終幕の一刃、閃きて
TSロリっていいよね
TSロリっていいよね
TSロリっていいよね
本日二度目のどうもです。
遂に戦いも終幕を迎えます。さて、勝負の行方は……?
ではでは、お楽しみあれ。
一度インターフェースを閉じた俺は、バサリ、と翼を羽ばたかせ、ゆっくりと地面に向かって降りていく。
まだローザネーラにあっといわせる策は出来てないけど……そろそろ《飛行》スキルの効果が切れる。
種族スキルのレベルは、自身の種族レベルと連動している。つまり現在は4。効果時間はごく僅かだ。
ローザネーラは動かない。険しい視線と膨大な殺意を叩きつけてきているが、それだけだ。
身を竦ませるような殺気にも、もう慣れたもんである。真正面から受け止めようとするからダメなのだ。柳のように受け流すのがコツである。
まぁ、手を出してこないだろうなっていう、確信に近い予測はしていたけどね。
ローザネーラはあくまで俺を完膚なきまでに叩きのめすことにこだわっている。もはやそれしか見えていないってレベルで。
ならば、降下中を狙うという、不意打ち染みた真似はしないであろうという、ある種の信頼からくる予測だったが……うん、俺が地面に降りるまで、案の定何もしてこなかった。
地面に降り立った俺は、ゆっくりと大鎌を構えなおしながら、十五歩分は先にいるローザネーラをまっすぐ見つめる。
「良かったのか? 絶好のチャンスだったのに。これを逃したら、お前の攻撃が俺に当たる機会はもうないんじゃない?」
「……ほんっとうに、舐めたことを言ってくれるわね……!!」
「だって、事実ですしぃ? くすくす」
え? 一発喰らって死にかけたじゃないかって?
間抜けなミスで大空の旅にご招待されたけど、アレだって大鎌で防御して衝撃は全部吹っ飛ぶのに使ったからHPは減ってないのだ。ノーカンでいいだろう。
それに、さも当然みたいな口調で言ってやれば、ほら御覧のとおり。ローザネーラもそのことをすっかり忘れてしまったご様子。
語尾を伸ばしたムカつく口調と、わざとらしい嘲笑にローザネーラはさらに怒りを加速させ、癇癪を起こすように大鎌を地面に叩きつけた。
赤茶けた大地が轟音とともに罅割れ、凄まじい衝撃が砂埃と礫を四方に飛ばす。
俺の方にも飛んできたそれを大鎌で払いのけ、改めてその凄まじい威力に内心で驚愕する。
小石が銃弾みたいな速度になるとか、どんな衝撃だったんだか……ん?
……衝撃……加速……ふむ、単なる思い付きではあるが……行ける、か?
脳裏に浮かんだとあるアイデアを反芻する。確証はないが、これならばローザネーラの意表を突けるかもしれない。
あまりに突拍子がない、素面なら速攻で「はぁ?」と怪訝さを隠そうともしない声を上げただろうが……戦の高揚にヤられちまった俺の頭には、それが最も良い考えに思えてくるのだ。
無論、試している暇なんてないし、机上の空論だけど……やってみる価値はある筈。
結局行きつく先が敗北なら、最後には徒花の如く華麗に散ってやろうじゃないか。
さて、そうなると……少々、仕込みをする必要があるな。
「……はぁ」
俺は、構えていた大鎌を無造作に降ろすと、これ見よがしに溜息を吐いて見せる。
何処までも人の心を煽るような、たっぷりの嘲りを含ませて。
ついでに、ローザネーラから視線を逸らし、片手でツインテールを弄びだす。
この仕草を見たものはどう思うだろうか? 戦闘中に武器を下ろし、集中を欠いた姿。
それが、プライド高く、激昂しやすい人物だったら?
答えは、目の前に。
「貴女……それはなんのつもりなのかしら……? ワタシを馬鹿にしているの……?」
ふるふると震えながら、感情を押し殺した声を発するローザネーラ。
俯いているからどんな顔をしているのか分からないが、まぁ凄い顔をしているんだろうな、と。
よし、釣れたな。これで第一段階はクリア。
後は、俺の言いくるめ能力に掛かっている。さぁ、全力で演じ上げて見せようじゃないか。
「べっつにー? バカにしてるわけじゃないけどぉ……なんだかちょっと、飽きちゃった、みたいな?」
「……あき、た?」
ローザネーラが顔を上げ、呆然とした瞳で俺を見る。
「何を言っているんだこいつ」という至極当たり前な主張がビシバシと送られてくるのを受け流しつつ、俺は全てに関心を失ったような表情で続ける。
「だって、さっきからずっと同じことの繰り返しじゃない? お前が攻撃して、俺が避けて……あまりに代わり映えがないから、つまらないなぁって」
「……なかなか、ふざけたことを言うじゃない。無駄な心配ごと斬り捨ててやりたくなるわ……!」
「攻撃が当たらないのにぃ? 出来ないことを自信満々に言うの、恥ずかしいから辞めた方がいいと思うなぁ」
くすり、と笑いながら言った瞬間。
ギリィ! という、嫌な音が耳に届いた。
ローザネーラが大鎌の柄を力の限り握りしめた音。同時に、放たれる殺気がより濃くなる。そろそろ殺気が目に見えるようになるんじゃない?
