Before Part Epilogue
葉月たちのいる悪夢の世界ではない、現実の冴川区――そこのとある地域に一つの気味の悪いレンガ建ての修道院が建ってあった。そこの二階で黒いコートの男、つまり鷺月が古いラジオを聴きながら、異様なまでに苦いブラックコーヒーを啜っていた。もっとも、彼はそんなに苦いとは思ってないだろうが。
ちょうど、ラジオでは心当たりのある事件についての情報が伝えられていた。
『速報です。今日の朝8:00頃から続いている、バイオテロと思われる事件についてですが――ただいま、バイオテロの被害者の大半の死亡が確認されました。最初の段階では3000人でしたが、現時点では"5人"(葉月、蔵田、稲美、羽嶋、白河)の生存者しか確認されてません。』
「5人か――ここの人間は鬼原組で生き残っている3人(彰人、淳子、風間)の事を発見できないのだな」
鷺月はもうこの事実に関しては手をとるように知っていたが、彼でさえも首を傾げざるを得ない出来事があった。それは――突如消えた風間と呼ばれる男についてだった。いや、風間だけでない。現在生き残っている者の殆どが私の視界から消える所か、鷺月の意識の中から不意に消えるのだ。さっきだってそのような現象があった。彼らの姿を次に見つけた時は金岡火力発電所の入り口だ。更に、鬼原組の本拠地に二人組の姿がぼやけて見える。その姿はぼやけているせいで名前すら見えない。
絶対に強い魔力を持った者が彼らに介入しているな――鷺月はそう睨んだ。だが、彼の頭を支配していたのは屈辱的な疑問だけではない。と、考えた途端に彼の顔はにやりとした。というのは、夕方の頃に何者かが黒きハリ湖にて風の筆頭である旧支配者"ハスター"の封印を解いたのだ。その者は、口上手にハスターと交渉をし、あの悪魔を我が悪魔にすることが出来た。その者がすぐにやってくる――それに坂東白鴎もすでに……
鷺月は後ろから扉が開いた音が聞こえた途端に「遂に来たか――"季長宗吾"」と呟いた。扉の中から入ってきた人物は中々の色男で洒落た格好をしていた。そう、彼の登場こそがハイエロファントに天羽勇生を抹殺させた理由なのである。
「はじめまして、僕が季長宗吾だ。少し名がある役者だったんだけどね――この本読んだ後に僕はここに辿りついたんだ」
季長と名乗った色男はそういいながら、鞄から異様な材質で出来た黄色い表紙の本を取り出した。中央には黒いマークが印されている。
「"黄衣の王"――僕はこの戯曲を再現しよう」
「5年後の話だな……それは」
二人の間に冒涜的な空気が流れる――
キャラ一覧
主役
・葉月彰二(World)
この小説の語り手であり、主人公でもある。口数は少ないがそれなりの行動力がある。だが、彼の耳に囁くフルート――鷺月のナイアルラトホテップの化身としての姿を見た時にフラッシュバックで見た光景から、鷺月と何かしらの関係があると思われる。
・蔵田明義(Emperor)
襲い掛かる敵はとりあえず殴る。彼の拳の強さは金の鎧を破壊するほど。オトゥームとの戦いの時に彼がウィツィロポチトリを呼ぶきっかけとなった感情は「友達に正直でいること」である。
「別にいいさ――お前がどんなに強大な力を持っていても絶対に負ける訳にはいかないからな!」
・稲美麗子(High Priestess)
葉月や淳子の後輩、臆病な性格が災いしてこれまでの活躍が少ない。が、それを目につけた鷺月の言葉に稲美は胸苦しさを感じてしまった。
「ここまで殺意を覚えたのも初めてよ――絶対にあなたを止める!鷺月京谷!」
・羽嶋孝治(Hierophant)
とても冷静な性格をして、言葉遣いもそれを思わせるものだが――それは自らが作り上げた性格である。本当はとても優しい性格だが、その性格のせいで女子との関係に散々苦しめることになった。ハイエロファントとの戦いで、羽嶋は恐怖に塗れた怨霊の力によって全てを突き通す槍を彼から手に入れたが、鷺月によって、羽嶋を想いながら死を覚悟した博文をその槍で刺され――その槍は皮肉にも父親の強い魂によってただの槍となった。
「死の覚悟も、自分の犯した罪も、全部受け止めてやったさ」
・白河救介(Hanged Man)
最初はたちの悪い不良としか見られなかったが、白河と淳子との接触で彼のこれまでの振る舞いが葉月たちをなるべく危険な目に合わせない為の演技であったことや、鷺月京谷の仲間と関係があることが判明した。恐らく、彼が笑みを見せる事は無いだろう。
「――ごめんな。そして、ありがとよ」
・坂東淳子(Sun)
