ジュエル 下
ネズミで店内の様子を確認していた黒縁眼鏡の刑事たち。突然、映像がシャットアウトする。時空警察の刑事は雪菜の告げ口を察したのか、一斉に視線を下に向けた。陽介もわかっていた。
黒縁眼鏡の刑事は「くそっ!」と吐き出した。彼も雪菜が強盗犯に伝えたせいで壊されたことを悟った。店内の様子がわからなくなった陽介は危機を感じる。
「このまま月野の放っておいたら、まずいですよ」
「おい夏目。それ、どういうことや?」
黒縁眼鏡の刑事が陽介に尋ねる。
「月野は歴史を守るためなら、人の命がどうなってもいいという考えです」
「なんで、そんな奴が刑事になっとんねん。やってくれたな、お前ら! おたくの女刑事さんのせいでネズミが壊されたで。どうしてくれんねん!」
一人一人、指を指していく黒縁眼鏡の刑事。彼の怒りがピークに達し、視線を逸らしている時空警察の刑事に怒鳴る。
「これ、弁償やな。わかっとるな?」
何も答えない時空警察の刑事たち。そこに一人の刑事が報告しにやってくる。強盗犯の身元が判明したという。
「三人のうち、一人がつい最近、被害届を出していました」
「被害届?」
「ネットバンクからお金が盗まれたそうです。ちなみに窃盗犯はまだ捕まっていません」
陽介は店内に近づくキャサリンの姿を見つけ、声をかける。
「なにしているんですか?」
キャサリンは持ってきたパソコンを開けた。
「中にいる雪菜さんとBluetoothで繋がっています」
「つまり、店内の音声が聞こえるってことですか?」
「ええ、その通りです」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
雪菜が仕込んであったイヤホンに「接続しました」と反応が来た。キャサリンが持っているパソコンと繋がったのだ。
強盗犯の二人が耳打ちで何かを話している。視線は爆弾女に向けられている。そして、銃を持った強盗犯が口を開く。
「おい女、その爆弾は偽物なんじゃないのか?」
爆弾が偽物だと疑う強盗犯は彼女に銃を突きつける。
「偽物なんかじゃない。本物よ。疑うのなら、ここで証明してみせる」
まさかと思った時、爆発したのは彼女の体に仕込んである爆弾ではなく、予め近くに仕込んであった爆弾だった。幸いにも被害者は出なかったが、本物の爆弾だと証明された。強盗犯たちも焦っている様子だ。
「銃を下ろしなさい」
強盗犯は爆弾女の要求に応じない。何度、このやり取りを見ただろうか。雪菜はすでに飽きていた。爆弾女は感情が高ぶっており、まともに話することができない。まず、対処すべきなのは強盗犯の方からだ。
『雪菜さん。強盗犯三人のうち、一人がネットバンクの口座からお金を盗まれたそうです』
キャサリンから伝えられる雪菜。
「あなたたちの誰かが、お金を盗まれた?」
雪菜の言葉に銃を持った強盗犯が反応した。彼がお金を盗まれたという被害者。
「盗まれたから、次は自分が強盗を行った? でもなぜ、ジュエリーショップを選んだのですか。謎です」
「理由は一つ、お金に価値がないからだ」
雪菜の前に立つ強盗犯は話を続ける。
「年々、宝石の価値が上がってきている。質のいいモノが採れなくなってきているからだ。盗まれた額を取り戻すにはお金ではなく、高く売れる宝石じゃなきゃダメだ」
「そんな理由で強盗なんて許せない」
爆弾女が話に入ってくる。
「私はずっと待っていた。なのに、あなたたちのせいで」
「そんなあなたも今、時空犯罪を犯していること、承知ですよね?」
「うるさい!」
相変わらず、感情をぶつけてくる爆弾女。キャサリンから彼女に関して情報の伝達を期待していたが、送られてこない。爆弾女のバックグラウンドが知りたい雪菜。どう攻めていけば良いのか、わからない。
店にあるすべての宝石を袋に詰めて、女性店員が雪菜たちがいるところへ戻ってくる。
「強盗犯さん。これから、どうするんですか?」
この店はすでに包囲されている。そんな状況で、彼らはどう逃げるのか。
「逃走用の車両を要求するつもりだ」
「古っ!」
雪菜は思わず、声に出してしまった。技術が最先端へ進化していくこの時代、簡単に逃げ切れるわけがなかった。当然、警察の捜査レベルも上がっている。
予想外の逃走方法を期待していた雪菜はがっかりした。その態度は強盗犯の癪に障り、彼はまた発砲した。
六発。
強盗犯は「次は本気で撃つからな」と雪菜を脅すが、次なんてない。その前に雪菜が彼らを止める。
「その袋を渡しなさい。宝石はあなた達のものじゃないわ」
「これは俺たちが手に入れたものだ」
雪菜からしてみれば、どちらのものでもない。強盗犯も、爆弾女も、感情的に犯行に及んで、この先のことを考えているのか。爆弾女は未来から来た時間移動者で、過去の物を未来に持ち帰ることはできない。普通に考えればわかることであり、やはり犯罪者は一つネジが飛んでいる。
『おい! 夏目、そこでなにしとんねん』
