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第二話 再開

 警官と蔵田は僕を追いかける様に湖まで飛び出し、驚いたような表情をしていた。ナイフについた針から出る毒の様な液体を振り払い、稲見をかばう様にして立つ…


「葉月…先輩?」


 すると、微かに色々な所から声が聞こえた…そこから察するに5人だろうか。僕達の他に生き残ったのは。

 集中が驚きによって解かれたグラーキは不意に夢引きをやめたのだ。すると、人間の様に厚い唇から人の声がする…


「キサマカ…我ガ眷属ヲコロシ…ソシテ、我ガ眷属ヲ生ミ出ス邪魔ヲスルノハ…」


 グラーキは沢山ある三角形の足を用いて僕に突進しようとした。その速さはナメクジの様な身体から想像できない物だ。僕は稲見を抱き、身体を横に転がして何とかそれを回避した。少し安心した様子でグラーキの方を振り向くとそれはすぐに僕の方を向き、こちらに向かって突進しようとしている。僕は身体を倒したままの状態からとっさに銃を構えてそれをグラーキの口に目掛けて3発撃った。すると、グラーキに隙が生まれ、その間に立ち上がりながら蔵田と警察に稲見を安全な場所まで連れていく様に頼んだ。


「分かった!待ってろよ!」


 彼らは急いで僕と稲見の所まで走り出したが、湖から新たな気配を感じた。恐る恐る、湖の方を向くとそこから沢山のゾンビが出てくるのが見えた。


「我ハ1シカ居ラヌガ…我ガ眷属ハ無数ニ近イ程居ルゾ…」

「僕はこのゾンビを止めておくから、君は早く女の子を助けるんだ!」


 蔵田は頷くずに、ただ警察に従って稲見を助ける為に僕の方まで走って行った。しかし、それに気を取られている最中に自分の方にもゾンビが這い寄って来る。


「貴様ラハ…許シガタキ罪ヲ犯シタ…貴様ラハ…我ガ眷属にスルマデモナイ…我ガ眷属ノ糧トナレ…」


 僕も警察も迫り来るゾンビの大群を追い払うしかなかったのだ。唯一動けるのが蔵田のみ…


「チッ…このナメクジ野郎が!稲見ちゃん、待ってろよ!今助けてやっからな!」


 蔵田は迫り来るゾンビを殴り倒しながら、稲見の方まで向かう…


――これなら行ける…


 そう思ったが、気が付くとグラーキはいつの間にか蔵田の前まで移動していた。


「観念シロ…愚カデ軟弱ナル人間共ヨ…人間如キガ“旧支配者”デアル…グラーキヲ…超エラレルト…思ウナ…」

「うるせぇんだよ!てめーなんざ俺がぶっ潰してやるぜ!」

「我々旧支配者ヲ前ニシテ…ココマデ精神ヲ保テル人ヲ我ハ初メテ見タゾ…ナラバ見セルガイイ…汝ノ力ヲ…」


 すると、蔵田くんは軽く笑った。


「いいやがったな?後悔しても俺はしらねぇぜ?」


 蔵田くんは手先をグラーキの方へ向けた。


「来い。"ホノカグツチ"」


 すると、蔵田くんの前に全身に炎を帯びた巨大な赤ん坊が立っていた。その大きさはグラーキと引けを取らない程だ。


――生まれながらにして罪を背負い、父に殺された私が蘇り再び日本へ降り立つ時が来たか…いや、ここは偽の日本か…まぁ、良い。私は汝に仕えよう…


 すると、ホノカグツチはオーカスに拳を振りかざすが、その拳は二つの触手で受け止められた。しかし、全身に炎をまとっているホノカグツチの拳にグラーキの手は焼きつくされようとしている。


――行け、人の子よ。救うのだ

「ありがとよ。神様」


 ホノカグツチに礼を言うと、蔵田くんは再び稲見ちゃんの方まで走り出した。


「コレデハ…我ガ旧支配者トシテノ価値ガ…救イハサセヌ…」


 グラーキはカグツチの拳を受け流した後に、すぐ蔵田くんを追ったが、蔵田くんの方が一足早かった。蔵田は僕と稲見のすぐ傍に来た後、オーカスの死に物狂いの突進を、僕と共に横に走って避けた。