鬼原組に関して聞く為に坂東彰人と白河救介を探し、冴川区をずっとのんきに歩いていた(それは彼女の強さゆえだろう)。常にお洒落なコートを着ているので見えないが、常に日本刀を持参している。やはり、ヤクザの子はのんきでもどこかしらに怖い所があるのだ。が、身の回りの人は大切に思っており、風間が死んだと思った途端に涙を浮かべた。
「ありがとう。白河は私が見て行くから安心して行ってきなさい」
・坂東彰人(Moon)
恐らく、現時点での味方側の連中の中では一番強いだろう。鬼原組の若頭だが、病院編から、何度も葉月たちの危機を身体を張って守ってくれてる。が、あまりにもシスコンな為に、風間にはそれを笑い話にされ、淳子にはあしらわれている。
「最初から、あいつと同じ気持ちでいたつもりだ。俺だって悔いは残したくないからな」
・春山学(Magician)
まぬけな性格が伺えるが、ある意味では鷺月よりも謎に包まれていて抜け目の無い人物。鷺月と抗える術を彼は知っているのだろうか。
「だが、素人であるお前たちが強い悪魔を従えても私に敵う筈がない」
・風間将十(Hermit)
鬼原組三大幹部の一人だが、春山にダメ人間の格付けをされた。しかし、それはあながち間違ってはいない。彰人をおいて逃げようと発言しようとしたのもこいつだし。ついでに何気にウザキャラ。イタクァによって凍死したかと思われたが、元気な状態で再登場した。メインキャラクターの中では唯一悪魔を召還している描写が未だに無い。
「あのなぁ、自分では格好つけたような気分で話していると思うけどな――お前の言ってることさっぱりわかんねぇから。頭が良い発言とか、頭の悪い発言とか、そういう意味じゃなくて」
鷺月の一味
・鷺月京谷(Universe)
土の旧支配者に属するナイアルラトホテップの一部となった、黒いコートを纏った男性。いうまでもなく、最悪の悪役であり……最強の悪役であり……いつでも葉月たちを殺せるところで何度も弄んできた。が、彼ですら不可解なことが一つだけある――
「この悲劇はまだ序曲だ。だが、その先の悲劇を完成させるには余りにも人数が多すぎる」
・西園寺蓮(?)
白河を何度も苦しめた女。判明しているのは白河と同い年である事と、炎の旧支配者の筆頭であるクトゥグアを宿していることである。
・季長宗吾(Temperance)
風の旧支配者の筆頭であるハスターと呼ばれる旧支配者の封印を解いた以外は全く謎の人物。だが、色男の役者である以上、極めてルックスが良い人物だというのは明らかだ。彼が口にした黄衣の王というのは、戯曲の本のことだが――ハスターの化身の名前でもあり、その戯曲の第二幕を読んだ者は発狂する(第一幕は読んでも無害)。彼の言動からして、少なくともある程度の精神力の強さは持ち合わせているということが伺える。
「"黄衣の王"――僕はこの戯曲を再現しよう」
重要人物
・葉月癒依(Lovers)
何故か、藍香と共に鷺月に狙われている。目的は不明
・葉月藍香(Eternal)
癒依と共に鷺月に狙われているが、オトゥームの発言により、それぞれ別の目的で狙っているらしい。
鬼原組
・坂東白鴎(?)
彰人や淳子の父親であり、鬼原組の組長だが、羽嶋博文を天羽協会に渡すなどの不可解な行動をする。彰人からは相当嫌われているようだ。
・金沢光行(Strength)
鬼原組の三大幹部の一人だが、金岡工場街で発狂・暴走したところを葉月たちや坂東彰人に止められた。
・水野仁(?)
鬼原組の最後の一人だが、それ以外は不明である。
天羽教会
・天羽勇生(Judgement)
葉月達に鷺月についての真実を伝えようとしたが、その途中でハイエロファントによって心臓を貫かれた。
・中田忠義(Devil)
病院編と下台カラム編で葉月たちと坂東彰人を阻んだ人物。坂東彰人とは因縁があるが、鷺月京谷とは直接的な関係があるらしい。鷺月京谷によって、とても残酷な形で殺されてしまった。
旧支配者(Great Old One)
・グラーキ(Tower)
九頭公園を狂気のアンデッドまみれにした張本人だが、蔵田の悪魔であるホノカグツチによってあっけなく倒れた。異名は『湖の住民』
・オトゥーム(Emperor)
最初に葉月たちを絶望へと晒すきっかけを作り、京崎水族館の時でも散々、彼らを弄んだが蔵田が自らの『親友を傷つける事に対する恐怖』を打ち破った事によって敗れた。異名は『クトゥルーの騎士』
・イタクァ(?)
鷺月の指示によって、冴川区を凍える廃墟にした旧支配者。異名は『風に乗りて歩むもの』『歩む死』『大いなる白き沈黙の神』『死と共に渡り行くもの』『地の上高く渡り行くもの』『天を制するもの』
・ヒュドラ(?)
異次元から来た旧支配者だが、その実態は謎に包まれている。異名は『千の顔を持つ月霊』『一千の顔の月』