年齢を気にするエルフ女性が、ゆるふわ愛されカールになって650歳年下の冒険者仲間にアタックする話 1話/全5話
私はエルフのエルミラ。上級冒険者で、弓の腕にはかなりの自信がある。年齢はナイショ。
深い森の中、『弓使いの私』と『若き剣士』の2人はオークの群れに囲まれていた。荒々しい咆哮が響き、緑色の皮膚を持つオークたちが、脅威を振り撒きながら迫ってくる。その中で、私は静かに弓を構え、一体ずつ彼らを仕留めていた。
「囲まれてます、気を付けて!」彼の声が、緊迫した空気を切り裂いた。若き剣士の彼は、剣を握りしめ、身構えていた。彼の眼差しには決意が宿っていたが、緊張も見て取れた。彼はいつも律儀に、私とモンスターとの導線に立って、後衛の私を必死に守ろうとしてくれる。彼の姿は、まるで私を守る盾のようだ。
モンスターと対峙する緊張感とは別の理由で、私の胸が高鳴っていく。
私の矢は、オークたちに向けて正確に放たれた。一体、また一体と、確実にオークを倒していった。私の矢が貫いたオークどもは一瞬で地に倒れ、動かなくなっていく。
「グオオオ」一体のオークが、怒りに満ちた目で私たちに迫った。彼は猛然と剣を振るい、オークの攻撃を防ぐ。彼の剣はまだ未熟だけれど、未熟ながらも果敢に立ち向かう彼の姿には、成長の途上にある自然界の生き物のような、素朴な勇敢さがあふれていた。
彼の動きは、時にぎこちなく、時に迷いが見える。しかし、彼の勇気は紛れもないもので、次々とオークに立ち向かう。彼の剣が再び振るわれるたびに、オークは怒りを増すが、彼は怯まない。彼の剣を振るう姿は、若い鹿が初めて角を使って自分の場所を守るようだった。
彼は戦いながらも学び、成長していっている。彼の剣の動きは徐々に洗練され、彼の攻撃はより的確になっていくのが見える。彼は戦うごとに、自信をつけ、剣の扱いが上手くなっていく。彼の成長を見守る私の心は、小鹿がぎこちない足取りからしっかりとした歩みへと成長していく姿を見守るような、微笑ましさと愛おしさに溢れていた。
オークを倒していく中で、彼の表情には次第に自信が生まれていた。彼は未熟ながらも、確実に成長し、戦いの中で新たな力を見つけていた。彼の剣は、彼自身の成長と共に、より強く、より確かなものとなっていった。
ふと見ると、いつの間にか彼は3体ものオークを倒していた。彼の剣が敵を倒すたびに、私の心は子鹿が立派な森の守り手に成長するのを見るような誇らしさで満たされた。
彼が成長するにつれて、私の心の中で何かがほんの少し変化していく。彼が自立し、一人前の剣士としての道を歩む姿は、仲間の私にとって誇らしくもあるけど、一緒に森の中で育った小鹿が、成長して森を離れていってしまう時のような寂しい気持ちにもなる。
成長してほしいような、して欲しくないような、この複雑な気持ちはどう表現したらよいのでしょう。
一方で、私は弓矢を駆使し、すでに15体ものオークを倒していた。私の矢は風のように素早く、静かにその的を射抜く。一体、また一体と、オークたちは私の矢によって倒れていった。森の中で私の弓矢は、確実にオークたちを倒し続けている。
最後のオークが、重々しく私に襲いかかる。「エルミラさん、俺の後ろに」彼がまた律儀に、オークと私の間に入り、守ろうとしてくれる。
ああもう、きゅんきゅんしちゃう。もし女神アルテミスが操ると言われる『愛の矢』が実在し、その一射で人を惹きつける力があるのなら、私はここで、オークではなく彼をその矢で射抜いてしまいたい。彼の心に私の深い愛情を刻み込みたい。
そんな空想をしている間、オークが待ってくれるはずもない。
私は心を落ち着かせて矢を放つ。矢は風を切り、オークの脳天を射抜いた。巨体がゆっくりと地に崩れ、森は再び静けさを取り戻す。
「エルミラさん、大丈夫ですか?」戦いが終わった後、どう見ても無傷の私、エルミラのもとに、ボロボロになりながらも心配して駆け寄ってくる彼の姿を見て、私の心は溢れんばかりの愛おしさでいっぱいになった。
