お年玉の半分
お正月の楽しみと言えば、正月休み、おせち料理。
それから、子供にとってお正月の楽しみと言えば、
何と言っても、お年玉だろう。
ここにいるその男子中学生も、例外ではなく、
お正月に貰えるお年玉を楽しみにしていた。
しかし、
そんな男子中学生の夢を打ち砕くような、
無情な言葉が両親から告げられた。
「今年から、お年玉の半分は、親に預けて貯金するように。」
両親曰く。
その男子中学生の両親は、
幼い頃から貧しく、お金で苦労してきた。
二人が出逢い、急に子供を授かって、
出産費用を用意するのにも一苦労。
おかげで結婚式も新婚旅行もできず終い。
だから、息子には同じ苦労をして欲しくない。
若い頃から貯金して、将来に備えて欲しい。
そのために、お年玉の半分を預かって、
貯金しておくことにしたのだという。
「今年から、お年玉袋の中身の半分は、お父さんとお母さんに預けること。
良いわね?」
「はいはい、わかったよ。」
「返事は一度。」
「はーい。」
逆らえば、お年玉の半分どころか、全てを没収されかねない。
その男子中学生は、母親の言いつけに渋々従わざるを得なかった。
早速、両親から貰ったばかりのお年玉の半分を奪われてしまい、
隠れて悪態をつくしかできなかった。
「ちくしょう。
せっかくのお年玉が半分になってしまった。
こんな調子で他の人からのお年玉を奪われたら、
予定が狂ってしまう。」
数日後には、親戚縁者が集まって会食をすることになっている。
その場ではきっと多くのお年玉を貰えることだろう。
しかし、このままでは、
そのお年玉の半分を両親に奪われてしまう。
なんとかしなければ。
そうしてその男子中学生は、無い知恵を絞るのだった。
数日後。
お座敷に、その男子中学生と両親と、親戚縁者たちが集まっていた。
正月に行われる、いつもの集まりだった。
皆、おせち料理や正月料理に舌鼓。
久しぶりに顔を合わせての歓談に、大人たちは酒が進んで赤ら顔。
子供たちは楽しそうに遊びながらも、お年玉を期待して気が気でない様子。
宴も酣という頃になって、大人たちが誰からともなく言った。
「そろそろ子供たちにお年玉をあげましょうかね。」
お年玉という言葉に、わぁっと子供たちが歓声を上げた。
「やったぁ!貰ったお年玉で何を買おうかな。」
「ぼく、新しいおもちゃを買うんだ。」
「わたしは欲しかった自転車を買おうかな。」
待ちに待ったお年玉を貰って、子供たちは大喜び。
そんな中で、その男子中学生一人だけが顔を俯かせていた。
このまま黙っていれば、お年玉の半分を両親に取り上げられてしまう。
来るべき時を控えて、緊張の面持ち。
すると、その肩を叩く手が。
案の定、その男子中学生の母親の手だった。
「約束通り、貰ったお年玉袋の中身の半分は、
お父さんとお母さんに預けなさい。」
予想されていた言葉。
しかし、その男子中学生は、苦し紛れに母親に言い返した。
「聞きたいことがあるんだけど、
もしも、お年玉袋の中身が、
半分に割り切れなかったらどうするの?」
「割り切れなかった場合って、中身が10001円だった場合とか?
もしもそんなことがあったら臨機応変に、
端数はあなたが使って良いわよ。
今すぐどうにかするものでもないから。」
「本当に?その返事を待ってた。」
その男子中学生は目を輝かせると、
懐のお年玉袋を何やらゴソゴソといじくって、
それから母親の前に広げて見せたのだった。
その男子中学生の前には、貰ったばかりのお年玉袋の数々。
その中身の半分は、両親に預ける約束になっている。
母親がお年玉袋に手を伸ばすと、その男子中学生が遮った。
「ちょっと待った。その前に、僕の話を聞いてよ。」
「どうしたの。
お父さんとお母さんにお年玉を半分預けるのが嫌だと言うのなら、
いっそ全部預かっても良いのよ。」
「そうじゃないよ。
これから母さんに、約束通りお年玉袋の中身の半分を預ける。
だけど、幾ら預けるのかは、これから僕が説明するよ。」
そうして、その男子中学生の大博打が始まった。
「まずは、このお年玉袋。
中身は、一万円札が一枚と、一円玉が一枚、合計10001円。
だけどこの半分は5000円でも5001円でもない。1円だ。」
「・・・どういうこと?」
怪訝な表情の母親に、その男子中学生は流暢に口を動かす。
しかしその額には薄っすらと汗が滲んでいた。
「こういうことだよ。
日本のお金は、紙幣も一円玉も、一枚の重さはおよそ1グラム。
つまり、このお年玉袋の中身は、
一万円札が一枚と、一円玉が一枚で、合計重さおよそ2グラム。
母さんと約束したのは、
お年玉袋の中身の半分を預けるということ。
金額の半分とは指定されていない。
だから僕は、重さの半分の1グラム分、一円玉一枚を預けるよ。」
お年玉袋の中身の半分とは、金額ではなく重さの半分。
その男子中学生の口から出た御託に、母親は激怒。カミナリを落とした。
「あんた、何を屁理屈言っているの!」
母親のカミナリに、その男子中学生が体を縮こまらせる。
するとそこに、集まっていた親戚たちから横槍が入った。
「まあまあ、子供相手にそんなに怒るものじゃない。
ここは一つ、正月の余興だと思って、
この子の話を聞いてやろうじゃないか。」
見ると、周囲の大人も子供も、その男子中学生を興味深そうに見ていた。
どうやら本当にその男子中学生の話を余興として楽しんでいるようだ。
その男子中学生はほっと胸を撫で下ろして、話を続けることができた。
「話を続けるよ。
母さんは、重さの半分ってのが納得いかない?
