辺境伯の令息は神童と呼ばれる
GW企画4日目
最初の1文に自分なりの解答を
かの主人公は本当に天童なのか
この世界は何?15字以内に答えろ。
「悪魔だ。お前は私以上の悪魔だ。」
煌びやかな部屋の中、あからさまな悪徳商人の男が手足の腱を切られ転がされていた。
「俺が悪魔なわけないだろ。俺は、王さ。世界を好きなようにする、支配之王。」
黒い軍服に、金色と青色の刺繍のされた黒いマントを羽織り、目元を隠す白い仮面をした12歳程の少年は仮面を外しながら男に近づく。足元には無数の契約書が散らばっていた。
「お前は悪酷い方法で、金を集めていた。俺の世界で好き勝手しやがった。だから、俺がお前の物を奪った。ただ、それだけのことだ。」
「ふざけるな!ただ奪っただけだと、◯◯◯。お前は私の両親と息子を殺し、客を、商会を、奪った!私は確かに不平等な商売をし、経済を独占していた・・・。しかし、お前がしていることはそれ以上に酷い事だ!高額な借金を直ぐに返済するよう奪った客に迫り、できないものたちは皆奴隷に落として回った。私よりも身勝手な行いをお前はしている!」
「それがどうした。お前から俺が奪ったものだ。どうしようが俺の勝手だろう。それに遅かれ早かれお前もそうしようとしていたのだろう。」
「悪魔が!」
少年は興味を失い指先に火を発生させると、下に散らばる紙に引火すると出口に向かう。メラメラと燃える部屋は、商人の復讐心のようである。
「安心しろ、お前の妻と娘は俺が有効活用してやる。だから、心置き無く死ね・・・。」
「やめろ、やめろ~~~。アゼラとギーゼラに手を出すな~~~。やめてくれ~~~。」
燃え盛る屋敷に悪徳商人の声が響く。
少年が門に向かい歩いていると、少年と同じ軍服を着た20代ほどの女性が臣下の礼をとっていた。
「お疲れ様です、ご主人様。あの者の妻や娘を含めたこの屋敷にいた使用人どもを捕らえていますがどうしますか。」
「奴の妻と娘は俺の地下牢に、その他の半数は魔物プラントに、新種の植物性魔物の苗床に丁度いいだろう。残りは拠点『エリア4』の実験室に送っておいてくれ、試したい実験がある。」
「はっ。全ては王の為に。」
黒軍服の二人は街の暗闇に消えていく。
俺はレヴォシオン・ルーカス。
カリアナ王国のルーカス辺境伯の長男であり、今年で15歳となる。俺には前世の田中将真としての記憶がある。その記憶を元に幼い頃から勉学に励み、神童と呼ばれ、7歳を待たずして父から自分のお抱えの商会を持つことを許されるほどになっていく。
「レヴォシオン様。また、裏小屋に行かれてたのですか。今日はレヴォシオン様が初めて社交の場に出られるお披露目会ですので、早めに準備をしなければなりませんのに。」
「すまない、爺。どうしても日課の魔力錬成をしたくてな。」
「全く、努力を惜しまない姿は素晴らしいですが。旦那様や奥様も大広間にて待っておいでですので早くお部屋に戻り、お着替えください。」
「分かったよ。」
着替えが終わり、俺が大広間に行くと両親と妹が談笑をしていた。
「おまたせしました。父上、母上。それとシフィルもおまたせ。」
「おぉ、レヴィ。似合ってるぞ、やはりヴィトーレと同じ黒髪のレヴィには白と紺色の服が似合うと思っておったんだ。」
「そうですね。ですが、あなたに似て瞳は薄い水色ですからより栄えますね。カッコイイわよ、レヴィ。」
「ありがとうございます。父上、母上。」
俺を褒めているはずが、互いのことを褒めている両親に対して俺は内心苦笑いが絶えない。
俺の両親は年の割に見た目が若く、子供を二人産んだというのにかなりアツアツである。今もベタベタと人目もはばからず、くっついている。
俺に年の離れた弟か妹が新しく出来たと言われても何ら疑問を持たないくらいだ。
「本当に、お兄様カッコいいです。今回のお披露目会で変な虫が着かないといいのですが。正直無理なような気がします。(やはり、私がお兄様と一緒になった方がいいのでは。)」
「はは、ありがとう、シルフィ。シルフィも後2年すればお披露目会になる。今日は兄の姿を見て参考にしてくれ。」
