完璧淑女からお転婆令嬢にジョブチェンジしたら人形狂いの王子様から迫られています!(恐怖っ!!)
短編です。
「あれからずっとレイアナ嬢が気になっていました。どうか、僕と婚約してくれませんか?」
「・・・・・・」
・・・・・はい?
もう一度言います。はいぃ?
一体どうしてこんなことになったの? ねえ、どうして? どうしてよ!?
・・・・・・・・
ふざけた現実逃避はやめよう、うん!
そして思い当たることが一つだけある。
ああっ、誰か、誰か邪魔をしてちょうだい!
今日ばかりはいつもウザったかったあの二人が恋しい。
話は一週間前に遡る。
♣︎ ♣︎ ♣︎ ♣︎
私の気分は最悪だった。
またいつものようにボンクラ王子と尻軽女が自慢話という名の邪魔をしてくると思うと、憂鬱でたまらない。
あの二人は学園で何かにつけて俺たちはこんなことをした〜だの、私は王子様にこんなに愛されてるのよっ!〜だの、ハッキリ言って興味ないしウザいったらありゃしないことを自慢しにくるのだ。
私は仮にも婚約者の男ーーしかも相手は正真正銘の王子ーーに興味がこれっぽっちもない。
正直に言って婚約破棄したい。興味のない相手と結婚したってその生活は目に見えるようだもの。
私も一人の乙女、結婚に夢ぐらい見るわ。
父は王族、もしくは高位貴族と結婚することが私の幸せに繋がると思い込んでいるけれど、そんな勝手な親の思い込みに巻き込まないでほしい。私は自分で自分の幸せを見つけると何度も言っているのに頑固な父は、王子の素行を知っていながらも婚約破棄には頷いてくれない。いくつかある公爵家の中でも特に大きな権力を持つシィルランド公爵家ーーつまり私の家ーーなら相手が王族といえどやろうと思えば婚約破棄だってできる。これが本当に娘のためになると思っているのだから厄介だわ。
今はちょうどお昼。誰もいない学園の裏庭で一人寂しく昼食を摂っている。皆さん、王子と女狐と私のやり取りに巻き込まれたくないらしく、私は遠巻きにされていた。だから当然、お昼仲間もいない。
私は誰もいないのをいいことに一人呟く。
「あ〜あ。婚約破棄した「レイルア! もう我慢の限界だ・・・っ! お前との婚約を破棄する!」
・・・・あ、あら? 幻聴かしら? なんかすごく都合の良い言葉が聞こえてきたような・・・
「レイルア! 聞こえているのか? 俺はお前と婚約破棄をすると言っているのだ!」
え? 幻聴じゃないの? それなら私も遠慮なく言わせてもらおう!
「はい、喜んで! ではさようなら!」
は〜スッキリしたわ!
私はスキップでもしそうな足取りで華麗にその場を去る。
後ろで私のあまりの変わりように呆然としていた王子が我に返って何か騒いでいるが、やってきた尻軽女に「婚約破棄してくれたの〜? ありがとー! 愛してるわ!」みたいなバカみたいなことを腕を絡めて言われながら、なんか引っ張られていった。
王子の惚けたアホ面はしっかりと目に焼き付けたわよ! 今までの迷惑料にしては全然足りないけれど、今はこれで我慢しましょう。あのアホ面、絵に描いてバラ撒いてやろうかしら? そうすればあのバカボン王子の無駄に高いプライドにもちょっとはダメージを与えられるかもしれないわね。
王子と尻軽女が見えなくなったところで私はついつい小躍りしてしまった。
・・・やたらと大きい池のすぐそばで。
「やったっ、やったわ! ついに婚約破棄なのね! これで私も完璧淑女を演じなくて良くなるん・・・・・
ぎゃあー!!」
全く色気もへったくれもない悲鳴を上げて池に落ちてしまった。浮かれすぎて池の存在に全く気付かなかったわ・・・・
そのとき、ずぶ濡れで池から這い上がった私に涼やかな声が降りかかった。
「一体何をしているんです? レイルア嬢」
水気で張り付いた長いダークブロンドの髪をはらいながら私は話しかけてきた本人を見上げた。
「なに? してちゃだめな・・・・」
呆れを滲ませた声にムッとして思わず言い返そうとして顔を上げた途端、私は凍りついた。
艶やかな麗しい黒髪にバカボン王子と同じ濃い紫の瞳。
な、なぜここにあのバカボン王子の兄、ルカーシュ殿下がいるのよ!?
「な、なんで・・・」
「なんでと言われましても。完璧淑女と名高いシィルランド家の令嬢が満面の笑みを浮かべて踊り出した挙句、足元にあった池に気付かず威勢よく落下していったのでつい観察してしまいました」
・・・・・・・・
全部見られてたー! は、恥ずかしい〜!! 穴があったら入りたいっ・・・!
多分、今の私の顔は見事な赤に染まっていることでしょう・・・!
「それで、完璧淑女の仮面はどこにいったんです? まぁとにかく、婚約破棄が叶って良かったですね・・・って、もういないじゃありませんか。ク、ククッ。私の愛した人形が実はこんなだったとは・・・いいですねぇ、面白い・・・・」
私が羞恥心から逃げ出した後、恍惚とした表情でそんなことを呟いていたなんて、すでに離れてしまっていた私には知る由もなかった。
♣︎ ♣︎ ♣︎ ♣︎
これが一週間前の出来事。
そして現在に戻る。
ほんと、どうして婚約破棄したバカボン王子の兄に求婚されているの。この状況の意味が分からないわ。
もし王子である彼と婚約したとして、また完璧淑女を演じなければならないのは絶対にいやよ。本当の自分を押し殺すのはかなり苦しかった。あんな最低浮気野郎を相手に今まで自分を犠牲にしてきた私を褒めてほしいわ。
「ああ、それは心配には及びません。大丈夫です、私と婚約したとしても貴女の自由は奪いません。ありのままの自分を出しても良いですよ」
まるで私の心を読んだかのようだ。
・・・・あんな場面を見られる前なら、さぞやロマンチックに聞こえただろうなぁ。
でも、醜態を晒してしまった今の私からしたら複雑な気持ちだ。
「私は、自分の意思などなさそうな人形のように完璧だった貴女が感情豊かな人間に変化するところを目撃し、その変わり様に惹かれたのです。いつか私が、きちんと自分の意思を持っている感情豊かな人形へと貴女を変えて差し上げます・・・」
途端にうっとりとして話し始めるルカーシュ殿下。
狂ってる・・・ルカーシュ殿下は狂っておられるわ。
私を意思と感情のある人形へ変えてあげると語る彼の恍惚とした表情からは狂気が感じられる。
そもそも、その言葉の意味も不明だ。
逃げようと思うのに足がすくんで動けない。
このまま私は捕まって人形へと変えられてしまうのだろうか・・・?
あぁ、未来の私に幸せあれ・・・・・
ホラーな終わり方でした。ラブコメを目指して書いたのになんでこうなった・・・?
それと後味が悪くてすみません・・・
(補足)
レイルアのバカボン王子という呼び方は、バカとボンクラを勝手に省略しました(笑)
レイルアは少し口が悪いです。
ちなみにレイルアの元最低婚約者君にも、ハインラッツという名前がちゃんとあります。
レイルアは名前で呼びたくなんてないので、心の中では好き勝手に呼んでいるだけです(笑)
それからレイルアは自分では興味がないと思い込んでいるだけで実際は嫌悪しているよう。
好きの反対は無関心だと言われていますが、そうなるとレイルアはハインラッツに嫌悪という関心があることになりますね〜(雑談)
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