「……殺すッ!」
「脅し文句がワンパターン。ふふっ、大人なのは身体だけなんだねぇ、ローザネーラちゃん」
「……ッ!! ……ッ!!」
それでも、煽ることをやめない。言外に「お・こ・ちゃ・ま」と言ってやれば、その形相は夜叉のそれに早変わり。
いいぞ、そのまま怒り続けてくれ。冷静さを欠いてくれればくれるほど、俺に有利になるのだから。
ああ、それにしても……さすがにコイツ、煽り耐性がなさすぎやしないか?
自分で言ったことだが、あのこらえ性の無さはまさに子供並。見た目と精神が釣り合っていないのか……?
と、そこまで考えたところで思考を打ち切る。気になりはするが、今のところローザネーラの性格は俺の助けにしかなっていないのだし、考察はあとにしよう。
俺は大鎌を持つ手を後ろに回し、小さく首をかしげるとにこりと微笑んで見せる。
第二段階、開始。
「だから、ローザネーラちゃん……次で、終わりにしない?」
「……なんですって?」
怪訝そうな顔をするローザネーラに、役者にでもなった気分で大げさな仕草を見せる。
大鎌をくるり、と回し、胸の前に。
そして、ローザネーラへと柄の先を突き付ける。
「このいつまでも終わらない舞台に、幕を引こうと言ってるんだよ。西部劇のように……って言っても伝わらないか。つまり、同じタイミングで攻撃をして、互いに一撃を叩きこむ。で、最終的に生き残っていた方の勝ち……どう? シンプルで分かりやすいでしょ?」
にっこりと微笑みながらも、視線だけは挑発的に。
ほら、チャンスを与えてやったぞ? まさか、ここまでお膳立てをしておいて逃げるわけないよな? ――そんな言葉を含ませた表情で見つめてやれば、ローザネーラは……。
「……ッ! 上等じゃない……やってあげるわ。ワタシも貴女との警邏と泥棒ゴッコには退屈してたところなの。けれど、迂闊な提案をしたことを、後悔しなさい!!」
「ふふ、そう来なくっちゃ」
よしっ! 第二段階もクリアッ!!
煽り顔を維持しながら、内心でガッツポーズ。
これで、ローザネーラの攻撃タイミングをある程度限定することが出来た。
仕掛けは上々、後は仕上げを……と、言いたいところだが、一番問題なのはその仕上げなんだよなぁ……。
「じゃあ、そうだな……同時に5数えて、ゼロになったら攻撃……で、どうだ?」
「いいわ。必ずなます斬りにしてあげる」
――――さぁて、ここからだ。
ローザネーラは、柄を両手で握り締めると、大きく体をひねって深紅の大鎌を背後に回す。
殺意全開。一撃で仕留めるという意志がひしひしと感じられる。
対する俺は、大鎌を身体の前で構え、体勢を低くした。
速度重視。出来る限り素早く動けるように。ただそれだけを考えた構えを取った。
否応なしに高まる緊張感。
戦いが終わりに向かっていることが、肌で感じられる。
視線は、前に。
俺の真紅と、彼女の深紅が、交わり――弾けた。
「「――5」」
痛いほどの静寂の中、どちらからともなく、カウントを始める。
「「――4」」
張り詰めた糸のような空気は、少しのはずみで切れてしまいそうだ。
「「――3」」
集中を高めた視界の中で、ローザネーラが鎌を握る手に力を入れたのが見えた。
「「――2」」
ざり、と地面をこする音がした。どちらが発したものか、もう分からない。
「「――1」」
そして――――。
「「ゼロォ、ォオオオオオオオオオオオオオオォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」
裂帛。
絶叫。
迸る。
地面が抉れ、放たれた矢の如く猛進してくるローザネーラ。
俺も、強く地面を蹴って飛び出した。
「はぁあああああああああああああああああああああああッ!!!」
もう殺す!! としか思っていないだろうローザネーラが接近してくる。
一直線に、愚直なまでの直進。しかし、速度は凄まじい。
――――このままいけば、俺は何もできずに斬り捨てられる。
両者の間にある能力値の差はそれほどまでに大きい。俺の攻撃が最初に届く確率は、まったくのゼロだ。
だから、それを何とかする手段が必要になる。
正統なモノでは逆立ちしたって不可能。ならば、どうするか?