「はい。お兄様のお姿を一瞬も見逃しません。」
本当にかわいい妹だ。シルフィル・ルーカス。2歳年の離れた妹だ。13歳にして、『精霊剣舞』と呼ばれた母親似のスタイルのよさ、父親似の銀髪と水色の目をしている。その姿は、まるで妖精のようである。
「旦那様。馬車の用意が出来ました。」
「ありがとう、ジル。さぁ、3人とも王城に向かうぞ。」
「「はい。」」
そして、馬車で俺は王都の屋敷から王城へと向かい、お披露目会を行う大広間に来た。
「あれは、辺境伯のところの・・・」
「確か、神童と呼ばれる。・・・」
「ふふ。やはりお兄様は他の貴族からも知られていますね。」
「当たり前だ、シルフィ。貴族ならば14歳から王立学院に自分の子を通わせる。そんな由緒ある学園で、レヴィは入学当初から文武ともに不動の首席。長い王国の歴史の中でも例のないことだからな。」
「シルフィ。さらにいえば、レヴィは魔法に対する全適性持ちで、称号を持っている。どちらか片方だけでも英雄と呼ばれて可笑しくないというのに、そのどちらとも持つとなれば知れ渡って当たり前です。」
「さすが、お兄様です。シルフィもお兄様において行かれないように頑張ります。」
「父上、母上それにシルフィも、そのぐらいにしてシュタルク公爵に挨拶に行きますよ。」
「あぁ、そうだな。」
周りから視線を浴びながら、俺たちは公爵のいるテーブルへ向かう。視線は様々、友好も悪意もその全てを受けても俺は、ただ堂々と歩みを進める。
「シュタルク公爵様。お久しぶりです。グリュキュ・ウォン・ルーカスです。この度は令嬢であられる、ミアバラプナ・シュタルク様の御成人おめでとうございます。」
「あぁ、グリュ。ありがとう・・・。しかし、以前にも言ったが、そんな固い挨拶なんて私達の仲では要らないというのに。」
「一応、公の場だからな、学院の頃からの親友といえど礼から入らないといけないんだよ。」
「難儀だね・・・。私としては学院時代と同じでありたいんだがね。ところで、レヴィ君はまた一段と大人びてきたね・・・。前にあったのは入学式の時だったかな。」
「ありがとうございます、シュタルク様。王国の総務相であるシュタルク様にそう言ってもらえて嬉しく思います。」
「はは、君も肩肘を貼らなくていいのに、もうすぐしたら妻とミアが戻ってくると思うから少し待っていてく「レヴィくん!!」「ッ!!」れ・・・。どうやら、来たようだね。」
背後から幼さの残る可愛らしい、しかし物凄い怒気をはらんだ声が聞こえてくる。
後ろを振り向くと、小柄で黄色いドレスが良く似合うボーイッシュ女性がいる。髪は青みがかった紫で、少し青みがかった瞳をしている。
ミアバラプナ・シュタルク。シュタルク公爵の長女であり、幼少期からの俺の幼馴染みである。
「やぁ、ミア。どうしたんだい?そんなに声を強「言わなければ、分かりませんか?レ・ヴ・ィ・く・ん。」めて・・・。この度は、黙って屋敷を空けてしまい、すみませんでした。」
「披露会前に家族に会いに行くのに帰郷することについては何も言いませんが、ならば一言あって欲しいです。休みに入ってからレヴィくんに会えず、ミアはものすごく寂しく思ってたのですよ。アリナ様もいつも気にしてたんだから。」
アリナとはこの国の第3王女のアイムエル・カリアナのことであり、小柄で少しボーイッシュなミアとは対照的に、かなり女性らしい身体つきで落ち着いた性格をしている。そんな正反対な二人がなぜ仲がいいかというと・・・、
「ミアとアリナ様はまだ公式では無いとはいえ、レヴィくんの婚約者なんだよ。大切にしないと。」
そういうことである。そして、この披露会で婚約は公式のものとなる予定である。有望な俺を少しでも手元に置いておきたい、王国の意図がよくわかる。
「ミア、それについては後でアリナも含めて、しっかりと話すから、そろそろ陛下の話みたいだよ。」
俺とミアが少し高くなったステージを見ると王家の人たちが立っていた。アリナは少し怒った様な顔をしてたが俺やミアに対して手を振っていた。
アリナは15歳とは思えないスタイルをしており、王族特有の赤みがかったピンクの瞳に肩の辺りまである金髪をしている。