「へっ、ざまぁ見やがれナメクジ野郎が!」


 何とかグラーキの手から稲見を救いだした僕と蔵田だったが、グラーキはまだ諦めていなかった。少し間を置いた後、ゆっくりと僕たちの方を向いた。


「何故ダ…何故貴様ラ人間ガ悪魔ヲ召喚デキル…!」


 グラーキの静かな怒鳴り声に辺りが沈黙するが、それが暫く続いた後にグラーキは納得したような表情になり、野太い声を出す。


「ソウカ…死シテナオ…夢見テ我ラノ邪魔ヲスル男ガ……オノレ!ドウヤラ貴様ラガココカラ生キ残ル手段ハ無クナッタヨウダ!我ガ貴様ラヲ喰イツクシテクレル!」


 力強く怒鳴ったグラーキは蔵田くんに向かって眷属であるゾンビすら巻き込みながら突撃した。その早さはとても避けられる早さではなかった。僕はイザナギを召喚し、必死に走り出しているオーカスの横腹を矛で斬らせた。


「何ダト…“夢見ル者”ハ一人ダケデハナイノカ…」


 オーカスは尻尾を豪快に振り回そうとしたが、そこに警官の銃弾が何発か命中し、オーカスにかなりの隙が生じた。


「とにかく稲見ちゃんを安全な場所に…」


 すると丁度、5人位の人がここにやってきた。


「何だこの悪魔は!」


 グラーキに圧倒された人に蔵田は稲見を連れながら急いで近づいた。


「すいません!この子を少しの間守ってやってください!」

「わっ、分かった!」


 稲見を預けた蔵田はすぐにグラーキを倒そうと湖に戻るが、稲見は彼を呼びとめた。


「先輩!一体何が起きたんですか!」

「今は後にしてくれ!後でゆっくり話してやるから!」


 蔵田が戻った後に、遂に怒り狂ったグラーキは背中にある針を全て伸ばし、僕と蔵田を串刺しにしようとしたが、イザナギは矛を使ってそれを全て弾いた。


「何ダト…我ガ攻撃ヲ全テ凌グトハ…ダガ汝ハ旧支配者トノ因縁ヲ結ンダ…コレハ後ニ後悔スルゾ…ダカラ…」

「うるせー、ナメクジ野郎。てめーなんざ、いっそ焦げちまえ」


 蔵田くんが軽く微笑むと、グラーキに近づいたホノカグツチは両手を強くオーカスに顔に抑え込んだ。


「グオオオオッ…貴様ラハ…イズレ…後悔スルゾ…」


 いずれ、旧支配者と名乗ったグラーキは焼かれるどころか真っ黒に焦げてしまった。イザナギもホノカグツチも役目を終えた様にそれぞれの元へ還った。

 僕たちは同時に安心したように溜息をつく…


「ったく…とんだ野郎だったぜ…」


 とりあえず今は稲見を呼んでこれまでの事情を話さなければならない。そう思うと、5人の集団と稲見が安心した様にこちらへ来た。ゾンビもグラーキの突進によってほとんどが倒れたが、まだ生き残りがいる。僕たちは集団と共に安全な場所まで進んだ。


――◇――


「あの…先輩、おまわりさん。助けて下さってありがとうございます…」


 稲見は5人の集団と共に頭を深く下げて礼を言った。それに対し、蔵田は軽く笑い口を開く。


「あっ、いえいえ…こちらこそ、稲見を親切に守って下さってありがとうございます」


 それから暫くした後、警官が話を割り込むかのように口を開いた。


「助けてもらっていきなりで申し訳ないんですが…これまで貴方達に何があったかを教えてもらえませんか?」


 警察は5人の生き残りに一人づつ聞き込みをしたが結局、貴重な情報は見付からなかった。


「やっぱ誰も知らねぇのかな…羽嶋も見つかってないけどゾンビには紛れてなかった様だし…稲見ちゃんは何か知っているのか?」

「私も何も知らないです…何か怖い夢を見ながら歩いている様な気がして気付いたら、先輩が悪魔から私を守ってくれました。私も一つ聞いてもいいですか?先輩が出したのは一体…」

