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クリスマスの夜に  作者: ビタードール
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4年目【ブラックサンタ】前編

 ノルウェーの礼拝堂。

 今年のクリスマスの夜も、一人の女が祈りを捧げていた。手には一杯のワインと子供ビール、クリスマスプレゼントも用意してある。それだというのに、深夜になってもその女性は動かない。


「姉ちゃん、まだ居る気かい?」


 最後に立ち去ろうとした震えたおじさんも目を細め、くしゃみをしながら振り返る。


「ええ。お気になさらず」

「吹雪が止むのを待っているなら期待しない方がいい。天気予報では明日の朝まで続くって」

「優しいのね。貴方の言う通り、外は冷えます」


 女性――アンジェリーナは、冷たい表情が溶けたような微笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がり、おじさんに自身のマフラーを渡した。


「おいお。貰っていいのかい?」

「ええ。メリークリスマス」

「ははっ。メリークリスマス」


 おじさんはマフラーを巻くのに苦戦中だった。それを見て、アンジェリーナはその手を止め、ゆっくりとマフラーを巻いてあげる。


「今日はいい日だ。こんな美人がマフラーを巻いてくれるなんて」

「それは良かったわ」


 おじさんは震えが収まった様子で白い息を吐き、アンジェリーナを気遣ってスタコラと駆け足で礼拝堂から出て行った。瞬間、アンジェリーナはくしゃみをし、寒気と共に縮こまるように座り込んだ。


「やっぱり強がりだったか」


 強気な少年の声。それを聞いて、アンジェリーナはピタッと動きを止めてゆっくりと周りを見渡す。しかし、そこには誰の姿もない。


「わっ!」

「わあ!!」


 幽霊のように前にぶら下がって来たのは、アンジェリーナが待っていた存在のように思える。しかし妙だ。


「ニコラ……サンタさん。遅刻だけで満足せず、私に怪我もさせる気?」

「でも、結果しなかった」

「もう……」

「お怪我はありませぬか?」


 サンタクロースは態度が変わったかのように机から降り、床に膝をついてその真っ白な手袋でアンジェリーナの手を取る。


「ここが少し痛んだわ。どうしてくれるの?」


 そのふざけた態度にふざけた様子で答えるアンジェリーナ。自身の胸を上品に指差し、心が痛むような仕草を大げさに見せてみる。


「これから治療いたします」

「え?」


 サンタクロースはそう言って強引にアンジェリーナは抱っこし、ニヤッと笑った。そして、独りでに開いた礼拝堂の扉に飛び込むように移動し、そこで待機していた黒いソリに乗り込んだ。そこには、黒いリボンで縛られてるクマのぬいぐるみポム吉が居る。


「何で彼は縛られてるの?」

「分からない?」

「また悪さしたから?」

「おしい。悪さされたからが正解」

「はぁ。今年の貴方何か変よ。いつも以上にナルシズムが強いような……」


 赤い帽子、赤い服のサンタクロース。それだというのに、その仕草や表情はまるで別人。そして、その化けの皮が服装ににじみ出る。


「ククッ。やっと気付いてくれた?奴を演じるのは苦痛でね」


 赤い服が真っ黒な服へと変わり、帽子も赤から黒になって、ボンボンも一つから二つになって逆立つ。更には、その黒い服が生きてるように波を打ち、ソリも黒いドラゴンへと変形した。


「うああああ!!」

「はははは!クリスマス!プレゼント!祝福幸福全てクソだ!この俺様が全部片づけてやるぜ!」

「ほわっ!逃げてアンジェリーナ!彼はブラックサンタ!!サンタしゃんの敵対者だ!」


 リボンが緩んで喋れるようになったポム吉がアンジェリーナに逃げるように言う。しかし、アンジェリーナも黒いリボンによって縛られ、拘束された状態で肩に背負われてしまう。