そのあまりの美しさに『慈愛の天使』と呼ぶものもいる。
「皆、良く集まってくれた。私はカリアナ王国国王タリスカーク・フォン・カリアナである。今宵は今年15歳となった未来を担う者たちを紹介し合う会だ。我が娘アイムエル・カリアナを含め今年も多くの未来ある若者が集まった。それを祝そう。」
会場は拍手に包まれた。煌びやかなパーティー会場の中でも、王家のいるステージは一層輝いて見えることだろう。
「また、この場を借りて皆に伝えることがある。グリュキュ・フォン・ルーカス辺境伯、並びに、その息子レヴォシオン・ルーカス。前へ。」
「「はっ!」」
俺と父は陛下の御前にて臣下の礼をする。因みに、この国では正式に貴族の党首には、セカンドネームが王家より与えられる。それが忠誠と誇りらしい。
「今回、辺境伯の申し出により成人となった息子レヴォシオン・ルーカスに一部領土の統治権の譲渡を行うこととなった。」
「「「「「「ッ!!!!」」」」」」
披露宴に集まった者が一斉にざわつく。それもそうだろう、最終的には領地を子供が継ぐのは普通だ。しかし、成人したばかりの息子に一部とはいえ統治権を与える事などまずありえないからだ。
「陛下。ルーカス辺境伯のご子息の噂は我々も耳にしております。『希代の神童』、『神の子』。しかし、まだ成人したばかりの学生の身分の者に統治権を与えるなど、賛成しかねます。」
「なるほど、子爵の言っていることも理解できる。「ならば、・・・」しかし、ここにいるレヴォシオン・ルーカスは8年前から都市を一つ事実上の統治をしている・・・。『ルタロス』、皆もこの都市の名は聞いたことがあるのではないか。」
「確かルーカス領の中でも最も北にある都市ではなかったか。」
「あぁ、ここ数年で急成長を遂げた。」
「確か都市政策の大幅改変と大規模な都市開発をしたとか。」
「有名なものだと、奴隷商の公職化か。」
「それに闇ギルドの一斉摘発もあったとか。」
「なっ、ルーカス辺境伯の私兵団はそれほどまでに強力なのか。」
周りの者は口々にルタロスの話題をしている。
『ルタロス』8年前から父上に頼み俺が事実上の統治をしている最北の都市だ。俺の御抱え商人や俺が個人的に集めた兵団を中心に多くの先進的改革を行った都市は、今では、領都に次ぐ大都市である。
「皆、説明は不要のようだな。ここ数年で急成長し、大都市となったルタロスでの功績の殆どがレヴォシオン・ルーカスによるものである。よって、私はルーカス辺境伯の申し出を呑み、ルーカス領の北部の統治権をレヴォシオン・ルーカスに与え、男爵位を与えるものとする。」
「はっ、陛下に与えられたお役目確と果たせて見せます。」
「うむ。期待しておる。」
陛下の言葉の後、俺に対する拍手が鳴り響く。しかし、一部の者からは強い悪意が感じ取れる。まぁ、これはしょうがないね。
「・・・皆にもう一つ、伝えねばならないことがある。我が娘のアイムエル・カリアナ、並びにシュタルク公爵の長女ミアバラプナ・シュタルクをレヴォシオン・ルーカス男爵の婚約者とする事を、この場を借りて、発表する。」
「「「「「「ッ!!!」」」」」」
先程以上の驚きが会場を包む。そして、先程意見を述べた子爵の近くにいた辺境伯が、今度は意見する。王の御膳で、ほんと自由だが、これもよい国造りの結果なんだろう。
「陛下、ルーカス男爵の有能さは先程の話しで理解できました。しかし、公爵令嬢でも前例がないというのに第3王女までもを一代目の、それも成り立ての男爵の婚約者とするなど。それは、納得しかねます。何卒、もう一度、考え直してもらいたい。」
「皆の困惑、辺境伯の意見はよく分かる。なぜ余が今回の件を決めたかと言うと、・・・ルーカス男爵は王冠の所有者だからである。」
「ッ!!王冠の所有者だと。」
「称号持ちとは、聞いていたが。王冠とは・・・。」
「数百万人に一人しかいないという。」
「高位の称号を持つ者など我が国でも現在4人のみ、」
「まさか15歳にして、」
「あっ、あり得ぬ。」
