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異世界カリスマ美容室  作者: ほっこり純
1章【盗賊ガルス編】恐れられて孤独な盗賊が、爽やかな髪型になって周囲に好かれていく話
3/43

恐れられて孤独な盗賊が、爽やかな髪型になって周囲に好かれていく話 3話/全3話

――


 新しい姿の俺は、心を引き締めて冒険者ギルドの扉を開けた。



 ギルドの中は、以前のように活気に満ちている。ふと目に留まったのは、剣士、格闘家、魔法使いの3人組だった。


 彼らは、俺が仲間募集の張り紙をしていた時に見かけたことがある。彼らは実力がそこそこありそうな上、なんとなく人が良さそうに見え、なおかつ、盗賊を必要としてくれそうなメンツだった。募集の張り紙を見て俺を誘いに来てくれないかと、ひそかに期待していたパーティだ。

 

 「今、張り紙をすれば、この見た目の俺ならもしかしたら声をかけてくれるかもしれない」そう思った瞬間、ふとイチローの言葉を思い返す。


"あなたの欠点は、自分を隠しすぎることですよ、ガルスさん"


 イチローの言葉は、俺の心の奥深くに刻まれていたようだ。確かに、自分の本当の気持ちを隠して、ただチャンスを待つことはない。"彼らと一緒に冒険したい"という、その温かい気持ちまで隠す理由はないのだ。


 「どうせダメもとだ、ダメもと」俺は自分にそう言い聞かせながら彼らの方へ歩を進める。心臓の鼓動が早くなるが、この一歩が、新しい俺の始まりだ。


 「俺は盗賊のガルス。腕には自信がある、俺を仲間に入れてくれないか。あんたらを見て、信用できそうだと思ったんだ」俺は堂々とした口調で彼らに話し始めた。言葉を発するごとに、心の中の不安が解けていくのを感じた。


 彼らは一瞬戸惑った表情を浮かべた。そして彼らは目を見合わせ、ほんの少しだけどうするか話し合い、すぐに明るい笑顔で返答してくれた

「じゃあ、とりあえずこれから行くグリフィン退治に一緒に来るか?」


 あまりにあっけなくいい返事がもらえたことに、俺は一瞬呆然とした。これまでの悩みや不安が、まるで無意味だったかのように感じられた瞬間だ。小さな喜びが胸の中で温かく広がり、新しい希望の光が見え始めた。


 しかし俺は「まだだ、まだ分からないぞ」とひっそり小さくつぶやいた。心のどこかで期待しすぎないように自分を必死に抑えていた。まだ、本当に明るい未来が起こるかなんて分からない、これはほんの小さな一歩に過ぎないのだから。




――




 イチローの美容室を訪れてから20日ほどが経ち、俺は新しい冒険者仲間たちと酒場で盛り上がっていた。


 「今日見つけた古代の遺物、あれはすごかったな!」と仲間である剣士が言い、もう一人の仲間の格闘家が「しかしガルス、あの隠し通路よく見つけられたよな」と俺を称賛してくれる。


 俺は彼らの言葉に頬が緩んでしまったが、それ以上に、仲間たちが楽しく過ごしているかを気にしていた。俺は自然と会話の輪に入り、誰も取り残されないように話を振ったり、皆のコップが空にならないように気を配ったりしていた。そうしていると、ふと仲間の剣士と目が合った。


「おいガルス、お前ってマジでいいやつだよな」そう言って彼は、俺と肩を組んでくる。


 俺はこの瞬間が現実なのか、夢なのか、わからなくなった。



 何が起きた。俺の人生に何が起きたんだ。

 


 俺は自分がかつて夢に見たような経験をしていることに気づき、感動に満ち溢れた。胸がいっぱいになり、仲間たちとの笑い声が、俺の新しい人生の始まりを祝福しているかのようだった。


 俺はそんな自分の心情に驚きつつも、勇気を出して、仲間たちに尋ねてみた。


 「なあ、お前ら、俺が怖くないのか?」


 その質問に、仲間たちは一瞬驚いたような表情を見せたが「え、なんで?」と魔法使いが言った。「お前が威圧感を見せようとしても、無理があるだろ」と剣士が続けた。その言葉に、仲間たちは大笑いした。その言葉を聞き、俺はただ唖然としてしまった。


 「ああでも、思い出した。少し前、冒険者募集の張り紙をしてた時、前髪を垂らしたガルスは、確かに不気味で怖かったな」仲間の剣士がそう言うと


「おいおい、気の優しいガルスが、新天地でナメられまいと必死に威圧感を出そうとしてたんだろ、馬鹿にしてやるなよ」格闘家のその発言に、テーブルは再び笑いに包まれた。


 その言葉で誰よりも笑っていたのは、他でもない俺、ガルスだった。


 俺は彼らの話を聞きながら、心の中でイチローに感謝の気持ちを抱いた。


 周囲から怖がられないよう、必死で傷を隠していた行為が、実は周りには不気味に映っていたことに初めて気づいたのだ。それに仲間は俺の顔の傷のことなんて、全く気にも留めていないようだ。それより、俺がどれだけ他人に気を配っているかを見てくれているようだった。



