第壱幕 『全ての根底は、奇縁と共に。』 其ノ弐
「それじゃあ、聞くけど...」
魅凍が、まだ少し驚いている青年に問い掛ける。
「.....貴方、本当に白玲奏の名を知らないの?」
少し戸惑いつつも、
「...は、はい....。」と小さく囁くかのようにか細い声で答える。
まだ三人の事や、この場の状況が理解出来ていないようだ。
それに気付いた天華が、
「お前さんは、名前何ていうんだい?」と気楽そうに聞いてくる。
そう聞かれた青年は、何が起こったのか分からないが緊張の糸が緩んだらしく、落ち着いた口調で話す。
「..初、紀一初って言います。」
少し彼の顔の表情が軟らかくなっていった。
「いい名前だなぁ、私は朱神楽天華、白玲奏の住人だ。」
そういい天華が手を差し出す。戸惑ってはいたものの、二人はしっかりと互いの手を握りあった。
「......。」
「......。」
南雪と魅凍は、あまりにも二人がスムーズに打ち解けあっているのをみて、唖然としている。そんな二人に、
「ほら、二人とも自己紹介、自己紹介。」と、天華が手招きする。
「あ、私は南雪よ。天華と同じくここの住人よ。」
「私は、風乃神魅凍、この神社の主よ。」
取り敢えずお互いの自己紹介が終わり、数秒沈黙となる。
・ ・ ・ ・。
次に言葉を切り出したのは、
意外にも初だった。
「あの、さっきから言っている『白玲奏』って何ですか?」
そんな素直な質問に、
「それより、貴方どこから来たのかしら?」と、質問に質問で返す魅凍。
「えっ、何て言えばいいのかなぁ....とにかく、日本から来ました。」
「日本?何だそれ?」周りの三人は首を傾げる。
魅凍は今の倭之国の名前を知らないらしい。
それもそうだろう。魅凍が倭之国から白玲奏へ移動したのは何千年も前の話、名前が変わるのは当然だし....それに彼女自信外の世界に干渉しないから、むしろ知らない方が当然なのかも知れない。
「...日本って言うのは、今の倭之国の総称よ。」
南雪が手助けに入る。
「お前、物知りだなぁ〜。いやぁ感心感心。」
「貴女が知らなさすぎるだけでしょうが....」
少しばかり呆れる南雪。魅凍にはもう少し外の事も勉強してほしいものだ。
「そしたら、そっちの質問に答えようか。」
魅凍が視線を初へと移す。
「まぁ、白玲奏って言うのはな、私達神様の安住の地さ。初の居た所とは別次元の場所さ。」そう言われ、又もや頭の中が混乱する。
「とにかく、貴方は他の世界に来ちゃったってこと。」
最終的に纏める南雪。魅凍が説明する意味があったのか否か.....。
「....そうなんですか。」
彼自信、白玲奏へ来た、そんな感覚は全くもって感じられない。三人のことはそれなりに信頼はしているようだが、身をもってまだそのような実感はない。
「あぁ、そうそう、一つ言うこと忘れてた。」と、魅凍が南雪に言う。
「こいつ、南雪の家で預かってくれないかい?」
突然の申し入れであった。
「何言ってんの、貴女の神社の方がよっほど広いし、部屋だって沢山.....」
そう言うと、少し初の顔をうかがいながら、口元を手で隠して静かに囁く。
「.....お前も知ってるだろ、私が何で一人でこの広い神社に住んでるか.....。」
そういえば、そうであった。
彼女は、昔に起こった
あの事件、人間達による『神様排除運動』。あの出来事が有ってからか、魅凍は私や天華以外の人間に接触なんて殆どしていない。別に嫌いな訳ではない、
ただ、人間を信じられない
本当、ただそれだけなのだ。
「....はぁ、わかったわ。この人は、私が預かるわよ。」
世の中理解や予想出来るものばかりでは無いらしい、と南雪は心の中で解釈した。