「陛下。それは真ですか?高位の称号は我が国でも王国騎士団長を含む4人のみ、それもその殆どが長年の戦いを経てのものです。最年少の者でも29歳です。まだ15歳のルーカス男爵が本当に所有しているのですか。」
「うむ。男爵、皆に見せてやってくれ。」
「はい。」
俺は立ち上がると掌に魔力を集中させ、黒く半透明な王冠を出現させる。瞳は薄い水色から黄金色に変わる。
『王冠』、それは力の証明。この世界では前世のゲームの称号のようなものがあり、獲た者は魔力を紡ぐ事で象徴した物を出現出来る。その中でも王冠は、高位のものであり、所有者一人で一国に相当すると言われる【国宝】。
「このように、男爵は神に祝福され王冠を所有している。そして、結果も残している。そのため、今後のことも吟味し、今回、この様な形を取らせてもらった。」
陛下の言葉で殆の者は納得をしたのか肯定の沈黙が流れる。面白い事に先程まで悪意を送ってきてた者の中から、悪意とは別に俺を利用しようと考える思考が読み取れる。
「では、挨拶をここまでとし、お披露目会を始めることにしよう。これからの王国の発展を祝し、乾杯。」
「「「「「「乾杯。」」」」」」
そこからの出来事はあまりにも憂鬱であった。多くの貴族や商人が、俺の元へ来て祝福に見せた交渉や嫌味を述べていく。また、娘を側室にと売り出す者もいた、俺との縁を作りたいのだ。正直、とても面倒くさい。
中にはアリナとミアに言い寄る者もいた。俺との婚約破棄を誘導し、あわよくば自分が婚約者となろうとしているのだ。
本当に、嫌になる。
翌日、俺が日課の鍛錬をしていると王城より使者が来ていた。国王が男爵になったことで、貴族としての依頼をしたいそうだ。
「レヴォシオン・ルーカス男爵様。陛下が御呼びです、王城へ来てください。」
俺は身支度を整え王城へと向かう。
王城の応接室に入ると、陛下と鎧を着た大柄な男性が座っている。
「レヴォシオン・ルーカス。招集に応じ、来城しました。」
「おぉ、来たか。まずは掛けてくれ。」
「失礼します。それでどういたしましたか。」
「それが、数年ほど前から東区の商人街で闇ギルドによる人攫いが起こっておったのだが、ついに貴族街にも手が伸びたようでな、数人の貴族の子供が昨日の晩から姿を見せてないようだ。」
「なるほど。しかし、なぜ私が呼ばれたのでしょうか。それだけであれば、王国騎士団での対応になると思うのですが。」
俺は国王の横に座る騎士に目を向ける。
「それがな、攫われた子供の家の殆どが昨日の会をもって、貴族派から王族派に派閥替えをした貴族ばかりなのだ。そのため、騎士団の方では貴族派の一部の者が、お抱えの商人を通じ依頼した線で調査と貴族の動向監視を頼もうと思っておる。」
なるほど、俺が王冠の所有者であり、王女との婚約が決まった。これで王族は二人の王冠の所有者を陣営に組み込めたことになる。貴族派よりも王族派に付くほうがいいのは分かりきっている。特に男爵や子爵などの下級貴族なら尚更か。
陛下がそう話すと、隣に座る隆起した身体と高身長、シンプルながら使い込まれた鎧を纏った男性が話しだす。
王冠と同等の希少性『国宝』、『聖大楯』の所有者にして『カリアナの盾』と呼ばれる騎士団長、グローディア。歴代最高峰の騎士団長らしい。
「我々、騎士団の手が足りていません。そこで、救出と討伐部隊をルーカス男爵の持つ私兵団にお願いしたいのです。陛下に聞いたのですが、多くの闇ギルドが縄張り争いをしていた。ルタロスにて、男爵の私兵団はその全ての捕縛に成功していると聞いたのです。」
「確かに自分の私兵団は情報収集からの討伐、捕縛は得意としてます。しかし、人質の救出は別です。現にルタロスでは、救出できたのは全体の数%でその多くは手遅れでした。」
「それでもお願いしたい。今回はこれ以上の被害の拡大を防ぐことに重きを置いている。2週間すれば学院が新学期を始める。それまでには終わらせたいのだ。辛いが人質は今回は優先度が低いのだ・・・。」
この世界、悲しくも命に比重がある。平民の命と貴族の命が同価値でないのだ。今回の事件、貴族にこれ以上被害を出さないために、早期解決を大事にしているようだ。
