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百物語  作者: 灰色狐
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穴のある家

私が子供時代に住んでいた家のことです。

その家は異様な間取りで、真ん中に四畳半くらいの土間の部屋があり、そこには蓋のないマンホールのような穴がありました。

その穴からはとても不気味な雰囲気が漂っており、家族はみんな近づきたがりませんでしたが、唯一、祖父だけは毎日盛り塩をしてお祈りをしていました。

私が5歳くらいの頃、なかなか抜けなかった歯がやっと抜けて、血まみれになった口を濯ごうと洗面所へと歩いていると、不意に穴の部屋から声が聞こえてきて、私は抜けた歯を握りしめたまま穴の部屋をそっと覗きました。

穴の部屋には見たことのない着物姿の綺麗な女性がいて、微笑みながら私を手招きしていました。

初めて見る人でしたが、とても優しそうな雰囲気に釣られて、私は穴の部屋へ入ってしまいました。

女性は歯が抜ける痛みに耐えた私を褒めてくれて、「抜けた歯はそこの穴の中へ投げればいい」と穴を指さして言いました。

私は言われるがままに歯を穴の中に放り投げました。

すると、ドカドカと大きな足音を立てて祖父が部屋へ入って来て、

「穴に何を入れた!!」

と強い口調で問い質されました。

私はそこの女性に言われた通りに抜けた歯を穴の中へ投げたことを言うと、

「お前は魅入られたから、もうこの部屋へ近づいちゃならん」

と言われ、それ以降は穴には近づかないよう気をつけるようになりました。

いつの間にか女性は消えてしまい、祖父に女性のことを聞いても何も教えてはくれませんでした。


そんな記憶も薄れかけたある日、中学生になった私は父親とケンカしてしまい、父親への反抗心から思わず穴の部屋に入ってしまいました。


すると、穴の中からうめき声のような音が聞こえたような気がして、穴へ近づき聞き耳を立てると、穴の中から何かが凄い勢いで飛び出してきました。

人の顔ほどの大きさをしたそいつは、黒くてブヨブヨしていて、私の右耳にベチャッと張り付きました。

驚きのあまり声も出せないまま尻餅をついた私に、そいつは老人のような声で私に語りかけました

「コレ、チョウダイ、コレ、チョウダイ」

私は恐怖で体中を硬直させて、ガクガクと壊れた機械のように震えていました。

すると、ヤツは私の右耳から離れて、グチャっと嫌な音を立てて土間の床に落ちました。

「トッタ!トッタ!」

黒い塊のようなヤツから再びしゃがれた声が聞こえたかと思うと、ヤツがニヤニヤ笑っているような気がしました。

ニヤけた口元のような場所には、乳歯のようなものが1本付いていました。

それを見た瞬間私は意識を失ったようで、気付いた時には病院で寝ていました。

その出来事以降、右耳だけが聞こえなくなってしまいました。


それから3日後、元気だった祖父が突然亡くなりました。

祖父は私が穴の部屋で倒れた後、家族が留守にしている間に穴を埋めようとして、穴の中へセメントを流し込んだところで、心不全を起こしたそうです。

祖父の葬儀が済んですぐ、悲しみに暮れる暇もなく、私たち家族は逃げるように引越をしました。


今でもあの家での出来事は強烈な体験として私の記憶に残っています。

あの穴の中から飛び出してきたモノは一体何だったのでしょうか。

祖父が亡くなった今ではもう、ヤツが何者なのか、あの穴は何なのかを知る人は誰も居なくなってしまいました。

子供時代の思い出として、その家での出来事は私の右耳と心に深く刻まれています。

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