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バナナ 上

 日本警察という肩書を失った夏目陽介は今、時空警察署の前に来ていた。今日から彼が勤務する場所である。日本警察本庁と同じ大きさの建物なのは、時空警察の本部がここ、大阪だからだろう。

 署内に入ると、入口で事務ロボットが陽介が来るのを待っていた。


「初めまして。夏目陽介さんですね」

「はい。本日から、時空警察に配属となる夏目陽介です」


 敬礼する陽介。


「私、時空警察第二室事務ロボットのキャサリンと申します」


 丁寧にお辞儀をするキャサリン。ロボットというよりほぼ人間だった。口調も機械的ではなく、流暢で普通の二十代女性に見える。

 キャサリンは時空警察署内を案内する。


「まずは食堂です。今はまだ朝なので少ないですが、昼のピーク時は満席になります」


 それでも朝一から食堂を利用している刑事たちがいる。朝食を摂っていたり、パソコンで作業をしていたり、自由な使われ方をしている。

 次に向かったのは時空警察第一室。朝一から忙しなく刑事たちが働いている。


「一般犯罪と同じく、時空犯罪も毎日起きています。特に時空犯罪は時代を跨ぐのでややこしいのです。常に忙しい状態です」


 陽介が勤務するのは第二室。第一室と同じように忙しいのかとキャサリンに尋ねる。


「第二室は新設されたばかりです。刑事は室長と女性一名のみ。普段はゆっくりな時間が流れています」

「第二室の役割は?」

「第一室では対処しきれない案件を受けます。早い話、雑用ですかね」


 次の場所に案内するキャサリン。

 時空警察情報管理室である。この場所から時空警察官に時空犯罪が起きたことを知らせる。複数のモニターを確認しながら、オペレーターたちが的確な指示を時空警察官に告げる。


「あとでお渡しする端末に時空犯罪が発生したら、この場所から通知が届きます。近くの警察官がすぐに対処に向かいます」


 頷く陽介。

 他にもシャワー室や売店があったりと、署内で生活できるほどに設備は充実していた。最後にキャサリンは第二室へ案内した。


「ここが夏目さんが所属する第二室の部屋になります」


 あるのはロッカーとデスク、ソファとテレビのみで殺風景だった。今、ここにいるのは陽介とキャサリンの二人だけ。一つ、気になるデスクを見つける陽介。


「そこは同じく第二室に所属する月野雪菜さんのデスクです」


 プラスチックの容器に入った駄菓子がズラリと並んでいる。あたりめ、するめげそなどの乾き物から飴玉までいろんな種類がある。


「引き出しにも大量のお菓子がありますよ」


 キャサリンは勝手に雪菜の引き出しを開ける。どれだけお菓子が好きなんだという量のお菓子がびっしりと詰められていた。


「ちょっと盗み!?」


 仕事を終えた雪菜が帰ってきた。すぐに引き出しを閉めるキャサリン。


「すみません。案内していたんですよ」

「案内? 私の引き出しの中身をなぜ案内する必要があるが」


 雪菜は陽介の存在に気づいて敬礼する。


「どうも。私、時空警察第二室の月野雪菜と申します。で、あなたは誰ですか?」


 キャサリンが陽介を紹介しようとしたが、自ら名乗る。


「夏目陽介。以前は日本警察に勤務していた」

「あなたが例の……日本警察官不祥事事件の渦中にいた人ですか」


 日本警察官不祥事事件。

 最近、日本警察に勤務する警察官が立て続けに不祥事を起こしていることを世間がそう名付けた。窃盗、わいせつ、暴行、薬物所持、酷い場合は殺人まで犯している。問題なのは共通して罪を認めないことである。

 その中に陽介も含まれいた。


「あなたのことは多少調べましたよ。通行人を故意に撃ったわけではないんですよね」

「もちろんだ」

「なのに上空に向かって威嚇射撃したと嘘をついた」

「嘘ではない!」


 自分のデスクに座る雪菜。


「もちろんあり得ない話ではありませんよ。上空に撃った弾が正面にいた通行人に当たることは」


 手で銃を作った雪菜はその手を天井に向けた後、指先を陽介に向けた。


「証明はできませんけどね。でも不可能ではないですよ。それはタイムマシンが現実にできたように、証明すればいいのですから」


 容器から飴玉を取り出した雪菜は口に運んだ。すぐにでも日本警察に戻りたい陽介は雪菜に証明する手はあるのかと尋ねる。彼の言葉にしばらく考える雪菜。


「私にはわかりません。それにあなたがどうなろうと私には関係ないので」


 大好きなお菓子である飴玉を口に含み、気持ち悪いぐらいに上機嫌の雪菜。自分のデスクに座る陽介。何をすればいいのかわからなかった。


「で、俺たちの仕事は」

「基本は時空犯罪が起きるのを待つ感じです」

「待つだけか……」


 キャサリンが二人にお茶を用意する。湯気が立っていて猫舌の陽介は息を吹きかける。雪菜は気にもせずにお茶を飲む。


「大丈夫ですよ。キャサリンは夏目さんが猫舌だということをデータとして知っているんで」


 陽介は恐る恐るお茶の飲む。猫舌の彼でも飲める丁度いい温度だった。キャサリンは常に人間の体温、脈拍などがわかる。外からでも、建物内に誰がいるのかを把握することも可能。


「てか、夏目さん。あなたはどれぐらい時空警察のことを知っているんですか」

「時空犯罪者を取り締まるのが時空警察だろ」

「その通りです。如何なる理由があったとしても、過去を変えることは許されない。時空警察は時空犯罪者を取り締まり、歴史を守ることが仕事です」


 日本警察は一般犯罪を取り締まる組織。時間移動者ではない市民が起こす犯罪は日本警察が担当する。国民を守るのが日本警察の役割。

 時空警察は時空犯罪を取り締まる組織。時間移動者が移動先で起こす犯罪を時空警察が担当する。歴史を守るのが時空警察の役割。

 両組織の違いは守る対象が国家か、歴史か、である。

 時間移動者の判別は腕につけられているウェアラブル端末でわかる。GPSが搭載されており、時空犯罪に繋がる行為をすると時空警察に通告がいく。又、端末を腕から外した場合も時空犯罪者とみなされる。つまり、タイムトラベル中はずっとつけておかなければならない。


「夏目さんは日本警察のエリートだったと聞いていますから心配ですね」

「どういうことだ」

「もしも、未来から亡くなった命を救いに時空移動者が来たとしても、あなたは躊躇なく止められますか?」


 これまで日本警察として国民を守ってきた陽介は時空犯罪者も同じように取り締まることができると思っている。それに早く時空警察で成果を上げ、日本警察に戻らなければいけなかった。


「しっかりと覚えておいてくださいよ。時空警察は国民を守るのではなく、歴史を守るんです。やっぱり辞退した方がいいと思いますよ」

「どういうことだ」

「日本警察に戻るために時空警察で成果を上げようと思っているのなら、今すぐ辞めるべきという意味です」


 陽介が思っていたことを見抜いていた雪菜。日本警察から時空警察に配属となったのは陽介だけではない。この十五年間、日本警察から多くの刑事が時空警察へ配属されている。

 第二室の部屋に情報管理室から入電が流れる。


「キャサリン! 行ってきます」


 すぐに飛び出す雪菜。その後をついていく陽介。二人は時空警察車両が置かれている地下駐車場に向かう。

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