「他者から得た翼で舞い上がるこの文化!俺が壊してやるぜ」


 * * *


 本物のサンタクロースはソリを引いて慌てた様子で礼拝堂に来ていた。そこには、先程まで誰かが居たような足跡や寒さがある。


「はぁはぁ。一足遅かったですか……まだ願いも叶えていないのに……」


 外に出て、双眼鏡で空に舞う微かな光を除く。それは続いており、奥へ奥へと道しるべのようになっている。


「ブラックサンタ。今年は貴方にもプレゼントを贈ることになりそうですね」


 * * *


 オランダの首都アムステルダム。

 クリスマスパーティーが終わり、静寂の時間がしばらく経った。それだというのに、少年マルクは寝れなかった。それはクリスマスプレゼントが楽しみって顔ではない。不安と恐怖に苛まれている様子だ。


「ダメだ」


 お腹が空いた。まだ親の部屋から光が漏れているが、一階に下りればこちらのものだ。そう思いながら音を殺して階段を下りる。

 ここまでこれば、多少の音は大丈夫だろう。そう思ったやさき、台所から妙な気配と音がしてビクッと体が反応する。


「いたぁ~」


 思わず小指をぶつけるが、歯を食いしばってその場に跪く。そして、台所から漏れる光と音を見て、恐る恐るそれが何かを確認しに行った。


「むしゃむしゃ」


 クマのぬいぐるみか?独りでに動いてクリスマスケーキやチキンの残りを頬ぼるように食べてる。隣に誰か居るが、服装が闇に溶け込んでいて見えない。


「嘘だろ……ふぅ……エイリアンか……」


 マルクは困惑と恐怖でいっぱいだったが、どこか冷静さもあった。布を広げ、恐る恐る近付く。


(もう一人居たように見えたが?)


 恐る恐る毛布を広げてその不思議な存在に近寄る。近くで見れば、クマのぬいぐるみが動いてるだけで、他は誰も居ない。


「はっ!」

「ほわっ!」


 布団の中にクマのぬいぐるみを捕まえた。こざかしく暴れるが、力は弱いようだ。マルクが力を入れる必要もない。


「よし!よし!エイリアン確保!」

「クク。見事」


 マルクの背後から声がした。


「ッ!!」

「お前の番だ」


 と思えば、マルクも何者かに捕まってしまう。黒い布に入れられて、呼吸するのも困難なような密閉空間。パニック状態になりそうだったが、マルクは逆に安心したかのように気絶するかのように眠りに着いた。


「待て!逃がさない!食い逃げはよくないよ!」

「黙れ共犯者」

「そんなそんな!アンジェリーナ助けて!僕共犯者だ!」

「よ、擁護できないわ。でも、泥棒に誘拐、それは貴方一人、何が目的?」

「大犯罪」


 眠りから覚めたマルク。その耳には、目覚まし時計より目覚めの悪い言い争いが聞こえる。少年と女性と何だかアホっぽい声、三人が話している。

 そして、マルクはポッケにカッターが入っていたことを思い出して、黒い袋に切り込みを入れて中の様子を見た。


「とか言って、ほんとは私とデートしたいだけじゃないの?ニコラウスのこと知ってる様子だけど、ひょっとして嫉妬?」

「何を言ってるんだこの女……発想と世界観が気持ちが悪いな」

「それになぜ今年の僕達が行く国と願い人を知ってるんだ!」

「勉強してるからな~。君とは大違いだろ?」

「ちょんな!?」

「私も勉強してるわ。大学卒業後もちゃんとね」

「あっそう~。どうでもいい」


 何の話なのかさっぱり分からない。しかし、見える景色で状況は把握できる。窓から見える明るさを見るに早朝の時間帯で、場所はホテルの一室のように思える。窓から見える景色は、見たことある建物もある為、家からそう遠くはないだろう。


「あ!おはよ!」

「……ぬいぐるみのエイリアン」


 ポム吉にバレたことで、他の二人――ブラックサンタとアンジェリーナもこちらを見た。アンジェリーナは手足を縛られているが、黒いサンタ服を着る少年はその立振る舞いから分かるように、この中で一番主導権があるようだ。


