第2章 13才夏(2)
期末試験が終わると、お姉ちゃんはもうお構いなしのマイペースだった。
「アズミちゃん。特訓の成果をお姉ちゃんに見せてちょうだい」
「期末テストで忙しくてここんとこ、ぜんぜん練習してないから・・・」
「まあそう言わずに。夏休みは長いんだから。あ、外出の時は絶対日焼け止めするんだよ、顔と、首筋と、手も、足も、ね」
久し振りなだけじゃなくて、背後に監督官がついている緊張感もあって、なかなかはかどらなかったし、うまくできなかった。
「うーん、アズミちゃん。それじゃあねぇ。ま、仕方ないっか。一回、クレンジングしておいで」
お姉ちゃんのメイクの腕はまた上達していた。どうやって練習しているんだろう?自分のメイクとは明らかに種類が違うのに・・・
「さあ、出来た!真夏の薄付きメイク」
お姉ちゃんのお古のシャツは、本当はちょっと窮屈なはずだけど胸がない、いや小さいからかサイズがちょうど。これから夏の間、こんな格好で暮らすのかな?多分、そう。
鏡の中には、新しいアズミがすましていた。
(ねえ、あなたは何を望んでいるの?自由?愛?教えて!)
返ってくるはずのない答えに耳を澄ませた。
お姉ちゃんと過ごす時間はずっと女の子で、言葉遣いや仕草に男の子が現れたらチェックが入って。
あたしはどんどんアズミになっていった。
「じゃあ、またな」
「あぁ、あんまり無茶するなよ」
森山は夏休みに入ったらすぐに空手の合宿だ。小学生達を連れて行く合宿の『スタッフ』扱いなんだって。中学生なのに、ね。それ位、空手の先生に認められているってことなんだね。そんなに打ち込めるものがあるって、素直にうらやましい。どうしても自分と比べちゃう。自分になにか、それ位の何かがあるだろうか?今の僕に・・・僕にはない。あたしには?
「大丈夫だって。どうせ先生に顎でこき使われて、チビ達を追いかけ回すだけなんだから」
なんか家に帰ってそれをお姉ちゃんになにげに伝えたら、凄くうれしそうで。なんで?
「だってさ、ちょっと気になってたんだ。森山君が遊びに来たら、アズミちゃんになれないじゃん?」
ちょっとちょっと、そういう問題?
「この夏休みはあたしにとって大切なの。ずっと欲しかった妹が出来たんだもの。いっぱい遊ぶの」
えー、僕の、あたしの都合は?