第1章 13才春(7)
中間テストの成績は思ったほどよくなかった。だからって怒る親じゃないから、気にはならないけど。
むしろ森山の方がやばかった。親にかなり説教喰らったみたいだ。
「あのさあ、塾に行けってさ」
「あ、そう?そうだな。来年、受験だからな」
「やめてくれよ。まだ今年は遊ぶつもりなんだし。そういう柴田はどうなんだ?塾とか、言われないのか?」
「うーん、うちの親って学歴とかぜんぜん気にしないし、自分から言い出さないと『むりやりさせても身につかん』とか言う方だし」
「いいじゃん、それ、らくちんで。」
「そうか?ずっと放っておかれるのって、結構不安なんだよ?」
「えー、替わってやりたいよ。だって、週2回塾で、週3回空手って、遊ぶ時間ないじゃん」
それは僕にとっても実は切実な問題であることにようやく気付いた。
(そうか、森山と遊べる時間が減るのか・・・)
またひとりぼっちの時間が増える。薄暗い部屋の中でボオッとしている自分の背中が浮かんだ。闇が誘いかけてきている感触があった。
「けどとりあえず英語と数学、だけなんだ。金もかかるしな。また、社会とか教えてくれよな?」
「僕も成績下がったから、教えるって言うほどじゃないけどね。いいよ。また一緒に勉強しようよ」
ちょっとだけ、明るみに引き戻された気がした。
(なんなんだろう?森山といれないだけでこんなに不安になるなんて。僕って、やっぱりお子さまなのかな?)
でも森山が家に来る回数は減った。ひとりぼっちの時間が増えた。寂しくなった僕は、鏡に向かうことが増えた。鏡の中に『会いたい人』がいる気がしたから。
そう、僕が同級生女子に興味がないのは、アズミがいるから、かもしれない。そう思い始めた。
ただのナル?多分そうだろう。でも、アズミはどんどん成長していく。それが楽しくて、僕は、もといあたしはメイクの練習を続けた。時々お姉ちゃんに写メ送って、アドバイスもらって・・・
しばらくするとお姉ちゃんから荷物が届いた。新しい化粧品と、メイク道具、お姉ちゃん手書きのメイクのレシピ。
中二ぐらいになると、同級生女子も当然のようにメイクを始めるし、だんだん衣装も派手になる。
(負けるもんか)
へんな競争意識がアズミを成長させていた。