「・・・。わかりました。では、ルタロスより、兵団を呼び寄せます。こちらにいる者たちで情報収集をさせていただきますので、10日程下さい。その間に終わらせます。犯人の生死はどうしましょう。」
「そこは特に問わない。ただ、主犯格の首は持ってきてもらいたい。また、契約書等の証拠品はしっかりと抑えておいてくれ。」
「ルーカス男爵よろしく頼む。」
「承知しました、陛下。」
7日後、俺は王城の応接間にて、陛下と騎士団長、父上、シュタルク公爵と作戦の最終確認をしている。
「昨日の晩、自分の私兵団が王都に到着。敵に悟られないため、分散と変装にて王都入りしました。しかし、少し警戒を与えてしまったようです。」
「そうか、作戦は予想以上に難しいものになるかもしれないな・・・。」
「いえ、情報もある程度集まりましたので、明後日の日付変更の直後に突撃します。」
「了解した、ルーカス男爵。ここで騎士団の方から少し確認がある。」
「はっ、男爵。ここ7日間で当初の想定とは異なり、王族派からだけでなく、貴族派からも一部誘拐にあっている。騎士団の方でも犯人の追跡を試みたが、かなりの腕で尽く逃走を許してしまっている。」
「騎士団の追跡を撒くとなると、生半可な腕では無いな。レヴォシオン男爵、私の兵団も加勢したほうが良いのでは無いか?」
「そうだな、レヴィ、私の方でも王都に駐屯している者たちで加勢することができるぞ。」
敵の腕前を聞いて、父と公爵も助力を申し出てくれる。
「シュタルク公爵も父上も加勢は心配ありません。100%捕縛となると難しいですが、今回は殺しを許可されているため、自分の兵団の得意としているものです。また、騎士団長。貴族派の一部誘拐に関しては、貴族派に疑いが掛かっているという噂に対する対策としてのものなので、気にする必要はありません。事実、誘拐された貴族はのほとんどは、辺境の騎士爵、男爵、子爵の関係者ばかりです。」
俺は、被害情報をまとめた資料を見せる。そこには、王国北部を中心とした貴族関係者が被害にあっていることが記されている。
「そうであったか、ならば作戦決行まで我々は監視を続行させてもらおう。」
「して、ルーカス男爵は当日はどのように動く予定なのだ。」
「はい。情報によると今回の事件を起こした闇ギルドは元々、北の隣国バンヴァウ協議国を本拠地としてた『夜風』です。拠点は4つで、3つが王都内、1つが王都外の山の中にあります。人質の内約2割が王都外の拠点に連れて行からていると考えられます。そして、王都内の内、スラム街にある拠点は完全にセーフハウスが目的のようで、人の姿は殆どありませんでした。そこで、スラム街の拠点は20人程で制圧、貴族街と商人街にある拠点はそれぞれ140人ずつで制圧にあたります。王都外の拠点に対しては、残りの100人と自分で制圧するつもりです。」
「なるほど、確かにレヴィの『王冠』を使えば効果内の広範囲索敵ができるため、100人という少人数でも、山の中の拠点を制圧することは可能だな。」
「それに、この資料を見る限り各拠点の戦力に見取り図まである。かなり優位に立ちながら戦えるだろう。レヴォシオン男爵の私兵団はかなり優秀のようだ。」
「ならば騎士団で手の空いている者には、作戦時の周囲の安全確保に動かせるとしよう。」
「それはありがたいです、騎士団長。救出と討伐に兵を集中させられます。」
「よし、ではルーカス男爵その作戦でよろしく頼む。」
「はい。」
俺が応接室から出て廊下を歩いていると、自室から顔だけを出すアリナから手招きをされる。
「どうした?アリナ。」
「いえ、会議の詳細が気になりまして、愚者さんたちは楽しく踊ってくれましたか?私の王様♪」
アリナは顔に影がかかり不気味に笑う。
そこには『慈愛の天使』と呼ばれる王女の姿は無かく、あるのは何処までも邪悪で不気味な笑顔である。しかし、その声は悪戯をする子供のようだ。
7日前、俺は王城を出て直ぐに屋敷の裏小屋に行った。そこには、黒いマントを羽織った女性が跪いていた。
かなりスタイルがよく、マントの上からでもその体のラインが分かる。また、ちらりと見える耳は少し尖っており、彼女がエルフであることが分かる。
