森田正馬「新版 自覚と悟りへの道 神経質に悩む人のために」
森田正馬の「新版 自覚と悟りへの道 神経質に悩む人のために」を読み終わりました。
森田療法の本は二年前くらいに一冊だけ読んだことがあるのですが、森田正馬自身の本は読んだことがなかったので、これが初めてとなります。
座談会形式なのか、患者個々人が自分の体験した病気の症状などを話し、それに対して森田正馬が答えていくという本になっています。理論的な説明はほとんどなく、多くは森田自身の簡潔で明快な返しが主になっています。
お寺の鐘が鳴るとそれを自分が盗んだのではないかと感じる窃盗恐怖の女性の話や、部分部分に意識が集中してしまい、物を全体として捉えられなくなるという経験をした倉田百三という作家の話など、強迫観念の経験者でないとなかなか単純には頭で理解できないような複雑な症例も出てきて、どこか生々しいその壮絶な体験談に不思議と慰められるような気持ちになりました。
それらの複雑な症例に対し、森田正馬は少しも理屈っぽい話をせずに、例え話などを交えながら理路整然とそれらの現象が起こるメカニズムを語っていきます。それぞれの症例に対していろいろな答え方をしていますが、全体を通じて、自分の心に逆らわない、ということを言っているような気がします。怒りや戸惑い、不安などの負の感情が起こることを認めながら、それに振り回されない生き方を目指す。それは理論として定着させようとすると崩壊してしまう治療法なのかもしれません。治すというより、心構えをつくるようなニュアンスを読みながら感じました。
森田正馬自身、弱点がない人というか、とてもはっきりしていて、患者に対しては厳しい物言いも多いのですが、実際に入院したらとても頼りになる方だったのだろうなと、文章からその人柄が強く伝わってきました。
良くも悪くも心を揺さぶられる本で、読みながら調子が良くなったり悪くなったりしました。一冊読むだけで安定剤にも、また逆に心を乱されたりもする、とても強力な本でした。森田療法、また森田正馬自身が書いた本は今後も読んでいきたいなと思わされました。
この本はとても良い本でした。自分の感想ではなかなか魅力を伝えきれないので、興味が湧かれた方や、精神的に悩まれている方がいれば、ぜひお読みください。