転生したハムスターでち!
おいおい、嘘だろ。
営業でガツガツ仕事をして35歳の誕生日に課長に昇進した帰り道、俺、佐々木進は居眠り運転の車に当てられ死んだ....。
人生の最後に聞いたのは、救急車のサイレンだなんて、あまりに、あまりにもすぎる。
冬のせいかまだまだ寒い地面が俺の体を冷やしていった。
人生、こんなにもあっさり終わるものか。昇進のために結婚を迫られた彼女とすら分かれたのに。
ちくしょおおお!
死ぬんだったら、昇進より結婚して自分の子供の顔でも見たかったもんだ。
白い最後の息が冬空に消えていった。
寒い......。心でも脳死や心肺停止でも体は死ぬまで生きるにしても、いくらなんでも寒い。
「ごめーん!突然のお葬式で家を出たから暖房つけわすれた!」
遠くからやたら騒がしい女の声がする。バタバタと部屋を走る音と暖房のリモコンをつける音。
なんだ、さっきの事故は夢か。それにしてもこの女の声を聞いた事がある。あると言うよりは、最近、気になっていた職場の後輩の女性、鈴木ルミだ。
「佐々木進先輩が、突然事故死よ!まさかね!ま、あんまり好きじゃなかったけど葬式は大人として行ったら、今日おむかえしたハムちゃんを部屋にいれたまんまだったわ!」
暖房で空気が温まってきたせいか、体が動く。手を動かすとピクピクする。目をあけると、指輪が4本にグレーのモフモフの手と腕、なんとか起き上がると無意識に両手が頭をうしろから前へ往復する。
よく見ると、全身グレーの毛だらけだ。
周りはよくSNSで見るハムスターの部屋の中。
「やっとお目覚めかな?ハムちゃん」
鈴木の顔が巨人のようで口からは肉食動物のにおいがぷんぷんする。
わあああああ!と叫んだつもりだったが、ハムスターに転生したらしい俺の鳴き声はひどく情けなかった。
「キュー!キュー!キュ!」
気がついたら、失神していた。