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筆が乗ったので少し早めの投稿になりますm(*_ _)m
目を開けると異世界だった。
そのような話があるはずもなく、彼女--一先ずそう呼んでおこう 少なくとも姿形は女性であるようだ--はその盛大な演出に舞ってしまった埃を払いながらも、その表情は変えることなく開口一番こう呟いた。
「うむ。無事に転移はできたようじゃの」
どうやら彼女は僕とは異なる世界に生きているらしい。僕の彼女に対する推測は大きく外してはいないようだ。しかしながらどういう了見で人の家の中 それも神社の蔵の中に不法侵入を企てたのだろうか?時代の流れとともに神社の神聖さも失われているとでもいうのだろうか?
「お主。そう軽蔑の目で見るでない。仮にも儂は神様なのじゃぞ?」
いよいよ警察を呼ぶべきだろうか。仮に神様だとして神社を荒らす神様がどこにいるのか甚だ疑問である。
「まてまて、そう焦るでない。その携帯をしまってくれ... 分かった、この蔵を荒らしたことは詫びよう。人を呼ばれると少し面倒になる」と彼女は頭を下げてみる。
ふむ、そうなると仕方がない。不本意ながらしまうとしよう。死体蹴りは僕の趣味ではない。
「ふう、そう儂を焦らせるな。ようやく地球にたどり着いたのじゃ。そう邪険に扱われるといくら儂でも傷つくといったものじゃ」
邪険に扱っているつもりはないのだが...そもそも不法侵入者を邪険に扱うなという方が無茶だろう。そもそもせっかく僕が創り上げたこの世界観を シリアス調を壊すことはやめて頂きたい。僕は安寧を享受したいのだ。
「いやいや、ここでお主の創り上げた世界観を壊さねば、タイトル詐欺ならぬプロローグ詐欺になるのでな。タイトル詐欺ならまだしも本文で矛盾があったら、さすがに読む人も読まんぞ?」
いやいや、彼女のようなメタ的な存在のほうが読者が離れてしまう気もするが。
「その点については大丈夫じゃ。先にも言ったように儂は神様なのでな。お主達の世界より高次に位置する世界に生きる儂はそもそも高次の存在なのじゃ。辻褄は合うじゃろう?」と得意げに話す彼女。
「そもそも、このタイトルはダブルミーニングどころではないぞ?崩壊する世界は1つではないのじゃ。タイトル回収を含めてひとまずこの世界観を崩してやろうという儂の粋な計らいじゃ」
安寧を望む人に混沌を持ち込んで何が粋な計らいだ。いやいやしかし、ここで突っ込んでも話は進まない。とっととこの話を終わらせて遊びの続きに勤しむとしよう。それが一番堅実だろう。
「そうしてくれると有難い。儂もそろそろ疲れてきたのでな。こういったやり取りは好みではあるが、いかんせん儂は疲れているのじゃ」
いい加減にしてほしい。突っ込んでほしいのか、そうでないのか。斯様にいい加減な--いや神様か--は見たことがない。もっとも神様など実際に見たことなどないのだが。
「いやいや申し訳ない、早速本題に入るとしようか。儂は、いうなればお主達の世界の調停者なのじゃが、ある世界が今危機に陥っておってのう、その世界を助けてほしいのじゃ。お主にはそれを成すだけの力があるのじゃ。しかも、お主のような高校生とやらはこういった展開が好みなのだろう?興奮するのだろう?」
それならば、自分自身で救ったらいいではないか。仮にもメタ的存在ならば自由にその世界に干渉できるだろう。僕たちが二次元世界に自由に干渉できるように彼女もまた、その世界に自由に干渉できるはずだ。そもそも僕はライトノベルなど読まないし、異世界物に造詣が深いわけはない。神様発言だって認めているわけではないのだ。
「神様発言ならお主が声を発していないにもかかわらず会話できていることで証明できるのではないか?」
そういえば、僕は彼女と会ってから一言も発していない。ならば少しは真面目に耳を傾けてもいいかもしれない。