「ご主人様、次のターゲットは決まりましたか。」
「あぁ、昨日の晩に貴族の子供を誘拐した闇ギルドだ。今回は陛下からの依頼でもあるから、ある程度は自重して作戦を行わなければならないが、折角の機会だ。邪魔な下級貴族にも少し痛い目にあってもらうとしよう。」
「はっ、ではその闇ギルドの情報収集、ルタロスにいる兵たちに招集を掛けて、我々で意識の誘導を行います。いつ頃の到着がいいでしょうか。」
「この間の実験で生まれた植物性魔物を使えば、情報収集は2日で終わるはず。なら、その後の2日で闇ギルドを潰し、そこから2日は闇ギルドのフリをして、邪魔な政敵への妨害を行う。なので、本軍の合流は7日後としよう。<アモン>、連絡を頼む。」
「全ては王の為に。では、失礼します。」
アモンは陽炎のようにその姿を闇に消す。
俺はそのまま壁にある棚の前に立つ、指で円を描くと棚が動き、地下への階段が出てくる。暗く先の見えない階段は、まさに地獄への階段のようである。
「さて、プラントはどうかな。・・・【ライト】。」
俺の手から光の玉が現れ、薄暗い地下を照らす。階段を降り地下室を進むと、そこには多くの人が植物性魔物の苗床となり並んでいる。
そこに、男女の区別はなく。一部のものはまだ精神が壊れてなく、泣き叫んだり、発狂したりしている。また、一部では種子の成長により膨れた腹を愛おしく擦るものもいた。そして、精神を壊したものは少しずつ魔物に捕食され始めていた。
地獄絵図、無駄に奇麗にされた壁や床が、その空間の不気味さを増す。
「確か情報収集関係の種子は1086番から1258番の苗床で量産体制を構築してたな。どれが今回の作戦では使えるかな?拘束関係の種子も必要か?」
そうして、俺は魔物プラントを見て回る。その姿は、年相応であり、まるでおもちゃを選ぶ子供のようだっただろう。
そして、3日後俺は<アモン>率いる『インペリア』、<アンドラス>率いる『暴狼』、<ビフロン>率いる『ジオ』、<キマリス>率いる『ブラックナイト』の計40人で闇ギルドの各拠点を潰す作戦を実行する。
「主♪この拠点にいる奴らは全員絞めたよ♪何人か殺しちゃったけど、別にいいんだよね♪」
「あぁ、別に構わないよ、<アンドラス>。ありがとう。」
「へへぇ〜♪♥」
<アンドラス>はミニスカ軍服の可愛らしい姿に反して、誰よりも壊滅的な現場を作り出す、王都外の拠点に連れてきて正解だった。まさか、開戦直後に敵拠点を半壊させるとは・・・。
<アンドラス>は狼の獣人。中でもかなり希少なフェンリルの獣人である。産まれた時から俺が直接、育てただけに殺伐とした事を喜々とやってのける、5歳児に育った。
「お前たち、何が目的だ。その格好、軍の奴らとは違うだろ。他の闇ギルドか。」
あぁ折角、可愛らしい<アンドラス>を見て癒やされていたというのに、この蛆蟲は汚い声をしやがって。おとなしく、転がっていればいいものの。
それに、<アンドラス>の前でそんな話し方をしたら、
「おい、お前。主様にその話し方はなんだ。そんなに早死したいのか?」
「落ち着け、<アンドラス>。その短剣を仕舞え。今からが楽しいんだからな。」
「はっ♪」
「さて、質問に答えてやる。お察しの通り、軍じゃない。しかし、俺たちは闇ギルドでもない。だが、あんたらを潰す過程で俺たちに、いや、俺に利益になる。ただそれだけだ。」
「ちっ。」
拠点にいた幹部はこの蛆虫状態にされた男だけか。
おっ、丁度状況確認に出てた奴が戻ってきたな、あの女はなんて名前だったか。
「おい、お前。状況を話せ。」
「・・・。」
「おい、ギーゼラ!主が質問しているのだ、答えろ。」
ふむ、やはり従属魔法で縛ってるとはいえ、反抗的な考えの奴は居るわな。
ギーゼラ、数年前に潰した商人の娘だったか。確か母親の方は調教中に壊れたんだったか。まだまだ反抗的だから狂信者の<アンドラス>の部隊に入れられたわけか。
「まぁ、待て<アンドラス>。ギーゼラ、反抗するのは構わないが。また、地下室での調整をされたいか?なぁ、ギーゼラ・・・。」
