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10,000年の恋 時間百合シリーズ  作者: あいだ
10日後に世界が終わる百合
1/15

1日目


 十日後に世界が終わるらしい。

 悲しいけれど仕方がない。

 それならやり残したことは、それまでにやっておくべきだ。


 住所は変わっていなかった。知り合いづての話で、彼女がまだここに住んでいることは知っていた。チャイムを押すが、誰も出てこない。

 何の変哲もない一軒家だ。しばらくチャイムを押していたが、私は門を開け、玄関扉を直接叩くことにした。


「すみません」


 外がまだ明るいので、電気がついているかどうかは見えない。人の気配はしないような気もした。でもわからない。こんな状勢だし、ひっそりしているだけかもしれない。


「おーい、出てきて」


 私はドアを叩き続けた。せっかくここまでやってきたのだ。おいそれと帰るわけにはいかなかった。

 そうして何分ぐらいが経ったのだろう。私がドアを叩くのにも疲れてきたころ、鍵が回る音がした。


「あの、何なんですか……」


 迷惑そうに出てきたのは、高校の制服を着た少女だった。十六、七といったところだろうか。眼鏡をかけていて、髪は肩くらい。染めていなくて、化粧もしていない。どことなく委員長、とあだ名をつけたくなるような少女だった。


「瑠々(るる)は?」

「今いないですけど……何ですか」


 彼女は明らかに不審なものを見つめる目で、私をじっと見てくる。


「いないのか、いつ帰ってくる?」

「ていうかそれ、何ですか」


 十日後に世界が終わるなら、やっておこうと思っていたことがある。


「……斧だけど」


 あの女を殺すことだ。


「え、あの、通報します」


 ぎょっとした顔で彼女は私を見て言った。わかりやすい、素直な反応だった。


「あ、待って待って、あなたに危害を加えるつもりはないから。瑠々はいないの?」

「お姉ちゃんをどうしようっていうんですか」

「ああ! あなた妹かーあんま似てないね」


 そういえば、妹がいると聞いたことはあった気がする。実際、顔立ちはあまり似ていないと思うのだが、それは彼女にとっては、言われたくない言葉だったらしい。


「通報しますから」


 頑なな声で言って、彼女はドアを閉じようとする。だけど私は強引に足を入れて、それを阻んだ。彼女が一歩後ずさり、私はまんまと家の中に侵入することに成功する。


「警察なんて呼んでどうするの? 世界が終わるっていうのに。ねぇ瑠々がどこにいるか教えてよ」


 じりじりと彼女は後ずさり、私はその分距離を詰めていく。


「私、怪しいもんじゃないよ。瑠々の元カノなの。ちょっと恨みがあって、瑠々を殺したいからどこにいるか教えてよ」

「教えられるわけないじゃないですか!」

「あれかな? 葉山の別荘? 自慢だったよね。車もないし、お父さんとお母さんも一緒。違う?」


 彼女の顔色がわかりやすく変わる。嘘のつけないタイプらしい。つくづく素直な子だ。


「いいなぁ、景色のいいとこで優雅に世界の終わりを眺めるのかぁ……。でも、妹ちゃんはなんでここにいるの?」

「……別に関係ないじゃないですか」

「普通に学校行ったの? なんで?」


 制服を着ているということはそういうことだろう。授業なんてまともにやっているのかわからないけれど。世界が終わるのに、私だったら絶対勉強なんてしたくない。


「……関係ないって言いましたよね」

「世界が終わるのに学校なんて行っても仕方なくない?」


 彼女は一瞬、考えるように沈黙した。


「明日世界が終わるとしても、私は林檎の木を植える」

「何?」

「っていう言葉、知ってますか。あなたみたいな人は知らないでしょうけど」

「なんで世界が終わるのに木を植えるの」

「そういう心持ちの話なんですよ。私は学校に行きます。ちゃんと勉強をする。世界が終わろうが、終わらなかろうが。そんなことどうだっていいです。私には関係ない。私は自分でできることをします」


 話しているうちに、熱が入ってきたようだった。きっぱりとした、強い口調だった。


「ふぅん、意味ないのに」

「だから! ……もういいです」

「で、瑠々はいないの?」

「しばらく戻りませんよ」

「じゃあ待たせてもらう」

「出てって下さい!!」


 悲鳴のような声で少女は言う。何しろこっちは凶器を持っているのだし、あまりいじめるのも可哀想だろう。

 私が殺したいのは彼女の姉であり、彼女ではない。


「名前、なんていうんだっけ。ミミ? ロロ?」

梨璃りりです!!」


 答えてから彼女ははっとしたような顔をする。


「梨璃ちゃん、また明日ね!」


 私はとびきりの笑みを浮かべて、手を振ってやった。斧を握りながら。

 彼女は真っ赤な顔で言っていた。つくづく素直でいい反応だ。


「二度と来ないで下さい!!」


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