Vtuberの前世
ここ最近、急激にチャンネル登録者を増やして、話題になっている女性Vtuberがいる。
彼女の名前は、盲信でいる。僕の推しのVtuberだ。
『信者のみんな、こんばんわ~。今日もみんな生きてる~? 冥界から視聴者を盲信させちゃう系Vtuber――でいるたんだよ~!』
毎晩でいるたんは雑談配信をしている。几帳面な性格なのか、リスナーからのしょうもないコメントも拾ってくれたりするので、それがまた面白い。
でいるたんの天使のようなアニメ声は、現実世界で疲れきった僕の精神を癒してくれる。まるで脳に直接語りかけるかのような彼女のトークに夢中になって、バイトをサボったことが何度あっただろうか。
でも、少しだけ――いや、かなり気になることがある。一体、盲信でいるは何者なのだろうかと。
彼女の配信を見る度に、思春期の少年が初恋の女の子のことを布団の上で妄想するように、その疑問が頭に浮かぶ。
でいるは毎日欠かさず何時間も配信をしている。スマホがあればどこでもネット配信ができる時代だとは言っても、この頻度は異常だと思う。
普通なら身が持たない。演じている人がサイボーグでもない限り、休みなく配信するなんて不可能だ。
ご法度だとは理解しつつも、僕はでいるたんの中身を調べることにした。
ネットで『盲信でいる 前世』と検索したら、彼女の経歴を纏めた記事がヒットした。その記事から、彼女の前世は、pikoという配信者であることがわかった。
どうやらpikoには彼氏がいたようだ。彼女のSNSに、とある配信者の男性と交際している旨の投稿があったことからほぼ間違いないだろう。
pikoの彼氏――歌舞伎者はという男は、かなり女にだらしないらしい。配信を通して女性と出会い、何度か女性に自分の子ども◯ろさせたこともあるようだ。
ショックだ……。まさか推しのVtuberが◯から声を出していなかったなんて……。チャラ男に◯を開いていたなんて……。
僕がいくら投げ銭をしたと思っているんだ! 許さん……許さんぞ! こうなったらその顔が拝めるまで、とことん掘り下げてやるからな!
大した労力をかけていないのに、pikoが顔を出した配信のアーカイブはあっさり見つかった。
デジタルタトゥーだとはよく言ったものだ。1度ネット上に出回ってしまったものは、何年経っても消えることはない。
有名人からしたら迷惑極まりないだろうが、僕からしたらありがたい。禁忌であるVtuberの中の人の顔が見れるのだから。
期待を胸に再生ボタンを押す。案の定、モニタには僕と同じくらいかそれよりちょっと下の年齢と思われる可愛らしい女の子の姿が写し出された。
『どうも~! pikoで~す!』
女の子が声を発すると同時に、僕は確信する。彼女は盲信でいるであると。
いつもに耳する盲信でいるの声とそっくりだったのだ。別人の可能性も微粒子レベルで存在しているが、まあその時はその時だ。
『アヒャヒャヒャヒャ!! いえ~い! 歌舞伎者見てる~?』
なんだかpikoの様子がおかしい。怒りと悲しみが入り交じっているのか、表情がコロコロ変わる。
配信をしている場所も変だ。何故か彼女は、ビルの屋上で携帯のカメラを回している。
『今からあんたに見せてあげる。裏切られた私がグチャグチャになって4ぬところを』
そう告げると、pikoは躊躇なくフェンスを乗り越え、ビルから飛び降りた。
停止ボタンを押す暇はなかった。押させてもらえなかった。
――グシャ!
数秒も経たない内に、彼女は肉塊になった。間違いなく即死だ。
わからない……。盲信でいるの中の人が、pikoなのだとしたら、彼女はこの世に存在しない何かということになる。
………………あ。
盲信でいる……。
もうしんでいる……。
もう死んでいる……。
最後まで読んでいただきありがとうございました。