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10,000年の恋 時間百合シリーズ  作者: あいだ
10日後に世界が終わる百合
5/15

5日目


「梨璃ちゃん、今日休みだよね、デートしようよ」

「人のいるところには行かない方がいいですよ」

「人、いるの?」


 世界が終わるというのに、意外とみんな普通に過ごしているのだなと思う。暴動を起こしたり家を燃やしたり、そういうことはしないのだろうか。テレビは付けないようにしていたし、携帯も料金を払っていないので圏外のままだたからわからない。

 元恋人を殺しにいこうとするような私は、少数派らしい。


「近所のモールとかはすごく混んでるらしいです」

「何それ、ゾンビじゃん」


 行きたい行きたいとねだったら、彼女は重い腰を上げた。今日は休みだからジーンズにパーカーという格好だった。いかにも地元で過ごす高校生という感じでかわいい。


「知り合いにあっても、変なこと言わないでくださいね」


 そう言って彼女は私にキャップをかぶせ、マスクをさせ、サングラスをかけさせた。完全な不審者だ。彼女もいつもかけている眼鏡にマスクという格好だった。

 でも外を歩くと、似たような格好の人は多かった。町ゆく車も人通りも明らかに少ないし、多くの店は閉まっている。やっぱり世界が終わるんだなぁと私はしみじみ思う。

 連れてきてもらったショッピングモールは、初めて来るところだった。マンションみたいな巨大な見た目をしている。


「すごい! 何でもありそう!」

「子どもじゃないんですから、そうはしゃがないで!」


 案内を見ると、映画館からゲームセンター、スーパーに本屋、服屋と本当に何でもあるらしい。梨璃の言っていた通り、マスクをした家族連れなどで賑わっていた。世界が終わるというのにこの人たちは何をしているんだろう。

 私がふらふら人の多いところに引き込まれそうになると、ぐいと腕を引かれた。


「何が見たいんですか」

「別に、デートだから梨璃の見たいとこでいいよ」

「私は別に用事ないです」

「じゃあゲーセン行こっか」


 梨璃はそのまま、私の腕を引いていってくれる。


「ちゃんと手、繋がない?」

「嫌です」


 でも、実際店の前に来てみるとゲームセンターは閉まっていた。


「ああ……やっぱやってないですね」


 買い物は許されるけれど、ゲームで遊ぶのはだめということらしい。映画館も閉まっているし、本屋も土日は休業だった。何でもあるかと思ったのに、全然何もない。こんなの思っていたのと違う。


「えー、じゃあどうしよう……」


 受かれていた気持ちが急速にしぼんでいくのを感じる。やっぱりまだ私の腕を掴んだままの梨璃は、ぼそりと言った。


「クレープ食べますか」


 ちょうど斜め前あたりにあった店だった。こちらはちゃんと営業してくれている。


「梨璃、食べることばっかだよね」

「しょうがないじゃないですか! こんな状況で楽しみは食べることくらいなんですよ」


 こんなに食べているのに、梨璃はすらりと痩せている。若いってずるい。

 クレープ屋は営業こそしていたものの、テイクアウトのみだと言われたので結局、私たちはそれを家に持ち帰ることになった。


「あ、待って下さい、こっちから行きましょう」

「なんで?」


 梨璃が不自然に隠れようとするそぶりを見せるので、私は周囲をうかがう。


「あれ、梨璃じゃん」


 前から歩いてきたのは短いスカートを履いた、高校生くらいの女の子だった。黒いマスクをしている状態でもわかるくらい、かわいらしい子だった。同級生だろうか。梨璃より大人っぽく見えるけれど、大差はないのかもしれない。


「今一人なんでしょ? 家遊び行かせてくれるって言ったじゃん。いつ行っていいの?」

「ごめん、ちょっと事情が変わったから無理」

「えー、なんで?」


 変わった子だけれど、人並みに友達はいるようでよかったなと私は親のように思う。友達も呼ぶならおやつをもっと用意しないといけないけれど、何人くらいだろうか。


「とにかく変わったの! ごめん、もう行くから」


 そう言って梨璃は再び、私の腕を取った。友達は不満げにまだ何か言っている。


「友達も呼べばよかったのに。もうすぐ世界が終わるんだし、今のうちだよ?」


 会えなくなってしまうのに、邪険にしてしまうなんて悔いが残らないだろうか。


「私なら全然構わないし、何なら女子高生が増えて嬉しいけどな。さっきの子、かわいかったね」

「私は構うんです!」

「なんで?」

「家にいるあなたのこと何て言えばいいんですか」

「姉の元カノ」


 梨璃はすっかり機嫌を損ねた様子で、口をつぐんでしまった。私の腕を離すと、一人で先を歩き出す。


「待ってよ」

「私、友音さんみたいな人嫌いです」

「えー、ひどくない?」


 やっと打ち解けてきたと思ったのに、梨璃は私の顔を見ない。

 結局、所要時間一時間も経たない短いデートだった。

 家で紅茶を入れて、お皿にうつして食べたクレープはおいしかった。


「私、何も余計なこと言わないから友達呼んだら? 何なら隠れてよっか?」

「いいですってば!」


 梨璃は頑なだった。一度は呼ぶと言ったのだから、人を家に入れるのが嫌なタイプというわけでもないのだろう。


「私ばっか梨璃を独占して悪いじゃん」


 梨璃はそれきり口を閉ざしてしまい、一言も答えなかった。


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