じゃあ、次のお年玉袋を見てみよう。
このお年玉袋には、一万円札が一枚と、千円札が一枚の、合計11000円。
だけど、この半分は5500円じゃない。
日本の紙幣は、だいたいどれも似たような大きさになっている。
正確には、金額が大きいほど紙幣の大きさも大きいけどね。
だけどさっき母さんは、正確に半分じゃなくても良いと言った。
だったら、このお年玉袋の中身の半分として、
面積の半分である千円札一枚を母さんに預けるよ。」
お座敷の酔っ払いたちが、どっと笑い声をあげた。
「わっはっは。坊主、なかなか愉快なことを考えるじゃないか。
もしも金に困ってるなら、俺に言えば良い。
出世払いでいくらか貸してやろう。」
「ありがとうございます。
じゃあ、借用書を作らないといけませんね。
借用書は、お年玉袋にでも入れておいてください。
そうすれば、母が半分を負担してくれるでしょうから。」
その男子中学生の台詞に、酔っぱらいたちはやんややんやの大騒ぎ。
おひねりとばかりに、折りたたまれた紙幣が投げ込まれた。
すると、その男子中学生は、
紙幣を拾うと、折り紙のように折りたたんで、
小さな袋状にしてみせた。
「このお金は、お年玉として頂いて良いんでしょうか。
そうだとすれば、これも半分を母に預けなければいけませんね。
でも、こうして紙幣でお年玉袋を作ってしまえば、中身は空っぽ。
母に預けるのは、お年玉袋の中身の半分という約束。
お年玉袋は僕の取り分なので、丸々全部僕のものです。」
その男子中学生の大見得に、お座敷に集まった人たちは大笑い。
次々におひねりが投げ込まれたのだった。
お年玉袋の中身の半分を両親に預けるという約束。
それをその男子中学生は、重さの半分、面積の半分、
あるいはそもそもお年玉袋自体を紙幣で作ることで、
有名無実化してしまった。
正月の余興とばかりに大盛り上がりの、お座敷の人たち。
そんな中、
一人だけ頭を抱えていたその男子中学生の母親が、
ため息交じりに口を開いた。
「もう、わかったわよ。
お年玉はあんたが自由に使って良いから。
その代わり、無駄遣いしないのよ。」
「うん、わかってるよ。」
すると、その男子中学生の父親が、
ひとしきり笑い終わってから、何の気無しに尋ねた。
「ところで、貰ったお年玉は何に使うんだ?
そんなに向きになって集めたんだから、
何か使い道があるんだろう?」
「ああ、それは・・・」
貰ったお年玉の使い道を聞かれて、その男子中学生は咳払いを一つ。
集めた紙幣を揃えて、両親の前に差し出した。
「このお金で、父さんと母さんの二人で旅行にでも行ってきなよ。
僕が生まれたせいで、
二人とも結婚式も新婚旅行もできなかったんでしょ?
最初から、今年のお年玉は、父さんと母さんに渡すつもりだったんだ。
本当はもう少し後で渡すつもりだったんだけどね。」
その男子中学生が、お年玉を守るために知恵を凝らしていたのは、
両親に行きそびれた新婚旅行を贈るためだった。
真相が明らかになって、お座敷は大喝采。
親戚縁者の楽しい正月の集まりは、まだまだ続くのだった。
終わり。
お正月なので、お年玉の話を書きました。
お年玉を親に取り上げられるというのは、
誰しも子供の頃に経験があるのではないかと思います。
そんなお年玉を巡る子供と親の攻防を、
お正月らしく明るい話になるようにしてみました。
お年玉袋の中身の半分を、両親に預けなければならない。
この約束に、男子中学生は抜け穴を見出しました。
両親に預けるのは、お年玉袋の中身の半分。
それは金額とは限らない。
実は、それ以外にもう一つ、使われた抜け穴があります。
それは、お年玉袋の中身を抜き取ってはいけないが、
お年玉袋の中身を追加するのは禁止されていない、
ということでした。
お読み頂きありがとうございました。




