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その声の持ち主は幼女だった。僕の愛してやまない物語の主人公なら、それこそ飛びつきかねないような。
その幼女は、しかし姿が幼女なだけで、およそその外見以外には幼さを感じさせる要素など微塵もなかった。彼女がまとう空気には恐ろしさすら感じたほどだ。
「お主、この世界の住人ではないな。違うか?」
「いや、まあ、そうですが...あなたは?」
「儂か?一応この図書館の司書をやっておるハルピーじゃ。まあ司書以外にも役職はあるがな」
どことなく例の神様を思わせる話しぶりだ。
「そうでしたか。おっしゃる通り僕は地球という世界から来た、風燈というものです。国王から三日後に訓練をすると言われたので、少し情報を仕入れようと図書館に来たのですが...」
「なるほどなるほど、お主が例の勇者とやらか。合点が行った。どうりで儂の目の前に無事に立っておれるわけじゃ。並みの奴では儂の前に立つことすらできんからのぅ」
少し危険なにおいのする幼女だ。
「勇者と呼ばれるのはかなりこそばゆい感じですが、何故僕はあなたの前にこうして立っていられるのでしょうか?」
「あの女神野郎に言われたじゃろ?お主は精霊に愛されておる。火 水 風 土のすべての妖精に愛されておるのは特に珍しい。特にお主は風と火の精霊に愛されておるようじゃ。さすがは勇者といったところか」
ふむ。女神野郎といったのが少し気になるが、とりあえず置いておこう。情報収集が先決だ。
「確かにそれは言われましたね。実感はないのですが...」
「お主はまだ魔法を使ってすらないからな。そもそも直接魔法を体験したこともなかろう。間接的にはあるようじゃがな」
なるほど、そういうことだったか。目の見えないところでその精霊の恩恵というのは受けているようだ。
「話は変わりますが、何故この図書館には同じシリーズしかないのでしょうか?どうにも王城の図書館というには不相応な本が多いようですが...」
「言うのぅ、お主。この図書館の司書である儂に向かってそんなことを言ったのはお主が初めてじゃ。」
僕はじっと彼女を見据える。
「いや、なに、ただの悪戯みたいなもので特に意味はないのじゃが...しいて言えばまあお主を試しただけじゃな」
「あれでどう僕を試したのでしょうか?どこにでもあるような本ばかりだったのですが...あれでは本を読めるかどうかしか判断できないと思うのですが」
「さっき言ったようにお主を試すためにあのような本ばかりにしていたのでな。お主が読んだ本は儂が具現化したものじゃからな、いうなれば儂の分身に触れたわけなのじゃからな。お主の資質を視るには十分といえるじゃろうて」
何ということだ。一つもタイトルが同じ本がなかったことを考えると、それぞれの本で読み取れる情報が違うのだろうか?それならばかなりの情報を彼女に渡してしまったと考えるべきだろう。数十冊は触れてしまったのだから。
「感がいいのぅ。その通りお主の情報はほぼすべてといっていいほど手に入れたぞ?もっともお主の魔法の素質以外に興味をひかれたのはほぼなかったがのぅ」
あれ?今は口を開いていなかった気がするが...
「儂にかかれば、人の思考を読み取るぐらい訳はない。人の思考にはわずかながら周囲の精霊に揺らぎを与えるのでな、その揺らぎを分析すればそれくらい容易いことじゃ」
「ならば僕の考えていることが分かるでしょう。僕は魔法とこの国について詳しく知りたいのです」
「分かった分かった。では儂についてくるがよい、儂の部屋へ案内する。光栄に思え?儂の部屋に入ることができるのは両手で数えられるぐらいのものじゃからな」
10人か。微妙に反応に困る数字だ。まさか1023人もいるとかじゃないだろうな?あの神様と同じ雰囲気を感じさせる彼女のことだ、可能性はある。
「あまり失礼なことを考えるでない、あいつとは違ってそんなインチキはしないから安心せぃ。それより、知りたいことがあるのではないか?この扉から入るがよい。お主が望むものもそこにある」
まあ、いいか。そんなことを考えても仕方がない。僕の知りたいことが知れるというのだから、まずはそちらを優先すべきだ。
僕は文字通り先の見えない扉をくぐって彼女の部屋に足を踏み入れた。
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