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風呂場を出て脱衣所で着替え、のれんをくぐって僕は温泉の外に出た。日本と全く異なる文化圏なようだが、変なところで共通点があるものだ。もともと寒さ暑さを防ぐためのものだったはずだが、魔法があるというのに不思議なものだ。
温泉の入り口にはメアリーさんがいた。3,4時間は風呂に入っていたはずだが、いったいいつからそこにいたのだろうか...
「メイドの控室におりましたところ、イコノス様から『何をしているんだ』叱られまして、お世話をするべくここで待機しておりました。」
どうやらいらぬおせっかいをしてしまったようだ。
「それはすいませんでした。では、部屋まで案内していただけるでしょうか?」
「勿論です。ではどうぞついてきてください」
無表情なのは相変わらずだったが、少しばかり気を持ち直したようだ。先ほどは見るからに沈んでいたようだった。無表情なのに。
部屋に戻るとアンさんはいまだに掃除をしていた。
「あらフウト様、大層な長風呂でございましたわね。すっかり退屈していろいろ物色していたところですわ」
「アン。大事なお客様に向かって失礼な言い方ですね、イコノス様に言いつけますよ?」
「分かりましたわメアリー、全く真面目ちゃんなんだから」
話しぶりから察するに、この二人は仲が大変よろしいようだ。あの無表情のメアリーさんがやや上気している。真っ白な頬がやや赤くなっているのだ。この二人の問答をこのまま聞いていてもそれはそれで趣深いが、ここはゆっくりさせてもらおう。王様が何やら訓練があるといっていたし、これからのことについて計画も立てたいしな。
「お楽しみのとこすいませんが、少々頭を整理したいので、1時間後にまた呼びに来てもらってもいいですか?」
「「失礼しました!!」」と二人は声を合わせて一瞬で部屋から出ていく。これも魔法の賜物なのだろうか?
いや違うだろう。少なくとも杖は使っていなかったのだから。魔法と言ったらやはり杖だろう?かの有名なイギリスの魔法使いたちも杖を使っていたのだ。
今まで深く考えていなかったが、この世界は魔法が実在する世界なのだ。そう思うといくら僕でもテンションが上がってくる。
ここは図書館に行ってみるべきだろう。王城の図書館ともなれば魔法について多くのことが知れるはずだ。それにこの国この世界についても多少なりとも情報を仕入れるべきだろう。
訓練開始までの僕の三日間は確定したようだ。
再び二人が戻ってきたところで僕は彼女たちに図書館への案内を頼む。案内された図書館は僕が知っている中で群を抜いて広かった。と言っても僕の知っている図書館は町の図書館だけなのだが。
司書の人が中にいるということで僕は一人で中に入っていく。彼女たちは図書館についてほとんど知らなかったのだ。彼女たちはメイドの仕事で忙しいだろうから当然だろう。
薄暗い図書館を進むと、カウンターが見えてきた。司書はいないようだったのでとりあえず物色しよう。幸いにして、言語の不自由はない。
とりあえず目についた本をとる。題名は『サルでもわかる魔法』だ。魔法に一切の関りを持たなかった僕には適当な本といえよう。
中身は、やはりイラスト付きで未就学児向けのような本だった。わかりやすかったが、内容は神様から聞いていたものに毛が生えた程度で、簡単な魔法の使い方しかのっていなかった。
次に手に取った本は『サルでもわかるヴァシリオ王国の歴史』だ。これもまた同様に神様から聞いていた情報とほとんど違いはなかった。
このほかにも色々手に取ってみたがすべてが『サルでもわかる』シリーズだった。ここは本当に王城の図書館なのだろうか?肩すかしを食らった気分だ。
と落胆しかけた瞬間、背中に気配がした。素人の僕でもわかるぐらいはっきりした気配だ。
思わず僕は振り向く。
「お主、この世界の住人ではないな?」
声の主人は幼女だった。
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