――差を誤魔化すしかない。
煽り、騙し、小細工を駆使し、差をないことにする。
そして、その手段とは――。
「貰ったぁッ!!!」
勝利を確信したローザネーラの声。
彼我の距離はすでに、彼女の大鎌の一撃が届く間合いに。俺はまだ、構えの状態から動けていない。
振りかぶられた深紅。膨れ上がる死の気配。愉悦に染まった笑み。
それを見て、俺は――。
「――――【闇矢】!!」
そう、叫ぶ。
直後に、背中に走った衝撃が俺の身体を前方に加速させた。
「ッ!? なぁ!?」
ローザネーラが放った大鎌の袈裟斬りは、虚しく空を切った。彼女の浮かべる驚愕の表情に、愉快愉快とほくそ笑む。
まっ、標的がいきなり不可解な加速したらそりゃそうなるわな。
俺は生まれた加速を殺さぬように足を動かし、ローザネーラの懐へ潜り込む。
見上げれば、一転して苦々しい表情をするローザネーラの顔が。
ここまで来たら最後まで煽ってやろう。俺は、満面の笑みを浮かべてやった。
「バイバイ、ローザネーラちゃん♪」
「くっ……この……!!」
最早、抵抗は無意味。
身体を捻り、生み出した力を腕に伝え、大鎌を三日月を描くように振るう。
――――斬。
鋼の刃が白く細い首を捉え、豊かな藍色の髪ごと切り裂いた。
ひゅっ――と、首が宙を舞う。
大鎌を振り抜いた勢いのまま半回転し、ローザネーラに背を向けた俺の耳に、ずしゃっという水音と、ドサリと重い物が倒れる音が届いた。
……よしっ、これで一発は叩きこんだ。目的は達したと言えるだろう。
嗚呼……やり切った。
散々煽って、散々馬鹿にして、外道と誹られても可笑しくないことを重ねてやっと決めた超格上への一撃。
それが俺に齎した爽快感は凄まじいものだった。真夏に冷水のシャワーを浴びた時に匹敵する。めっちゃ清々しいね。
うんうん、もう殺されてもいいわ。十分満足させていただきました。むしろサクッとやっちまってくれ。
そう思い、達成感を噛み締めながら佇むこと数秒……おや? 反応がないな?
もしや、俺から攻撃されたことが衝撃的すぎて、動けなくなってるとか? ……なーんて思いつつ、背後のローザネーラを振り返ろうとした。
その、瞬間。
《ワールドアナウンス――プレイヤー:ヴェンデッタによって、ネームドボス:『【煌血】のローザネーラ』が討伐されました》
《プレイヤー:ヴェンデッタにネームドボス討伐の報酬が寄与されます》
《プレイヤー:ヴェンデッタにネームドボス単独討伐の特別報酬が寄与されます》
《経験値が規定値に達しました。プレイヤー:ヴェンデッタの種族レベルが上がりました》
《経験値が規定値に達しました。プレイヤー:ヴェンデッタの職業レベルが上がりました》
《種族レベルが一定に達しました。進化が可能です》
《職業レベルが一定に達しました。上位職への転職が可能です》
《二次職業が解放されました》
《スキル《大鎌》のレベルが上がりました》
《スキル《闇術》のレベルが上がりました》
《スキル《ファストステップ》を習得しました》
《スキル《受け流し》を習得しました》
《スキル《フラッシュアクト》を習得しました》
《スキル《刹那》を習得しました》
《スキル《首狩り》を習得しました》
《称号《名付き殺し》を習得しました》
《称号《格上殺し》を習得しました》
《称号《一撃殺し》を習得しました》
《プレイヤー:ヴェンデッタはアイテム『触媒札【ローザネーラ】』を入手しました》
《プレイヤー:ヴェンデッタは武器『深紅血装【咎人斬首】』を入手しました》
「………………………………ほわい?」
頭の中に鳴り響いた大量のアナウンスと、振り返った先で視界に入ってきた光の粒子となって消えていくローザネーラの身体。
同時に、異色の空にピシリ、と罅が入り――パリン。
ガラスが砕けるような音と共に世界が割れ、青空が顔をのぞかせた。
ばらばらと世界の破片が降り注ぎ、それと同時に元通りの青々とした草原の光景が戻ってくる。
注がれる陽光を浴びながら、俺は極まった混乱に目を白黒させながら、こてり、と首を倒した。
「……………………………………はいぃ?」
えっと、あの、その。
…………なんか分からんが、勝った?
……………………えぇ???
結局その後、近くにポップしたスライムから体当たり攻撃を喰らい、「ふぎゃぷ!」となっさけない悲鳴を上げるまで、その場から微動だにせず、呆然とし続けたのだった。
読んでいただけて誠にありがとうございます。
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また明日の更新でお会いしましょう。ではでは。