雪菜がつけているイヤホンから聞き覚えのある男性の声が聞こえてくる。例の輩刑事だ。キャサリンだけかと思っていたが、一緒に陽介がいたことをそこで知る。キャサリンは「切ります」と接続を切った。外部からの情報は途絶え、一人で解決しなければならなかった。もとより、雪菜は一人で解決するつもりでいたが助言は必要だった。
目を瞑って、雪菜は考える。
強盗犯三人なら、雪菜一人でも対処することができる。動けずにいるのは爆弾女の動きが予想できないからだ。強盗犯をまず、取り押さえる。そして、彼らから宝石が入った袋を奪取して爆弾女に渡してみる。
その方法で動き始める雪菜。
こんな時のために腰に仕込んであるナイフ。結束バンドで手首が固定されていても取れる位置にあった。強盗犯の視界から背後は映らない。ナイフで結束バンドを切った雪菜は銃を持っている強盗犯から相手する。彼は拳銃の引き金を引くが、発砲しなかった。
「弾切れですよね? しっかり、弾の数は把握しておかないと」
雪菜が挑発的な態度を取っていたのは、弾切れを狙っていたからだ。男性でありながら、意図も簡単に女性に取り押さえられる強盗犯。彼のポケットから結束バンドが飛び出してくる。
「ラッキー」
彼の手足を結束バンドで拘束する。次にナイフを持った一人の男性が迫ってくる。体術に自信のある雪菜は迫ってくる強盗犯を一瞬にして取り押さえる。そして、結束バンドで拘束する。
「私の動きを止めたかったら、人質を盾にすればいいのに」
暴れていた強盗犯も拘束されると観念して収まる。残り一人の強盗犯が人質を盾にする。
「動いたら、こいつが死ぬぞ」
強盗犯は人質の首にナイフの先を向けた。雪菜はお構いなしに強盗犯に突進する。まさか来るとは思ってなかった強盗犯は油断してしまった。例のごとく、取り押さえられて拘束される。
「私が守るべきものは改変されようとする『歴史』です。人質の『命』ではないので」
強盗犯の問題は解決した。人質の手首を縛っていた結束バンドを切断し、雪菜は店内を外から見えないようにしていたシャッターを上げる。外には大勢の機動隊の数と日本警察の刑事、時空警察の刑事たち。
「確保!」
拘束された強盗犯三人組を外へ連れ出す。残ったのは雪菜と爆弾女だけ。宝石の入った袋は床に放置されたまま。ゆっくりとその袋を手に取った雪菜は爆弾女に渡す。彼女の顔に笑みが浮かび上がる。
「あなたの発言で一つ、気になったことがあります。あなたの『ずっと待っていた』という言葉の意味は?」
「この宝石は婚約していた彼から貰うはずだったもの。でも彼は事故で亡くなった。それでも、どうしても手に入れたかった」
陽介を含んだ時空警察の刑事たちが二人のいる店内に入ってくる。宝石を手に入れた爆弾女は安心したのか、饒舌に話すようになる。
「なのに、この店に強盗が入った」
雪菜が訪れたジュエリーショップは歴史通りに強盗に遭った。そこに未来から来た爆弾女が来て、一般犯罪と時空犯罪のブッキングが起きたわけだ。でも、気になることがある。
「以前、恋人を亡くした男性がタイムトラベルで命を救いに来たことがありました。当然、時空犯罪ですが・・・・・・あなたは違うんですね」
首を傾げる爆弾女。
「あなたは婚約者の相手を救いに行かなかったんですね。私が対応した時空犯罪者の恋人または家族を失った方のほとんどが、そのような理由だったので」
雪菜は一つの答えに辿り着いた。爆弾女は最初からこの宝石が目当てだった。
爆弾女は何も口にせず、手に持っていたスイッチを押した。しかし、反応しない。何回も何回も押す。爆発するはずなのに。
「なんで・・・・・・なんで爆発しないの」
「歴史の自浄作用が働いたんですよ」
雪菜は思った通りに行かず、困っている彼女に教えた。歴史の自浄作用が働き、彼女の体にある爆弾は不発となる。それでも、爆弾女はこれから自分の身に降りかかる現実から逃げようと何回も押している。
「何回押しても爆弾は爆破しない!」
雪菜は声を上げた。その場に倒れ込んだ爆弾女に雪菜は告げる。
「時空犯罪はどんな罪よりも重い。歴史一つ、たった一つ。そのたった一つが多くの犠牲を招く」
爆弾女を署に連行する時空警察の刑事たち。
事件は解決した。後の調べで彼女が結婚詐欺師だったことがわかった。婚約するはずだった男性の事故との関係性はなかったが、罪を犯したことに変わりはない。
第二室。今回は黒須からの荷物は届かず、アンノーンとは関係のない事件だったようだ。
「おはようございます」
雪菜が荷台を押して入ってくる。ピザの実が入ったダンボールを二箱持ってきた。
「そんな量を買って、食べきれるのかよ」
雪菜のデスク下にはまだ食べ切れていないピザの実の箱があった。にもかかわらず、個数を確認するために新たに二箱追加した。
「宝石と同じで、お菓子も腐りませんから」
「宝石は腐らないが、お菓子は腐るぞ?」
第二室に情報管理室から時空犯罪の探知が来た二人は、すぐに出動した。




