第1章 13才春(6)
「どうだった?」
聞くまでもなかった。森山の顔には疲労感だけが浮かんでいた。
「テスト週間って、地獄だよな」
「まあ、でもそれでも一応終わったし」
「でも帰ってくるときが、また地獄だぜ?」
「いいよ、賽は投げられたんだから、後は神のみぞ知る」
「サイ?あんなでかいの、どうやって投げるんだ?」
僕は森山の無知には慣れているから、無視した。
「なあ、鬱憤晴らしに明日、遊び行かないか?」
「そうそう、そうこなくっちゃ。どこへいく?」
「あのさぁ、輸入バイクの展示会あんだけど、行かないか?」
「バイクかぁ。まあいいよ。そうか、森山はバイク好きなんだ」
「あぁ、さすらいのバイク乗りの武道家とかって、かっこいいじゃん」
あまりにもステレオタイプで幼稚な発想にちょっと笑いそうになったけど、でもそれが森山のいいところかもしれない、と思い返した。
「で?女の子とタンデム決めるってか?」
「男のロマンは、女には判らん!」
「おぉ、硬派だねぇ。じゃあ、明日も女っ気抜きで」
「ちなみにコンパニオンは可愛いらしいぞ」
「おいおい、男のロマンはどこへ行った?」
他愛もない会話をして別れた。
翌日、国際展示場は結構な人出だった。あちこちでコンパニオンがレオタードでほほえんで、そっちばっかりが目当てのカメラ小僧がうざかった。
何より、ちびの僕には何にも見えなかった。でも、僕は森山に誘われなかったら絶対こないような展示会だし、森山が一人で
「ドゥカティかっこええ。」
とか盛り上がっているのを見る方が笑えて楽しかった。
会場を出て、コンビニで買ったペットボトルを飲みながら公園でだべる。
「やっぱり、ビンビンくるよな、ああいうの」
「どっちが?バイク?お姉さん?」
ちょっとからかったつもりだった。
「そ、そりゃあ、どっちもさ。でもぶっちゃけ、ちょっとケバすぎるかもな。」
「森山はもうちょっとかわいい系がいいんだ。」
「そりゃそうさ。美女と野獣、っていうやつ?そういう柴田はどうなんだよ。おまえって女子に結構人気あるんだぜ?」
それは知ってた。いわゆる『草食系』だからだと思う。体小さいし、争いごと嫌いだし。
でも、同学年の女子には、なんというか興味はわかなかった。シスコン?うーん、そうかもしれない。でもそれとは違った、なんか変な感情が女子に対して拭えなかった。自分でもよく判らない、変な感情。だから、女子に話しかけられても素直に話できなかった。
でもなんだか、そんな「はにかみ屋さん」ポイとこがよけい受けているらしかったけど。本人はぜんぜんそんなつもりじゃないのに。
「そうだな。あんまりおないぐらいの子に興味ないかも」
「やっぱり、姉ちゃんか?」
「そ、そういう訳じゃないけど」
「いいや。おまえと好みが違う方が友達同士で取り合いしなくてすむからな」
「大丈夫だよ。おまえと張り合うつもりなんてないし」
正直な気持ちだった。森山となにかを争うつもりなんてなかった。争いたくなかった。
「けど、俺が好きな女が実はおまえの方が好きだ、とか言われるのってショックだぜ?」
「うーん、あんまり想像できないなぁ」
「も一回入ろうか?目に焼き付けときたいからな。せっかく来たんだし」