「見え見えの伏線が回収されたところで話を戻すとしよう。そもそも儂は調停者 言い換えればバランサーじゃ。儂が一方的に彼の世界に干渉するというのは著しくバランスを欠くものじゃ。第三者が物語に介入しては良くない。登場人物として出てしまうのは褒められたことではないのじゃ」
その理論ならこの世界に干渉するのは矛盾している。バランサーといったが、僕の創り上げた世界観を壊すという手土産を持ってやってきた、彼女のその行為はバランスを欠くものではないのだろうか。
「あの世界が終ってしまうとこの地球の世界のほかの世界もまた影響を受けてしまうのでな。彼の世界が終わるその影響を考えれば、無視できるほどにこの儂の行動の影響は小さいのじゃ」
それならば、その世界で片付ければいい話ではないか。天啓を授けて導けばよいだろう。
「そうしたいのは山々なのじゃが、如何せん彼の世界にはそれだけの者がいないのじゃ。儂が直接手を下しても良いのじゃが、それでは影響が大きすぎるのじゃ」
それならば仕方がないか。いやしかし、何故僕がその大役を担わなければならないのか。灰色の僕を使わなくても他に適任がいるだろうに。
「いやはや小言が多いのう。お主のような年頃の男はこのような展開に強い憧れを抱いていると聞いていたのじゃが... まあ、端的に言うとお主の名前が理由じゃ。」
僕の名前のどこにそんな理由が?少しばかり珍しい名前だとは思うが...
「お主の名前には 火 風 土 水 全ての漢字が含まれているじゃろう? 彼の世界では名前が魔法の才能に大きく影響しておってのう、そこでお主に白羽の矢が立ったというわけじゃ。お主はこの神社とも縁が深いようじゃし適任というわけじゃ。」
そうは言っても気が進まないものは進まない。仮にその世界が終ってしまったとして僕に何の不利益があるというのだろうか。
「仮に、彼の世界が終ってしまうとその崩壊の波は他の世界に押し寄せる。この地球とて例外ではない。断っても構いはせぬが、その場合お主の友人 水縁大海と土生魁土じゃったか 彼らを彼の世界に送り込むことになるぞ?幸いにも彼らは名前に水と土をそれも二つずつ持っておる。彼ら二人ならばお主にも匹敵する力を見せるじゃろう」
そうなると話が変わってくる。この安寧の日々が失われてしまうのも困るが、大海と魁土 彼らが僕の犠牲によって守られるというなら甘んじてその運命を受け入れようではないか。
「よし分かった。その世界とやらを救ってみようではないか。ただ君が本当に神様だというなら一つだけ願いを聞いてほしい」
「うむ。なんじゃ?」
「その世界を救った暁には、この今の時間にこの地球に返してもらいたい。それさえ約束するならお前の望みを聞いてやろう。」
「それぐらいたやすいことじゃ。ならば彼の世界を頼んだぞ」
そういうと彼女は、やけに仰々しく何やら呪文を唱え両手を天高く上げた。と同時に僕は眩い光に包まれていく。どうやら転移なるものが始まったようだ。
その世界なるものが一体どのような世界かは僕の知るところではないが、それでも彼らを守れるというのなら、僕のこの安寧の日々が守られるのならば世界を救ってみようではないか。
しばらくは安寧など程遠い生活を強いられるだろうが、それもこの日々に帰れると思ったら容易いことだ。
先の見えない不安に恐々としながらも、希望を胸に僕は気持ちを昂らせる。偶には灰色ではなくバラ色の生活を送るのも悪くはないだろうと、自分に言い聞かせながら。
次第に遠のく意識を手放さないと敢闘していたがそれも空しく、僕は眠りについてしまった。
「全く、あの阿呆がしでかさなければ良かったのじゃが。まこと可哀想な子達じゃ」
溜息一つ吐くと彼女はその姿を消したのだった。
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