表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10,000年の恋 時間百合シリーズ  作者: あいだ
10日後に世界が終わる百合
8/15

8日目


 あと二日で世界は終わる。私は携帯で、何度ももう聞いた曲を繰り返し再生していた。

 料金を払っていないので、表示は圏外のままだ。でも、一度ダウンロードした曲は何度も聞ける。


「何ですか、その曲」

「え、知らない? CMとかで流れてたじゃん」

「知ってますけど、好きじゃないです」


 じゃあ梨璃はどんな曲が好きなのかと思って聞いたけれど、私の知らないものばかりだった。何とかという有名な人が評価したもので、などと一生懸命説明をしてくれるので、私は彼女のその表情だけを見続けていた。


「……聞いてないですね?」

「ねぇ、梨璃ちゃんえっちしようよ。世界が終わるんだよ」


 私はつい、口に出していた。



「しません」


 今日も彼女の反応はつれなかった。昨日だって渾身の告白をしたのに、結局答えはもらえなかった。

 相変わらず瑠々が帰ってくる気配はない。このまま梨璃の家族は、彼女を一人置いておくつもりなのだろうか。まぁ私にとっては都合がいいことだけれど。でも、まだ十代の彼女を放置しておくなんてどうかしている。


「考えてもみなよ。世界が終わる前に、経験しといた方がいいよ。お得だよ」

「何ですか、お得って」

「だって、やらないよりやった方がよくない?」

「単純な二分化はやめてください」

「梨璃ちゃん」


 私は彼女の髪を撫で、そのまま肩を撫でる。彼女の体がわずかに震えるのがわかる。

 それから私は彼女の首筋に手をやって、じっと顔を覗き込んだ。


「私と寝たからって、梨璃ちゃんが何か失うことは何もないんだよ」

「処女を失うじゃないですか」

「だから、それは失うようなものじゃないんだよ」

「わかりません」

「うーん」


 私はそっと、唇を寄せる。何度もキスして、梨璃がどういうことをされると弱いのかはもうわかっている。梨璃は素直で、性欲と好奇心があって、まっすぐで真面目だ。

 私だって、世界が終わるときじゃなかったらこんなに焦ったりしない。


「大丈夫、気持ちいいだけだから。怖いことは何もないよ。キスだってそうでしょ?」

「……本当に?」


 もっと時間があるのなら、日にちをかけて、それこそホテルでも取れたかもしれない。でも、私たちに残された時間は二日しかない。

 今、私は彼女が欲しかった。林檎の木なんて私は植えない。でも、世界が終わるとしても、終わるからこそ彼女が欲しい。


「ねぇ梨璃、好きだよ」


 耳元でそっと囁いた。梨璃の体のこわばりが、ほどけていくのを感じる。人は抱えると暖かいのだな、と思う。こんなに素晴らしい命が、あと二日ですべて消えさえってしまうなんて信じられない。


「好き」

「……お姉ちゃんが好きなくせに」


 じっと私を睨み付けて梨璃は言う。


「終わったことだよ」

「殺したいくらい好きなくせに」

「そうだったけど、でも今は違う。梨璃のこと、食べちゃいたいくらい好きだよ」

「お姉ちゃんより好き?」

「うん。ずっと好き」


 それは素直な気持ちだった。もうこの数日、私はすっかり彼女への殺意も恨みも思い出さないでいる。ずっと取り憑かれたように考え続けていたことだったのに。


「……それを最初に言ってください」


 梨璃はか細い声で答えた。




 怖がって、ともすると泣きそうな彼女をなだめながら、彼女の部屋のベッドで抱いた。

 せめと思って、たっぷり時間をかけた。

 梨璃の反応は素直で、かわいくてかわいくてたまらなかった。薄めの胸も、白い肌も、何もかも手の届く場所にあるのが信じられないくらい、素敵だった。夢のよう、とはこういうことを言うのだと思う。


「あ……っ」


 達した彼女を抱きしめる。時間が足りないと思ったばかりなのに、今、世界が終わってもいいのになとさえ思う。


「ね、怖くなかったでしょ?」


 梨璃は私の方を見ずに、そっぽを向いてしまった。よほど恥ずかしかったらしい。そんな彼女を、私は後ろから抱きしめる。


「……怖かったですよ」

「どこらへんが? 痛かった? ごめんね」


 頭を撫でると、おそるおそるといった様子で梨璃は振り向いた。


「気持ちよすぎて、怖かった」


 私は彼女の唇にキスをする。そのままもう一度始めてしまいたかったけれど、怯えた様子の梨璃に配慮して何とか気持ちを静めた。

 梨璃の頭を撫で、おやすみと囁く。少ししてから、梨璃は顔を寄せてきた。そしてほとんど聞こえないくらいの小さな声で、おやすみなさいと言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