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やけに堅苦しく冗長な説明 それも三話分もされた気がするが、気のせいだろう。気のせいにしておこう。藪蛇なんてことになったら厄介だ。
僕 神山神社の跡取り息子である江土河風燈はこの公立神山高等学校に通う二年生だ。九州にある受験生の信仰を多く集める某天満宮とは違って、僕の神社は別段学問の神様を祀っているわけではない。
片田舎の神社よろしく豊穣の神様を祀っている神社だ。特別僕に学力が求められているわけでもない。
学年が上がる際、僕は文系を選択したのだが、これといった興味も趣味もない僕にとっては当然の選択といえるだろう。ただでさえ卒業後の進路はほぼ確定しているのだ。敢えて理系に進む意味もない。取り分けて勉強が好きなわけでもなく、中学生の頃にやった受験勉強は、ただ周りに流されやっただけだ。
そうそう、読書を少なからず嗜んでいるのも文理選択に一役買っていることを言っておこう。
それでも卒業すれば東京の神道科のある某大学に進むことが決まっているのは、大した夢もない僕にとっては逆にありがたい。夢や目標に向かって日々勉学に励む同級生を尻目に、僕はただ淡々と日々を過ごすことができるのだから。
といっても田舎の高校なので大学や専門学校に進む同級生は都会の高校に比べてさほど多くはない。田舎の特権で地元就職する生徒も多いのだ。個人経営の店が多い田舎では当たり前のことだろう。
そんな灰色の学校生活を送る僕にとって唯一の楽しみが、裏山を 僕の家が所有するこの神山を走り回ることだ。こんな僕にも多少なりとも友人はいるわけで、たまに鬼ごっこなどをして遊んでいる。
花のセブンティーンと呼ばれるこの時期に、つまらないことをするもんだと思う人もいるだろうが、大した娯楽もないこの田舎で遊べることは限られている。
町の外に出る唯一の交通手段であるバスも一時間に一本くればいいほうだ。さらに都市部に行くのに一時間では下らない。この灰色の僕にはそんなことする気力も興味もないのは明白だ。
都会に憧れるクラスの女子はそれでも都会に繰り出すらしいが、僕とはてんで関係ない。そのカラフルな気力に熱意に気後れするばかりだ。跡取り息子よろしく拝みさえするぐらいなのだ。それほどまでに僕は、彼彼女たちとはかけ離れていて、灰色なのだ。
今日もまた、いつも通りの平凡な代わり映えのしない一日が終わりを告げ、僕は機械のごとくまっすぐに帰宅し、夕飯を食べ風呂に入る。
そうそう、我が家の風呂は一風変わったヒノキ風呂なのだが、これは数少ない自慢の一つだ。別に僕がすごいわけではないのだが,,,少しぐらい自慢したっていいだろう。
話は逸れたが、相も変わらず風呂に入り歯を磨き寝床に入る。高校に入ってからはほとんど同じような生活を送っている。灰色の僕にはふさわしいだろう。
だが明日はいつもとは違う。何を隠そう明日からは夏休みに入るのだ。
宿題こそあるものの、あのつまらない 子守唄にしかならないあの授業を受けないでいいのは少なからず嬉しいものだ。先生方には申し訳ないが、つまらないものはつまらない。
明日はさっそく友人と裏山で久しぶりに鬼ごっこでもするつもりだ。彼らは僕とは違って、灰色とは無縁なバラ色の学校生活を送っているのだが、偶には僕とこうして遊んでくれる誇れる友人たちだ。
さあ明日からは夏休みだ。これから受験勉強が本格化していく彼らとも遊べる限られた数少ないチャンスなのだ。灰色らしい生活を送るべきかもしれないが、もう来ないかもしれない機会を逃すわけにはいかない。
多少なりとも明日への希望を 期待をもって僕はその目を閉じたのだった。
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