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二十八話 【互助会】に戻り

 ギデアは黒い外套を見に纏った何時もの姿に戻ると、犯罪者となった迷宮挑戦者たちに失望したまま、迷宮の出入口まで戻ってきた。


「やはり犯罪に走るような輩は、戦い方もおざなりでしかなかったな」


 期待外れだったと思いつつ、ギデアは【互助会】の建物の中に入る。そして買い取り受付にて、大型の不思議な鞄に入れてきた迷宮で集めてきた【魔晶石】と【顕落物】を全て売却することにした。

 主に二十一層から三十層までの魔物の【魔晶石】と【顕落物】だが、そのあまりの量に受付の若い男性職員が頬を引きつらせる。


「あ、あの、これは?」

「半引退を認める代わりに、会長に集めてこいと頼まれてな」

「えーっと、怒らないで欲しいのですが。これ全部、本当にギデアさんが収拾してきたもので?」

「俺は単独行ソロだ。俺以外に誰がいる?」

「それは、他の挑戦者から巻き上げたり?」


 言い難そうに告げた職員に対し、ギデアは呆れ顔を返す。


「他の挑戦者から奪い取る労力を払うぐらいなら、魔物を倒した方が早いだろ。いや、もしかして【互助会】は、俺を犯罪者にしたいということか?」

「い、いえ! そんなことはありません! ただ、その、ギデアさんはいつも【魔晶石】を一つか二つだけだったので、驚いたと言いますか……」


 要領を得ない言葉にギデアが疑問顔を浮かべていると、別の年嵩の職員がやってきて、受付でギデアの対応していた若い職員の後ろ頭を引っ叩いた。


「馬鹿。ギデアさんになんてこと言ってんだ。【互助会】の職員ともあろう者が、取るに足りない噂に騙されるな」

「いや、でも先輩。そう考えていたのは、なにも僕だけじゃ――」

「噂?」


 ギデアが一言で疑問を投げかけると、二人の職員が共にバツの悪そうな表情になった。

 そして口を開いたのは、年嵩の方の職員だった。


「馬鹿な噂ですよ。ギデアさんは二十一層で逃げ回りながら、他の挑戦者たちが取りこぼした【魔晶石】を一つ二つ拾って引き上げてくるに違いないっていう」


 ギデアは、噂のことではなく、職員の言葉自体に疑問を覚えた。


「【魔晶石】も金になる。取りこぼすことなんてあるのか?」


 迷宮の二十一層からは限られた挑戦者しか入ることができていない。そのため、二十一層より先で出る【魔晶石】は、二十層以内の層の者に比べると、かなり割高で売ることができるもの。それこそギデアが一つ二つ売るだけで、不自由なく日常生活と迷宮行の資金にできるほどだ。

 そう考えると、【魔晶石】を一つや二つであろうと、挑戦者が拾い損なうことはないように思える。

 しかし年嵩の職員の見解は違っている。


「二十一層からでる魔物の【顕落物】は、大きなものが多いです。特に【石動像】の【顕落物】は、どんな種類でもかなり嵩張ります。しかし【魔晶石】に比べて、【顕落物】の方がかなり高く売れもますもので」


 現在のギデアは、会長から大型の不思議な鞄を渡されたから、大量に【魔晶石】と【顕落物】を集めることができる。しかし大型の不思議な鞄を手に入れることができたのは、【紅玉動像】を倒して得た大きな紅玉の売却益があったからだ。

 大きな紅玉の売却代と同じだけの大金は、いかな挑戦者といえど、おいそれと用意できるものじゃない。

 そうなると必然的に、普通の背嚢や背負子を使って収拾するしかなく、持てる重量にも制限をつけなければいけない。

 重量制限を考えると、どうしても【魔晶石】を諦めて【顕落物】を選択した方が実入りが良くなる事が多くなるわけだ。

 以上の事実とギデアが常に【魔晶石】を一つ二つしか売却しない行動を繋ぎ合わせ、『【ホラ吹きのギデア】は二十一層で【魔晶石】を拾い集めて帰ってくるだけの腰抜け』という噂が形成されていたらしい。

 そういう経緯を聞いて、ギデアが思ったことは感心だった。


「なんとも想像力が逞しいな。何の繋がりもない二つの事を繋げるなんてこと、俺では思いつきもしない」


 ギデアが感想を言ったところ、年嵩の職員から呆れ顔がやってきた。 


「ギデアさんがあまりにも評価を気にしないから、何も知らない挑戦者や職員が変な噂に踊らされるんです。少しはご自身の力量を見せつけた方がよろしいですよ」

「他者の評価を気にしたり、無意味に力量を見せつけたところで、俺の剣の腕が上がるわけではないだろう――」


 と何時も思っていることを口にしたところで、ギデアは待てよと思い返した。

 ギデアが『挑まれ屋』を営むには、どうしても【互助会】や会長の協力が必要になる。なら職員から『実力を見せつけろ』と提案があった今こそ、協力を取り付ける話する絶好の機会ではないかと。


「――力量を見せつけるには、他の挑戦者と戦ってみることが一番だと思うが、どうだ?」


 急にギデアが乗り気な言葉を出したことに、年嵩の職員ですら驚いたようだった。


「えっ!? いや、まあ、確かにその通りです。でも、挑戦者を斬りつけたりでもしたら、【互助会】はギデアさんを犯罪者認定しないといけないのですが」

「なにも真剣でやるひつようはない。木剣などの模造武器を使っての模擬戦をすればいい。それなら問題はないはずだ」

「確かに問題はありませんし、ギデアさんの実力を確かめるべく仇名や噂に踊らされている挑戦者たちが挑んでくるとは思いますが」

「問題がないのなら、【互助会】が模擬戦をやる場所を都合してくれるよな?」

「あまり挑戦者同士の私闘を認めるような真似は、【互助会】としては歓迎しがたく」

「俺の実力を見せた方が【互助会】にとっても良いのだろう。だから提案してきたのではないのか?」

「それは……」


 年嵩の職員が答えに窮していると、助けの手がやってきた。

 総合受付の女性職員が、ギデアに近寄ってきたのだ。


「ギデアさん。会長がお呼びです。模擬戦の件も会長にお伝えしてはどうですか?」


 ここで会長が出張ってきたことに、ギデアは眉を寄せる。


「あの会長なら面白がって模擬戦を許可はしてくれるだろう。代わりに、面倒事を押し付けられそうだが……」

「会長がお決めになったことなら、職員一同は協力を惜しみませんよ?」


 女性職員の笑顔に押されて、ギデアは会長室へと向かった。

 そして会長室で少し長めに会話を行った後、ギデアは『挑まれ屋』を【互助会】協力の下で行う許可を得ることになった。

 その代わりに、罪を犯して迷宮に隠れ住んでいる挑戦者たちをもう一組討伐するよう、会長命令という断れない要請を受ける羽目になってしまったのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] さくさく読めるので、暇つぶしにこの話まで読んだけど、本当に互助会の存在が意味不明。
[気になる点] ギデアさんが贔屓にしても返してくれそうでもないからなぁ…。 社会性があるわけでもなければ利益で動くタイプでもない上に、ギルドが解決できそうな何かに困ってる訳でもない。 できるとしたらい…
[一言] え?指導のなってない職員という貸しを一つ作るどころか、 会長命令を一つ受けさせられるの?
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