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百物語  作者: 灰色狐
3/3

りくちゃん

高校生の頃の話。

その日はテストで、お昼には学校が終わり、歩いて家へ帰る途中だった。

まだ梅雨だというのにとても暑くて、セミが鳴いていた。

川沿いの道を歩いていると、突然右手をギュッと握られた。

「わっ!なんだ??」

いつの間にかすぐ隣に小さな男の子が居て、僕の右手を握っていた。

3~4歳くらいだろうか、少年は暑いのに長袖のトレーナーに長ズボン姿だった。

「どうしたんだ?」「お母さんは??」

僕が問いかけると、少年はパッと顔を上げて僕を見た。

すごく可愛い顔が、ニコっと笑うと

「〇※=※××◎●:?」

と、何かを喋ったが聞き取れなかった。

「名前は?」「どっから来た?」「僕の言うこと分かる??」

少年とコンタクトを取ろうと語りかけるが、彼はニコニコするばかりで答える気はなさそうだった。

「こっち!こっちだよ!!」

不意に少年が僕の手を引いて歩きだした。

僕をどこかへ連れて行きたいようで、ギュッと握った手をぐいぐい引いてゆく。

「なになに?なんかあるのか??」

1キロも歩いただろうか、川は緩やかにカーブしていて、内側は草が生い茂っている。

「こっちだよ!」「あそこ!あそこ!!」

少年は土手を降りて、草むらを指さしてそこへ行くように言う。

「ええっ?そこ入るの??」

僕の腰上ほどの草が茂る中へ、少年は引っ張って行くと、突然ピタっと止まった。


「りくちゃん、※●×*◎☆\\おちたの」


「ん?りくちゃん??君、りくちゃんっていうの??」


「りくちゃん、ここまでながれた」


「ながれた?何がながれたの?」


「りくちゃんはね、ここなんだよ」


少年は握っていた僕の手を離して、ガサガサと音を立てて草むらを進んでいく。

「おーい、そこ危ないから、あんまり奥にいくなよー」

少年の姿が見えなくなると、不意に嫌な予感がして大きな声で少年に呼び掛けた。

草をかき分けながら進むと、足元で「ベシャッ」と水音がした。湿地のようになっている場所まで入ってきてしまったらしい。

「おーい、もう戻るよ~!」

少年に向かって呼びかけながら足を進めていると、不意に柔らかいものを踏んだ感触がした。

うわっ・・と思いながら足元を確認すると、赤黒くてブヨブヨした何かが、激しくハエを集らせていた。


「うぇ・・っ、なんだこれ・・!!」


その何かは、1メートルくらいで、長ズボンを穿いていて、片方だけ靴を履いていた。

鼻を刺すような悪臭が、生き物の死骸であることを物語っていた。


「───────────っ!!!」


驚きのあまり声も出せず、僕は全速力で草むらを出て、土手の中腹まで戻ると慌てて110番をした。

後日聞いた話では、あの川沿いの草むらにあったものは、3か月ほど前に行方不明になった幼児の遺体だったそうだ。


A山 陸〇 君という、笑顔が可愛い男の子だった。


りくちゃんは、僕に見つけてもらいたかったのだろう。

今でもまだ、りくちゃんが握りしめた時の感触が僕の手に残っている。

今はただ、あの子が天国へ行けたことを祈るばかりだ。

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