「ッ!!すみません、ご主人様。現在、人質はご主人様のリストにいたものとそれ以外とで分けて部屋で待機させています。また、この拠点にいた闇ギルドメンバーは全部で124人、内37人が死亡しました。」
俺は、少し威圧的に話すとギーゼラはガタガタと体を震えさせて、答える。
「残ったメンバーの内訳はどうなっている。」
「はい。87人が男、10人が女でした。また、最年長で53歳、最年少で21歳でした。」
「そうか、どうするか。今は苗床も実験体も足りているし、手下には要らないしな。」
「主♪なら、久しぶりにゲームをしようよ♪ここのところ出来ていなかったじゃないですか♪」
「ヒッ・・・。」
「ゲームだと。女なんの事だ。」
「いいな、<アンドラス>。ギーゼラ、チェスをする。そうだな、男57人、女10人を拠点『エリア1』に転送。残りは、・・・<アンドラス>殺せ。」
「はっ、全ては王の為に。」
「りょ、了解しました、ご主人様・・・。」
「おい、さっきから何を話してやがる。ゲーム?チェス?俺の子分をどうする気だ。」
「あぁ、関係ないだろ。お前は死ぬ、俺はお前から奪ったもので遊ぶ。暇潰しに。ただそれだけだ。」
「なっ!ふざけんな、あいつらはお前の玩具じゃないんだぞ。」
「はぁ、うざい。俺は支配之王。この世界は俺の世界だ、ならそこに居るものをどうしようが俺の自由さ。お前だって攫った人の人生を破壊してきただろう。何も変わらない。安心しろ、最後まで有効活用する。」
俺が幹部を殺そうとすると、部屋に片方が半分千切れたうさ耳の少女が入ってきた。彼女も<アンドラス>とデザインの似ている軍服を着ている。
「あ・る・じ♪作戦終了♪後処理も済んだから、部隊の皆が撤収の指示を下さいだって。」
「レオニー。いい所に来たな、俺は指示をしに向かうから、こいつで遊んでやれ。」
「いいの♪」
「あぁ、だが首から上は、証拠として提出する予定だから状態保存の魔法を掛けて保存をしてくれ。」
「は〜い♪それじゃあ、おじさん私と遊ぼうか♪おじさんは、簡単に壊れないといいな〜♪いい声で鳴いてね。」
俺が部屋を出ると部屋から男の発狂が聴こえてくる。レオニーは、人を嬲り、その声を記録し、複数の声を使って狂気な音楽を作って楽しむ趣味がある。やつも、新たな音源として、嬲られることだろう・・・。
俺はその足で現場の指揮をして、屋敷へと戻る。
現在ーーー
「どうした?アリナ。」
「いえ、会議の詳細が気になりまして、愚者さんたちは楽しく踊ってくれましたか?」
俺は笑いながら答える。彼女は、俺の裏の面に気づいた上でそれに協力しているのだ。曰く、その側面も含めて、惚れたらしい。
「あぁ、後は当日に『パラディナイト』と『福音』、『ロザリオ』で各拠点の掃討を演じるだけだ。アリナの部隊は仕事を終えたのかな?」
「えぇ、レヴィ様。いえ、私の王様。こちらの仕事も終えたわ。『レジーナ』のみんなが頑張ってくれたもの。」
『レジーナ』、アリナを隊長とした部隊で隊としては一番の少数ではあるものの、オールラウンダーな実力者で揃えられている。貴族社会の情報収集、アリナの身辺警護が主な任務である。
「そうか。ならこの事件後は、家族も領地に戻るから、通常の状態に戻せる。屋敷の者に設備の確認をするように伝えておいてくれ。俺は今から明後日の部隊に合流して、作戦を詰める予定だ。」
「分かったわ。全ては王の為に。・・・ところで次のターゲットは決まってるのかしら?」
「あぁ、次は・・・ミアの兄のベネト・シュタルクだ。」
明日も続くGW企画
この作品を連載作品にしたいと思った方は
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この作品の運命は、君が決めよう!
いつもはYouTubeで活動してます。
別投稿作品の「神々の観る世界 神々に魅せる世界」の裏話や挿絵、紹介動画なんかもしていくつもりなので、そちらも見に来てください。
https://www.youtube.com/channel/UC3wzuZXPJ0Izmji-vlTWgdg