りくちゃん
高校生の頃の話。
その日はテストで、お昼には学校が終わり、歩いて家へ帰る途中だった。
まだ梅雨だというのにとても暑くて、セミが鳴いていた。
川沿いの道を歩いていると、突然右手をギュッと握られた。
「わっ!なんだ??」
いつの間にかすぐ隣に小さな男の子が居て、僕の右手を握っていた。
3~4歳くらいだろうか、少年は暑いのに長袖のトレーナーに長ズボン姿だった。
「どうしたんだ?」「お母さんは??」
僕が問いかけると、少年はパッと顔を上げて僕を見た。
すごく可愛い顔が、ニコっと笑うと
「〇※=※××◎●:?」
と、何かを喋ったが聞き取れなかった。
「名前は?」「どっから来た?」「僕の言うこと分かる??」
少年とコンタクトを取ろうと語りかけるが、彼はニコニコするばかりで答える気はなさそうだった。
「こっち!こっちだよ!!」
不意に少年が僕の手を引いて歩きだした。
僕をどこかへ連れて行きたいようで、ギュッと握った手をぐいぐい引いてゆく。
「なになに?なんかあるのか??」
1キロも歩いただろうか、川は緩やかにカーブしていて、内側は草が生い茂っている。
「こっちだよ!」「あそこ!あそこ!!」
少年は土手を降りて、草むらを指さしてそこへ行くように言う。
「ええっ?そこ入るの??」
僕の腰上ほどの草が茂る中へ、少年は引っ張って行くと、突然ピタっと止まった。
「りくちゃん、※●×*◎☆\\おちたの」
「ん?りくちゃん??君、りくちゃんっていうの??」
「りくちゃん、ここまでながれた」
「ながれた?何がながれたの?」
「りくちゃんはね、ここなんだよ」
少年は握っていた僕の手を離して、ガサガサと音を立てて草むらを進んでいく。
「おーい、そこ危ないから、あんまり奥にいくなよー」
少年の姿が見えなくなると、不意に嫌な予感がして大きな声で少年に呼び掛けた。
草をかき分けながら進むと、足元で「ベシャッ」と水音がした。湿地のようになっている場所まで入ってきてしまったらしい。
「おーい、もう戻るよ~!」
少年に向かって呼びかけながら足を進めていると、不意に柔らかいものを踏んだ感触がした。
うわっ・・と思いながら足元を確認すると、赤黒くてブヨブヨした何かが、激しくハエを集らせていた。
「うぇ・・っ、なんだこれ・・!!」
その何かは、1メートルくらいで、長ズボンを穿いていて、片方だけ靴を履いていた。
鼻を刺すような悪臭が、生き物の死骸であることを物語っていた。
「───────────っ!!!」
驚きのあまり声も出せず、僕は全速力で草むらを出て、土手の中腹まで戻ると慌てて110番をした。
後日聞いた話では、あの川沿いの草むらにあったものは、3か月ほど前に行方不明になった幼児の遺体だったそうだ。
A山 陸〇 君という、笑顔が可愛い男の子だった。
りくちゃんは、僕に見つけてもらいたかったのだろう。
今でもまだ、りくちゃんが握りしめた時の感触が僕の手に残っている。
今はただ、あの子が天国へ行けたことを祈るばかりだ。