「大丈夫よ、心配してくれてありがとう」私がそう言うと、彼は安心してほっと胸をなでおろす。『どう見ても、あなたの方が傷だらけでしょう』そう思う私の心は彼を抱きしめてあげたいという衝動に駆られる。でも、本当に抱きしめる勇気はない。
私はいつものように、彼のために特別に用意したポーションを持っていた。彼を思い出すたびに、彼が傷つかないようにと願いながら、私は常にあらゆる種類のポーションを多めに用意してしまうのだ。
ポーションを手に取り、私は心の中で深く葛藤していた。彼に渡すべきかどうか。彼はもしかすると、私のこれを余計なお世話だと思うかもしれない。彼は一人前の剣士になることを目指し、そのために努力している。彼のこの自立心を尊重したい、私の介入が彼の成長を阻害してはならないという思いが、私の心を駆け巡った。
そんな風に迷っているうちに、彼はいつものように、自分で用意したポーションを取り出して飲み始めた。私はまたもやポーションを渡す機会を逃してしまった。私の手には、彼のために用意したポーションがまだ握られている。私の心は彼を支えたいという願望と、彼の自立を尊重したいという想いとで揺れ動いていた。
彼が自分のポーションを飲む姿を見つめながら、私は静かにため息をつく。
「結局、いつも通りほとんどエルミラさんが倒してしまいましたね」と彼は言い、素直に私を称賛した。彼の声には尊敬と自分自身への挑戦が混じっている。そして彼は続けた、「もっと精進しないと」と、新たな決意を胸に秘めるように。
彼のその姿を見て、私の心はほっこりと温かくなった。私は心の中で思う「いいのよ、あなたはそのままで」彼の未熟さや、まだ発展途上の剣技も、彼の魅力の一部だ。彼の純粋さと努力は、既に私の心を十分に満たしていた。
彼は自分を厳しく戒め、常に前を向いて歩もうとする。それはまるで、小さな川が大河を目指して絶えず流れるようなもの。私は彼のそんな姿勢を見て、彼の真摯な努力に心から感動する。彼の成長への渇望と、彼自身の謙虚さが、私の心を打つ。
「ねえ、あなたってどんな剣士を目指しているの?」ふと私は彼に尋ねてみた。彼は輝く目で、大昔の伝説に出てくる剣士の名前を上げた。「俺の目標は、伝説の剣士、ガラハドのようになることです」
その名を聞いて、私は思わず口を滑らせてしまった。「ガラハド? ああ、あの大酒飲みね。酔っぱらって大げさに語った自伝が、ずいぶん語り継がれてしまったのよね」と私は笑いながら言った。彼は目を丸くして、驚愕の表情を浮かべた。
「えっ、ガラハドって500年以上前の人物ですよ。なぜエルミラさんが直接知ってるかのように……」彼の声は困惑に満ちていた。
その瞬間、私は焦りを感じた。つい実年齢を露呈させてしまったのだ。「あ、いや、その、そういう伝記を読んだことを思い出して……」と慌ててごまかそうとした。彼は私をじっと見つめていた。私は内心で「やばい、年がバレる」と慌てていた。彼に私の真の年齢を知られるのは、恥ずかしくて仕方がない。
「そうなんですか、エルミラさんは本当に多くのことをご存知なんですね」と彼は素直に頷き、純朴な眼差しで私を見つめた。彼のその反応に、私は内心で複雑な感情に包まれた。私の言葉を疑わないその心の清らかさが、私を同時に悩ませる。私は嘘をついてしまったことに罪悪感を感じつつも、彼のこの純粋さが愛おしくて仕方がない。
私はその純粋さを守ってあげたいと強く思った。彼の信頼は、まるで清らかな泉のように、私の心を潤し、彼への愛情をより深いものにしていた。
彼は、私が守ってあげたい、幸せにしてあげたい。
彼の純粋さと勇敢さを目の当たりにして、私、エルミラは通常なら女性側が思わないであろう感情を抱いていた。彼に対する気持ちが、私の中で母性的な感情を超えた何かに変わっていくのを感じていた。
彼を守るためなら何でもしてあげたいと思っていた。
エルフのエルミラ編、始まりました。エルミラ編は特に力を入れて書いたので、読んで頂けると幸いです。