「俺もよくわかんねぇんだ。ある時気が付いたら使えるようになったっていう所かな。どうやら俺たちは悪魔を召喚できる様になったらしい」

「悪魔を…召喚…」

「まぁ、多分だけどお前も使えるようになってると思うぜ。とにかくもうこんな公園から抜け出そうぜ」

「そうか…君たちもいつまでもこんな所にいるという訳じゃないか…じゃあ僕と行動を共に…」


 突然、どこからかノイズが聞こえた。


「ごめん。僕の無線機からだ。ちょっと待ってて」


 警官は腰につけていた無線機を取り出す。すると、無線機からノイズを含んだ声が聞こえた。


――聞こえますか。もし、この無線を聞いている人がいるならば九頭公園の傍に位置する"九頭高校"まで来てください。この騒動をについて少し情報を手に入れました。もし、この無線を聞いている人がいるならば九頭高校まで来てください。頼みます


 通信は切れた。ノイズを酷く含んでいたのでよく分からなかったが、あの無線から出てきた声は羽嶋くんの物と近い。


「どうやらまだ生存者がいたようだね…僕たち警察も悪魔に何人かやられたから、誰かが連絡を取るという予想はしてたけど…」

「多分、無線掛けてきたのは俺のダチかもしれねぇっす。これで闇雲に歩きまわって探す手間を省けるといいんですけどね…」

「友達か…じゃあ、あまり役には立てないと思うけど僕も一緒に行こう。僕の名前は"市川信一"だ。君たちは?」

「俺が蔵田明義で、こいつが葉月彰二で、この女の子が稲見麗子です」

「蔵田くんに…葉月くんに…稲見ちゃん…ね。分かった!じゃあ一緒に行こう」


 僕が「分かりました」と言おうとすると、突然強烈な眠気が僕を襲った。


――◇――


 目の前に悲しい表情をした仮面を被った男が立っていた。どうやら、またこの男に呼び出されたらしい。


「君は旧支配者の一人であるグラーキに出会い、そして退けた様だ。だが、彼を倒したという事は君たちの魂はどちらかが倒れるまで“グレート・オールド・ワン”との永劫の戦いを繰り広げなければならない。

 まずは悪夢から目を覚ませ…その方法を知る者が“九頭”にいる…」


――◇――


 僕たちは警察や生き残りの人たちと共に九頭公園を去り、九頭高校に向かってひたすら歩いた…予想はしていたがやはり外も代々木公園と変わらぬ地獄絵図だった。道路のあちこちに小さい炎が勢いよく燃えていたり、悪魔にやられたと思われる死体が3体くらいある…僕はこれらを見て、全てに対する恐怖を感じ取った。

 "悪魔を召喚する力"を手に入れてもそれを凌ぐ悪魔に殺される予感がする。僕たちは運よく、弱い悪魔の集落にいたから生き延びる事が出来たのかもしれない。それに、何処もこんな所では未来永劫の戦いをしなくてはならないのか…そんな思いだけがあった。


「葉月ぃ、着いたぞー」


 僕ははっとなって前を見上げた。見上げた先は紛れもなく、僕たちの学校である九頭高校の門だ。しかし、ざっと見た感じだと誰一人集まっている感じがしない…


「どうやら生きていたようだな…安心したぞ」


 その声は横からだった。そっちを振り向くと、そこには羽嶋くんと派手な服装をした不良がこちらに向かって歩いている。


「羽嶋!お前、無事だったんだな!」

「あぁ、変な力のおかげだけどな…」

「変な力…?悪魔を召喚する力の事ですか?羽嶋先輩」

「そうだが…もしかして、お前たちもその力を使って生き延びたのか」

「まぁ、そんなもんだなぁ…それでもナメクジみてぇな悪魔には結構手こずったけどな」

「…とりあえず、この門の裏には倉庫がある。そこで話そう」

「ん?後からまた無線聞いたのが集まって厄介なことになるんじゃねーの?」

「そうか…だが、下手に外で話せる話ではない」

「じゃあ僕が見張っておくよ」


 そう名を挙げたのは市川だった。


「ほんとにいいんすか?悪魔も襲ってくるかもしれねぇし…」

「最悪の事態を逃れるためさ」

「…分かりました。じゃあ任せますぜ」


 そうして僕たちは門の裏に回り、その中の倉庫まで向かった。他の生き残りの人は全員保健室に避難したが、羽嶋が連れた不良だけが遅れているのを稲見が見ると、彼女は彼に一声かけた。


「そんなに離れると悪魔に襲われるよ」

「うるせぇんだよ。カスが」

「……」


 不良はさりげなく裏口から倉庫にではなく校舎に入った。


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