かう角度を変えない。

 間合いだけで押し潰すように詰める。

 指先が回路に触れる、その一拍前。


「待て、我々は──」


 剣先が通信具を貫き、魔力回路を潰した。

 火花が散り、男の顔色が変わる。


 その男が、苦し紛れに名を吐いた。

 

「国家魔術省──」


 その名が出た瞬間、捕まれば終わりだと確信した。

 レナの血は、研究に使われるだろう。

 

 言い切らせない。

 刃は、発声を断つ角度で走った。

 倒れる音が、妙に軽い。


 残る一人が、地面に短杖を突き立てた。

 拘束の術式だ。

 光の鎖が地表から伸び、空間を縫い止めようとする。

 レオンは鎖を避けずに、鎖を生む起点を見た。


 刃が走り、地面に刻まれた術式の要を断つ。

 鎖がほどけ、術者が息を呑む、その前に。

 レオンの剣が首筋を裂き、男は膝から崩れた。


 森に残ったのは、焼けた空気と血の匂いだけだった。


 次の部隊が来るまでの猶予を、頭の中で数える。

 ここに残る理由はない。

 彼は血のついた剣を払った。

 

 レオンは爆心にいるレナを背負い森を出た。


 背中の重みは軽い。彼女は小柄で、骨の線が細い。それでも、その身体の奥にはまだ熱が残っている。


 夜は深かった。学院へ続く道は暗い。だが、レオンは灯りを使わなかった。灯りは目印になるからだ。


 裏門側の結界が見えた。


 学院の外周を覆う術式は、夜でも淡く揺れている。

 その揺らぎの癖をレオンが一瞥して読んでいた、そのとき。


 「……自分で歩く」


 背中で、声がした。

 

 レオンは足を止め、ゆっくりと身を低くした。

 背中からレナは降りた。

 足元はまだふらついている。

 服は土と血に汚れていた。



 ***



 ◆オルフェ視点/静養用別荘

 

 その瞬間。


 カリグレア魔術学院最上位──Sクラス、休学中のオルフェ・クライドは、悪寒で目を覚ました。


 白銀の髪が額に張り付き、汗が枕に滲んでいる。

 学院が用意した静養用の別荘。

 山間の静けさのはずが、今は薄く軋んでいた。


(……なんだ、今のは)


 世界の層が、ひとつ剥がれた気がした。

 その感覚に引かれるように、手が首元へ伸びる。


 封印式のペンダント。

 自分の魔力を抑える結界核であり、外部の異常を拾う魔術具である。


 彼の結界核が示したのは、その枠を逸脱した存在の痕跡だった。


 オルフェはゆっくりと体を起こし、窓を開けた。


 空気の層が歪んでいた。東の森の方向に、何かがいた。


「学院に戻るか」


 紫の瞳の奥に、光が灯る。

 何かが始まった。そう確信できるほどの、異常な力だった。


 まだ名も知らぬ誰かが、今夜、世界の法則に爪痕を刻んだ。


 彼は立ち上がった。


「異端、か……」


 オルフェは窓辺に立ったまま、指先で首元のペンダントを一度だけ弾いた。

 結界核が、微細に鳴る。まるで近いと言っているみたいに。


 その夜のうちに、オルフェは机に向かった。

 便箋を一枚。ペン先は迷わず、文字は短い。


『復学を申請する。至急、許可を』


 そして、もう一度だけ東の森の方向を見た。

 


ここまで読んで頂きありがとうございます。


ブクマや感想、⭐︎評価など頂けると、励みになります。

今後ともどうぞよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