「何で僕を攫ったの?」

「おっと。質問は受け付けない。それをするのは俺だ。なぜ願う?何を願った?」

「……願った?何のこと」

「心当たりがあるんだろう?お前は何かを願っている……神様お願いしますってな」


 ブラックサンタの雰囲気はとても少年のようには思えない。その圧迫感に威圧されたせいか、マルクは質問を真剣に受け取って本気で考え込む。


「ッ!」

「どうやら……心当たりがあるようだな」

「平和を願ったよ」

「……」

「小さな平和。お父さんは借金を隠してるし、お母さんは先生と浮気してるし、僕は学校でいじめられてる。時が経てば全てが繋がって壊れ始める。そうなる前に居なくなりたいって……そしたら君が現れた。君は神様だったりする?」


 マルクの目は未来を見ていた。いつかやってくる崩壊する平和に絶望していた。その光一つ映らない瞳を見て、ブラックサンタは嫌悪するかのように片目を痙攣させる。だが、すぐに「は~」と吐息のようなため息をついてニヤリと笑う。


「ああ、神様さ」

「貴方本気で言ってるの?私を攫っといて?」

「じゃああんたにとっては悪魔かな」

「どういうことだろうか」


 ポム吉が不思議そうにしたのを見て、ブラックサンタは強く指を差してポム吉をアンジェリーナに押し付ける。


「だまれ」

「ちょんな」


 チラッと横目でマルクを見るブラックサンタは、黒い手袋から黒い灰のようなオーラを見せ、その手を差し伸べた。


「願いを叶えに来たんだぜ。それも三つ」

「三つも?」

「そうすれば、最悪の未来がなくなり、居なくなることもできる」

「え?それはどういう?」

「全部思い通りになるってことさ」


 その悪い笑みは、とても神様のものではない。


 * * *


 アンジェリーナは黒い紐を首に付けられていた。だが、身動きは取れる。


「私を連れまわす理由は何?」

「いやがらせ」


 ブラックサンタとアンジェリーナは、マルクを遠目に見守っていた。不安そうにしながら、自分の家に帰り、胃が痛そうな表情を続けている。


「本当に願いを叶えたの?貴方は何者なの?」

「俺を疑ってる癖に俺の言葉から真実を測るのか?やはり人間は愚かだな」

「少しでも情報を得て、真実を確かめる為の質問よ。愚かさで言ったら貴方も負けてないわ」

「それは良かった……マジどうでもいい」


 二人が見守る中、マルクは家の中に入った。リビングには父、台所には母が居て、二人共起きてから間もない様子だ。


「どこ行ってたのマルク?」

「散歩」

「今朝は随分早いのね」

「うん。クリスマスだから」


 マルクは相変わらずの様子で、料理をする母と会話する。その横目で、何かを確認する父を観察するように除き込む。


「何してるの?父さん」

「ああ、子の前買った宝くじの結果を見てた」

「あら、珍しいわね。貴方普段買わないじゃない?」

「同僚の付き添いでな」


 嫌な予感がする。いやその逆だ。良い予感……それだというのにざわめくような心の揺らぎ。マルクの中で疑念が確信へと近付く。


「ってる」

「え?」

「当たってる……」

「何が?」

「番号の見間違いか?いやいや待て待て!!」


 マルクは一人慌てる父の宝くじを奪うように取り、その番号と雑誌の内容を照らし合わせる。


「なんてこった……当たってる。日付や場所の間違いではない」

「嘘!?」


 そこに母もやってきて濡れた手をエプロンで拭きながら摘まむように宝くじのチケットを持ち上げる。


「二等!?1000万!!」


 父と母が喜ぶ中、マルクは手も足も震えていた。こんな魔法のように事が上手くいっていいのだろうかと……。だからこそ、神の存在を疑った。


「あのサンタ」


 窓から一瞬見えた黒い影。


「君は本当に……神様なのか?」

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