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この崩壊した世界で  作者: マグロ
第一章 ~日常編~
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 蝉の耳をつくようなそれでいてどこか優しさのある鳴き声が聞こえる。夏の風物詩として名高い彼らは完全変態となってから寿命が二週間しかない。そんな彼らが子孫を残すために鳴くのは当たり前だろう。


 完全変態というとどんな変態野郎だと思ってしまうが、生物学上の用語なのだから仕方がない。えてして専門用語というものは一見しただけでは 一聞しただけでは意味を測りかねる誤解してしまうような言葉が多いものだ。


 失礼、話が脱線してしまった。


 窓から差し込む眩しい陽の光の中で僕は目を覚ます。セミの鳴き声で 自然の目覚まし時計で目を覚ますというのは中々乙なものだ。


 顔を洗い朝食を食べ歯を磨いてから家を出る。こんな普段と何も変わらない 代り映えのしない作業でもこれからすることを考えれば、僕だって少なからず心は踊るものだ。


 待ち合わせ場所に行く道すがら --といっても家のすぐ隣の神社の鳥居がその集合場所なのだが-- 僕は妄想ににふける。僕のような目覚め方は都会では中々出来るものではないだろうと。


 いや、セミの鳴き声で目を覚ますのはまだあり得るかもしれない。しかし、セミの鳴き声で目が覚めるほど防音性の低い建物なら、そもそも騒音で寝れないのではないだろうか?


 仮に窓を開けて寝られるほど騒音が小さかったとしても、とてもじゃないが暑くて寝られないのではないだろうか?熱帯夜なんて言葉もあるのだ。都会というものを聞いたことはあっても見たことはない僕にとっては伺い知ることしかできない。


 また話が脱線してしまったが、大して娯楽もない町で過ごす僕にとっては妄想するぐらいでしか暇をつぶすことはできない。スマホゲームなんてものにも全くと言って興味はなく、読書ぐらいしか趣味はないのだが、これから山を走り回ろうという人が本など持ち歩こうはずもない。僕にそんな奇妙な行動を求められても仕方がない。僕は灰色なのだから。


 消去法的に なし崩し的に妄想によって時間を潰すしかなくなったのだ。そもそも妄想と読書しか暇つぶしの手段を持たないのだが...


 暇つぶしといったが、それもそのはず僕は今、友人たちを待っている最中なのだ。記念すべき夏休み初日を僕と過ごしてくれるというのだから有難いことである。


 灰色よろしくせっかくの夏休みだというのに別段することも、すべきこともない僕にとって、早めに待ち合わせ場所に来て友人を待つことは当たり前だ。


 ここで僕の数少ない友人達を紹介しよう。初めに彼らは皆僕と同級生だということを断っておく。


 一人目は 水縁(みずへり) 大海(たいが)だ。彼は僕とは違って理系の生徒だ。サッカー部に所属しており、エースである彼は男女を問わず人望を集めており、教師からの信頼も厚い。勉強も得意だ。


 二人目は 土生(はにう) 魁土(かいと)だ。彼は僕同様文系の生徒である。部活にこそ所属していないものの学業優秀、全国の絵画コンクールで賞を取るほど絵が得意である。大海同様教師からの信頼も厚い。ちなみに運動のほうも大海ほどではないにしろ、僕よりかは数段優秀だ。


 なぜこんな完璧超人な彼らが僕と仲良くしているかと言ったら、彼らの家同士で古くから交流があり、小さいころから三人で遊んでいたというだけだ。


 彼らが僕に付き合ってくれるのは何故かは分からないが、彼らも偶には童心に返りたくなることがあるのだろう。もっとも僕は彼らよりも遥かに高い頻度で裏山を走り回っているのだが。


 そうこうしているうちにようやく彼らが来たようだ。相変わらず彼らは眩しい。この眩しさは決して逆光だからだけではないはずだ。


「相も変わらず君は夏休みだというのに... 他にすることでもないのかい?」


「お前も他にすることもないんだろ?それなら同じことだ。折角見てくれだけはいいのだから彼女でも作ったらどうだ? 夏休みを過ぎたら遊ぼうにも遊べないぞ?」


 いつものごとく二人で揶揄しあいながら歩いてくるのは大海と魁土だ。誤解のないように言っておくが前者が魁人で後者が大海である。


「君たちも飽きないねえ。 折角の花のセブンティーンそれも夏休みだぞ? そういう大海こそ彼女でも作ったらどうだ?」とやや自省を交えてあいさつ代わりの皮肉を返す。


「さて、からかい合いもこれぐらいにしておいて早速始めようか」と手をたたいて場を改める魁土。


「そうだな 早速始めるとするか。今日の鬼は誰からにしようか?」


「前回は僕が最下位だったから僕からで。さすがに自分の庭で負け続けるのは忍びないからな」


「それじゃあハンデとして今日は10秒でいいぞ それくらいじゃないとこっちが楽しめないしな!」と闘争心を煽ってくる大海。こんなやり取りも慣れたもので今更冷静を欠いたりなどしない。


「それじゃあ行くぞ! い~ち に~い さ~ん...」


 数えだすと同時に彼らは脱兎のごとく駆け出す。僕よりも身体能力の高い彼らを捕らえるのは至難の業だが、何とか地の利を活かして勝利を収めたいところだ。


「は~ち きゅ~う じゅ~う」と10数え上げたところで、いつものごとく境内を探していく。これで彼らを捕まえたことはないし、そもそも見つけたことすら手の指で数えられるほどしかないのだが、まず近いところからというのが僕のセオリーなのだ。


 本殿、拝殿、神楽殿と見て回ったところでふと違和感に気づく。


 普段は空いていないはずの蔵が開いていたのだ。誰かが閉め忘れたのだろうかと近寄ってみると、何か物音がする。そっと中を覗いてみると何やら厳重に保管されている木箱が動いているのだ。


 普段はそんな危険を顧みない行動はしないのだが、魔が差したのか中に入り木箱に触れてしまった。あり得ない現象に気が昂ぶってしまっていたのだ。


 突如目も明けられないほどの光が溢れ蔵中を満たしていく。


 光が収まり目を開けてみると、僕の目の前には何とも形容しがたい、それこそこの世のものとは思えない得体のしれない不気味さを醸し出した()()が立っていたのだ。





少し修正しての再投稿ですm(_ _"m)


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