『鼓動が重なる時。』「テーマ 放課後 〜ゆいこのトライアングルレッスン・ムービー〜」
私はその日、委員会で任された作業を一人でしなくてはならず、いつもより帰りが遅くなってしまった。
作業を終えてしんと静まり返った誰もいない廊下を一人で歩いていると、何だかこの世に私一人っきりになったような気分になる…。
心細さを感じて足早に下駄箱へ向かった。
「はぁ。なんだか変な感じ。誰もいないのってこんなに寂しいんだ…。」
赤みを帯びていた空も段々と薄暗くなってきていて、なおさら寂しさを誘う。でもそれは空のせいだけじゃない気がしていた。
…いつも一緒のあの二人がいないから。
「…なんか怖いかも。早く帰ろ。」
いつもよりもだいぶ早歩きで学校を後にしようとしたら、校門の所で聞き覚えのある声が耳に届く。
「おい。ゆいこ!」
「えっ?…ひろし!?なんでここにいるの?先に帰るって言ってたのに。」
「いや、遅くなりそうだから心配でな。たくみは用事があるからって先に帰ったんだけど。」
「そう、なんだ…。ありがと。」
(嬉しい…。心配して待っててくれたなんて。)
何も言わずに門の外で待ってるなんてひろしらしいな。
言ってくれれば良かったのに。
私が気を遣わないよう連絡をせずに待ってくれていたひろしの優しさを感じてさらに嬉しくなる。
「家まで送るよ。だいぶ暗くなってきたからな。」
「…うん。ありがとう。」
二人きりで話す機会がないわけじゃない。
でも、どうしてだろう?
今日は何となくいつもと空気が違う気がする。
「なぁ、ゆいこ。…ん。」
ふいにひろしが差し出した大きな手。
「えっ。ど、どうしたの…?」
突然の事に戸惑う私に構わず、ひろしは私の手を取って歩き出した。
「ちょ、ちょっとひろし!」
珍しく強引なひろしに驚いてしまう。
「…今日ぐらい、いいだろ?」
立ち止まり私を振り返りながら、優しい笑顔で言うひろしから目が離せなかった。
「う、うん。」
真っ赤な顔を隠すように俯いた。そんな顔で見られたら嬉しくなっちゃうよ。
嫌なわけないじゃない。
だって、私は…。
大きな手に包まれて安心するとともに胸がドキドキと高鳴るの感じる。心臓の音がひろしに聞こえてしまわないか心配になった。
手を繋いだまま二人で再び並んで歩き出す。
するとひろしが真っ直ぐに前を向いたまま私を呼んだ。
「ゆいこ。」
「ん?なぁに?」
「…俺、ゆいこが好きだ。」
「えっ!?き、急にどうしたの?す、好きって!!」
突然の事に驚いて立ち止まった私の顔を見たひろしの目は真剣だった。
「驚かせてごめん。…でも、もう黙ってるの無理なんだ。俺、ゆいこが好きだよ。」
どうしよう…嬉しい!嬉しいけどなんて答えたらいいの?私の気持ち、そのまま伝えていいのかな…?
「……。」
色々な感情が混ざってしまって嬉しいのに言葉が詰まって出て来ない。私の言葉を待っているひろしは、眉を下げて困惑した顔をしてしまっている。
早く答えなくちゃ…!
あぁっ!もうっ!!
私は繋いだ手を離してひろしに抱きついた。
「えっ!ゆいこ!?」
ひろしは私の思わぬ反応に驚いている。
そりゃそうだよ!たぶん私が一番驚いてるもの!
そうやって勢いで抱きついてしまってから、自分のした事の恥ずかしさに顔を上げられなくなってしまった。
「…私も急にごめん。でも、上手く言えないよ。嬉しすぎて。」
ひろしの胸に顔を埋めたまま、ゆっくり言葉を選んで話す。
ドクンッドクンッ…と心臓の音が耳に届く。
私の音…?それともひろしの?
二人の鼓動が重なって聞こえる。
その音に安心したからか今度は自然と言葉が出てきた。
「…私も好き。ずっと好きだったの。」
私の言葉を聞いてひろしが大きな腕で私を包み込んでくれる。
「ありがとう。俺も嬉しいよ。」
耳元で優しく声が響く。
あぁ、このままでいたいな…。
そう思った時、ひろしが頭をポンポンッと撫でて体を離す。
「今日は帰ろ?続きはまた今度な…。」
「…その顔、ズルい。」
ははっ。と柔らかく笑うひろしにまた顔が熱くなるのを感じたのは…内緒ね。