宮本輝「青が散る」
宮本輝さんの作品で初めて読んだのは「泥の河」だったと思います。戦後の大阪が舞台になった作品で、まだ馬車などが使われていた当時の街の風景などが濃く描写されていて、とても雰囲気のある文章だなと感じました。強烈なエピソードを最初に持ってきて読み手を作品世界に引き込んでしまう物語構成も上手で、すごい作家さんだと読みながら思いました。
それからは「宮本輝全短編」という本を買って一応短編作品はほとんど読み、長編やエッセイなどもちょこちょこ読んでいました。読みながら感じるのは、作品内に作者の存在を感じさせないということです。他の作家さんの作品を読んでいると、何となく作者その人を感じることがあるのですが、宮本輝さんの文章にはそれがありません。淡々と平易な言葉で話を進めていき、また物語自体もフィクション臭くないというか、読みながら小説の世界というよりも現実世界を感じさせます。
この「青が散る」は宮本輝さんの大学生活がモデルになっているようで、主人公は新設された大学の一期生です。テニス部に入部し、日々練習に打ち込んでいたという自身の大学生活を基盤にして、そこに様々なフィクションの風が吹き込まれています。テニス部の仲間との交流や、美貌の女子生徒夏子との出会いなど、様々な事件を大学生活の中で展開していく構成力は流石で、上下巻のある小説でしたが四日ほどで読み終わってしまいました。今との時代の違いのようなものを感じる部分も少しありましたが、こういう大人の青春小説のようなものも読んでみると面白いなと思えました。宮本輝さんの作品は、長編小説を書く時のお手本にもなりそうなので、また機会があったら読んでいこうと思います。