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10,000年の恋 時間百合シリーズ  作者: あいだ
10日後に世界が終わる百合
7/15

7日目

 世界が終わるまであと三日だ。何だか現実感がない。本当に、終わってしまうんだろか。

 相変わらず道路には人がいないけれど、電気も届いているしテレビもくだらない番組を放映し続けている。みんな冷静過ぎないだろうか。

 しかし私はそんなことより、すっかり元カノの妹に夢中だった。


「あ、タオルあった?」


 洗面所から出てきたばかりの梨璃に話しかけたら、露骨にびくりとされた。


「置き場所がいまいちわかんなくてさ。人の家ってなかなか勝手がわからないよね」

「大丈夫です」


 そのまま俯いて、梨璃は立ち去ろうとする。


「髪乾かしてあげるよ」

「いいです」


 梨璃は私の方を見ようとはしない。昨日キスをしてから、だいたいがこのような反応だった。朝からずっと、私の方を見ない。とはいえ無視しているわけではなく、がちがちに緊張してこちらを意識している。


「いいからおいでって。私、女の子の髪を乾かすののプロだから」


 私が手招きをすると、しぶしぶという様子で梨璃は私の前に座った。私はタオルでその頭をがしがしと拭く。


「瑠々から最近連絡あった?」


 生え際から毛先にかけて水分を吸い取って、後ろから形のいい耳を眺めた。かわいい。食べちゃいたい、とはこのことだなと思う。でも口にしたら確実に怒られるので言わない。


「大丈夫か、って私のこと心配してました」

「うまくやってるよって言った?」


 振り向いて梨璃は私を睨み付けてくる。


「もう出てったことになってるので、何も言わないでください」

「かばってくれたんだ。優しい」


 瑠々と付き合っていた間も、こんなことはしなかったなと思う。瑠々は私の前では隙の無い態度を崩さなかった。いつだって完璧で美しかった彼女。今頃どうしているのだろう。


「違います、私が自分の自由を確保するためです」


 斧は玄関に置いたままだ。いつか彼女がひょいと戻って来たら、いつだって殺せるように。

 私はドライヤーを洗面所から持ってきて、梨璃の頭をかわかしてやった。


「梨璃ちゃんは、いつも学校で何の勉強してるの?」

「別に、普通の高校の勉強ですよ」

「普通の高校の勉強って?」


 黒くてしっかりとした髪は、乾かし甲斐があった。私はたっぷりと時間をかけて、彼女の髪を乾かす。


「……高校行ってないんですか?」


 後ろからぎゅっと抱きしめたいな、と思う。でもそうしたら彼女は逃げてしまうかもしれない。


「いちおう卒業はしたことになってる」

「勉強しなかったんですか?」

「そんな状況じゃなかったし……いや何でもない。勉強の話をした私が悪かった」

「へぇ、じゃあ勉強、教えてあげましょうか」


 梨璃は私の苦手を見つけたのがよほど嬉しかったらしい。ちらと振り向くと、にやにやと勝ち誇ったように笑う。そういう表情は、少しだけ瑠々と似ていた。


「あ、それはつまりえっちな勉強のお誘い?」

「違います」

「じゃあ交換で教えっこしようか。得意なことを」

「しません」

「私、何が得意かまだ言ってないけどなぁ」

「わかりますよ」

「へーぇ」


 私が笑うと、梨璃は顔を真っ赤にしていた。私と距離を取ろうとするかのように腕を突き出す。私はその腕を掴んだ。


「……やめてください」


 梨璃は俯いたまま、私の方を見ようとしない。


「ねぇ、何か私に言いたいことあるなら言いなよ」

「じゃあ、女の子の髪を乾かすののプロってどういうことですか?」

「え?」


 もっと違うことを聞かれるだろうと思っていた私は虚を突かれる。


「他の女の人にもいつもこういうことしてるんですか?」


 震え出しそうに緊張した様子で梨璃は言う。こんな何でもないことを気にして、問いかけてくる彼女が可愛くて仕方がない。


「してるよ」


 顔を上げた彼女は泣きそうだった。


「だって美容師だもん、私」

「え」

「お姉ちゃんから聞かなかった? まぁ今となっては失業状態だけど」


 また梨璃は俯いてしまう。耳まで真っ赤だった。


「他の女の人にしてたらだめなの?」

「だ、めじゃないです! 何でもないです!」

「じゃあ梨璃ちゃん専属になるよ」

「いらないです!」


 腕を突っ張って、近寄るなというように梨璃は私を睨み付ける。でも、その目は逆効果じゃないかな、と思う。


「お姉ちゃんにもやったんですよね」


 泣きそうな声で梨璃は言った。


「したけど、もうやらないよ。梨璃だけ。梨璃が最後だよ」


 世界が終わる。でも性懲りもなく私は、彼女にもっと触れたいなと思っている。何もかもどうだっていい、とにかく触れたい。私は精一杯真面目な顔を取り繕って言う。


「私の最後の恋人になってよ」

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