 自信を得た俺は、酒場で偶然目が合った子供に向かってニカッと微笑んでみた。しかし、その瞬間、子供の表情は急変し、恐怖に満ちた目で泣き出しそうになっている。


 ここで俺はまだ一定以上は威圧感を持っているのだと自覚する。しかし、子供がすぐに泣きださないところを見ると、かなり改善してはいるようだ。


 冒険者の仲間たちはある程度の強面には慣れている上、俺の内面を知っているから怖がらないだけなのかもしれない。どうやら俺の顔の怖さレベルは、子供は恐怖するが、冒険者であれば平気、という範囲内に収まっているらしい。


 恐怖に満ちた目で、後ずさっていく子供を見ると、申し訳なさでいっぱいになる。怖がらせてしまってごめんよ。俺なんかが子供に接するのは間違っていたんだ。長年のコンプレックスが俺を再び暗闇に引きずり込もうとした。



 俺の中には、恐ろしい怪物でも住んでいるような気さえしてきた。



 しかしその時、再びイチローの言葉が俺の頭をよぎった。


 "人は、見えないものが一番怖いんですよ、ガルスさん"


 俺はとっさに、酒場のテーブルに置かれていたナプキンを手に取った。ぎこちなく、しかし必死に、ナプキンで小さな動物の形を作り始めた。最初は何をしているか分からないだろうが、徐々に形になっていくにつれ、子供の表情も変わっていった。子供は好奇心を持って、俺の手元をじっと見つめた。


 ナプキンで完成したのは、小さな犬だ。「ワンワン」俺がそれを持って犬の真似をし出すと、子供はあっけなく笑い出した。「わんっわんっ」子供も、笑いながら俺の真似をしてくれる。


 やはり、子供は笑っているのが一番だ。そうだ、俺は子供を怖がらせたかったわけじゃない。


 俺には、相手に怖がられると、悪いと思ってすぐに引いてしまう癖があった。確かにそうした方がいい時もある。しかしイチローに教えてもらった。威圧感のある部分だけさっと見せて、すぐに見えなくなる人間、そういうのが一番怖いんだ。確かに俺の顔は、まだ少し怖いのかもしれない。


 でも俺は、顔だけでできてるわけじゃない。俺の何もかもを隠す必要はないんだ。


 俺は、ふとあたりを見渡した。仲間たちが楽しそうにはしゃいでいる。足元では子供が瞳いっぱいの期待を込めて「ねえ、もっかい、もっかい」と俺にすり寄ってくる。

 

 仲間や子供の笑顔を見ると、俺の心は温かいものでいっぱいになった。こんなにも幸せを感じることができるなんて、今までの俺には想像もつかなかった。この子にもう一度何かを作ってあげようと、ナプキンを手に取り、今度は猫を折り始めた。子供はその様子をじっと見つめ、完成するとキラキラした目で喜んでくれた。


 どうやら、俺の中には怪物なんていなかったみたいだ。ほっと安堵するとともに、今までの俺の人生はなんだったのかと、吹き出しそうになる。



 あと最近は、この強面のおかげでいいこともある。


――


「あら今日もお花を買いに来てくれたの?ありがとう」


 最近仲良くなった花売りのヒューマン女性のことだ。俺は彼女の店によく花を買いに来るようになっていた。彼女が以前、俺の顔を見て逃げたのは、たまたま変な男に付きまとわれて困っていた時に、さらに俺のような怖そうな男が現れたことで、過剰に反応して逃げ出してしまっただけらしい。


 こないだ仲間が花を買いにくるのに付き合ってくれたんだ。その時「こいつすげーいいやつでさ」などと彼女に俺を紹介してくれたんだ。髪型で印象が変わったこともあってか、見事に警戒心が解かれ、それからは花を買うたびしばらく雑談するまでの仲になった。


 花を愛するもの同士、共通の話題に事欠くことはなく、彼女と仲良くなるのはとても早かった。


 彼女は今では俺の顔を気に入っているらしく「爽やかでたくましい」なんて言ってくれたりもした。それで喜んでいると「たくましいガルスさん、今日もボディガードよろしく」などと、都合よく扱われたりする。俺の顔は、暴漢を遠ざけるのに丁度いいそうだ。ちゃっかりしたもんだ。


 なんだかんだ言いつつ彼女は俺になついていて、俺が花を買うたびに、いつも何かしらサービスしてくれる。


 俺は、イチローが語ってくれた花畑を守る石像の話を思い出した。


 彼女の存在が、強面の俺を美しい花畑を守る英雄のように変えてくれるような気がした。彼女と話しているだけで、なんだか勇気が湧いてくる。


 しかしここのところ、少し花を買いすぎた。こないだ冒険者仲間に分けてあげたら「世界一花が似合わない男だ」なんて笑われたっけな。失礼な話だ。




 そうだ、今日はイチローのところにでも花を持っていくか。喜んでくれるといいんだが。



次章は「年齢を気にするエルフ女性が、ゆるふわ愛されカールになって650歳年下の冒険者仲間にアタックする話」


次の話も、試しにぜひ読んでみてください!

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