第1章 13才春(2)
GWに、姉貴が帰ってきた。
「雅志、久しぶりに一緒にお出かけしようか?」
「うん」
「サイズ、この前聞いたのから変わってないよね?」
「う、うん」
姉貴は、帰る一週間ぐらい前に電話してきて、僕の身長と靴のサイズとかを聞いてきた。理由は・・・もちろん知ってた。
「じゃあ、これ、どう?」
姉貴は、キャリーバッグから取り出した新しい服と靴を僕に差し出した。
ちょっと頭がくらくらした。
ひらひら白レースにウェストの所に黒のアクセントラインが入った膝丈のワンピースと、黒のストラップシューズ、白のハイソックス、リボン付き。
まんま、ロリータ・ファッション。
「着てみて」
どきどきした。久しぶりだから?それもあるけど、今までは姉貴のお古ばっかりだった。まっさらの、自分用の、いや自分専用の『ドレス』。
「ええと、ショーツは・・・これでいいかな」
フリルのついたクリームイエローのを手渡される。
「見ないでよ。恥ずかしいから」
「あ、ちょっと待って。まずシャワー浴びておいで。それと顔はこれでしっかり洗う。それと手と足のムダ毛処理もね」
洗顔フォームとカミソリを渡された。
「これ、怖いよ。使ったことないもん」
「ほんと?でも・・・あれ、雅志、あんたほとんど生えてないじゃない?足は?」
手をしげしげと眺めながら、半ばあきれたように聞く姉貴に
「そっちもあんまり生えないなぁ。僕、へんなのかなぁ?変なんだろうなぁ」
「いいじゃん、それ便利だよ。あたしもムダ毛少ないけど、友達でも苦労している娘、少なくないから。でもね、やっぱり産毛は剃っといた方がいいから。それと顔はしっかり洗うのよ。あぁ、髪の毛もきれいに、ちゃんとトリートメントもね」
シャワーから出たら、脱衣所にはさっきのショーツと・・・お揃いのブラジャーが置いてあった。
「え?え?え?これ、どうするの?」
「そろそろ、胸がないと変でしょう?」
扉の向こうから姉貴に、当たり前じゃん、とでも言いたげに普通に返されてちょっと戸惑う。それって、いいの?シャワーでちょっと治まったはずのどきどきが、また大きくなる。
「つけて上げようか?」
「ま、待って。先にショーツ履くから」
姉貴が乱入してくる前に、急いで足を通す。当たり前だけど、ちょっと前が窮屈。無理矢理押し込んで、と。どきどきは止まらない。
「とりあえず、いいけど」
「開けるよ」
扉に背を向けている僕の背後に気配が近づく。
「雅志は相変わらず、肌きれいだね。それに髭も・・・ぜんぜんないね!本当に手入れしてないの?」
「うん。だって生えないもん・・・」
「どこも?そうか、さすがあたしのお人形!」
へんな納得のされ方。
「ええと、ブラはこうやって」
姉貴の手でブラを胸に回されて、ホックが留められる。駄目だ、どきどきが・・・下半身に・・・
「ばーか、なに興奮してんの。ほら、手、通して」
肩紐を通して、初めてのブラが納まった。でも胸元がちょっと寂しい。
「ほら、これ、入れて」
姉貴が丸めたストッキングを胸元からつっこんでくる。
「ちょ、ちょっとぉ、乱暴にしないでよ」
揃いのブラとショーツで鏡の中にはロングヘアの見知らぬ女の子?がいた。
「さあ、これ履いて、これ、頭通して」
姉貴にてきぱきと着付けられていく。どきどきが、なんていうかほんわかした気分に変わっていった。なんて言うのかなぁ、うれしくて、ちょっと恥ずかしくて、懐かしくて。あぁ、姉貴との時間は本当に久し振り。
「じゃ、こっち来なさい」
姉貴の部屋に連れ込まれた。姉貴が使ってた大きな鏡は東京に持って行かずに残されている。その前に座らされて、
「おとなしくしているのよ。あたしも人のメイクなんて慣れてないから」
化粧道具を取り出して、知らない化粧品を次々に塗っていく。僕はなすがままの姉貴の着せかえ人形。
「ふぅ。こんな感じかなぁ。あとは、と」
普段、ポニーテールにしている僕の長髪を手早くまとめる。
「よしよし、きれいな髪は健在。うーん、前髪切って姫カットにしたいんだけどなぁ」
「そんなのされたら、学校行けないよぉ」
「でも、むずいぃ。ま、こんな感じかなぁ。もっとのばすか、ショートボブぐらいがいいよ」
「考えとくって」
でも、改めて鏡を見てびっくりした。
つけ睫毛もつけられて、目元パッチリの「お人形さん」みたいなのがいた。
「凄い、姉貴凄いよ」
「へへぇ。この日のためにかなり練習したんだもん。あんたの初めてのフルメイクだから、ちょっと気合い入れたもんね」
僕は鏡の中の見知らぬ存在に見とれていた。
「じゃあ、行こっか?」
「どこへ?」
「へへ、ついてきなって!」