第壱幕『全ての根底は、奇縁と共に。』 其ノ壱
〜昔、昔、我が倭之国では
人間と神々が共に一つの
大地で共存していた。
人間は神を崇拝し、
神はそれに応えるように、
恵と幸福を皆に与えた・・・
その頃はお互い酒を酌み合い
愉しい日々をおくっていた・・・あの頃は私も愉しかった。
今でもあの頃へと戻れないかと想うことが多々ある。
・・・しかし、それが駄目だったのかもしれない。
私は気付く事が出来なかったのだ。人の影が妙な動きをしているのに、
それは明から様だった。
気付いていれば、と今までも悔やむことがあるが、過ぎた時間が反る事はないし、私の時間も元には戻らない・・・
それでも起きてしまった・・
あの出来事が・・・〜
・・って、
「何私の日記を勝手に読んでんの!!」
バシッ!
「いったぁ〜、いきなり叩くことは無いだろ!!」
「だからって、人の日記勝手に読む奴がいる?」それも声に出して読みやがって・・・
「サボってる暇があるなら片付け手伝いなさいよ。」
「はいはい、イテテテ、」
ったく、何仕出かすか分かりゃしない・・・
あ、そうそう、いきなり出て来ちゃったけど、私の名前は『南雪』。今書物庫の片付けしてんだけど、まぁ、手伝ってくれるのがあの娘ぐらいしかいなくて・・
あぁ、あの娘の名前は『天華』何処から来たかよく分からない子なの・・って、何独り言言ってるのかしら、ちょっと疲れたかなぁ...
「なぁ、南雪〜、この赤い木箱どこに置く〜?」
重たそうな声が聞こえる。
「えぇっと、左奥の棚に置いといて頂戴。」
「了解ぃ♪」
そのすぐ後だった。
ガっシャーン!!!!
声のした方で窓硝子の割れる音が無惨にも耳に響き渡った。
「・・・あのねぇ・・・。」
私の家は遊び場じゃないっつーの!!
仕方がなく目の前の作業を中断し、音のした方へと行く。
「ちょっと、今度は何を・・・」
そこにいたのは目をグルグル回し仰向けで倒れて魘れている天華だった。
そんな事を他所に、窓から飛び込んできた時に付いた汚れをパッパと掃っている奴がいた。
「・・・ちょっと、魅凍まで・・・・」
こいつは、魅凍って言って、
風神なんだけど、本当に神様なの?人ん家の窓壊したりして、この人は・・。
そんな南雪の目線に気付いたのか、辺りを見回して一言。
「・・ちょっと埃っぽいわね。」
この・・どいつもこいつも・・・・
「........ちょっといいかしら?」
気のせいだろうか、
二人とも殺気を感じた。
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少々お待ち下さい。
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ふぅ..すっきりした所で、
「何しに来たのよ、魅凍。貴女が自分から来るって事は、何かそれなりの事が起こったの?」
さっき殴ったのが効いているのか、頭をずっとさすっている。少しやり過ぎたかしら...
「...さっきさ、変な人間を見つけてな。イテテテ。」すると、こちらも腰をさすりながら、天華が話に入ってきた。
「人間なんてそんな珍しくないじゃないか、何か変な所でもあるのか?」
そう聞かれた魅凍は少しばかり間を空けてから、
「ちょっと神社までついてきて頂戴。自分の目で確かめた方が分かりやすいと思うから。」
そう言って、外へ出ていった。
「...どうする?南雪。」
「取り敢えず行きましょう。何かあったら私達が困るもの。」彼女達はその“変な人間”の居る魅凍の神社へと向かった。
三人は神社についた。
回りは林に囲まれており、
神社の鳥居には『百緑神社』と何とも達筆な字で書いてある。
神社の渡り廊下を行き、奥へと入って行く。
何個もある襖を通り過ぎ、ある一つの襖の前に魅凍が止まった。
「二人とも、この中よ。」
襖の前へ二人が立つ。
相変わらず天華はワクワクとしながら私が襖を開けるのを待っているようだ。何を期待しているのか良く分からないが、多分ろくでも無い事を期待しているだろう。
私は正直に言って、そこまで期待も何も無い。多分怪我でもした人間でも寝ているのだろうと、素っ気ない手つきで襖を開けた。
ササァーッ
南雪の予想は良くも悪くも外れた。そこに寝ていたのは、見た感じごく普通の青年のようだ。
と、感じたのはごく僅か。
二人とも直ぐに異変を感じ取った。
何とも言い難いような感じ....どこか懐かしいような.....
「ねぇ、不思議でしょ?倭之国の空気を感じるでしょ?」
たしかに、そうだ、この感じ.....
「えぇ、昔とは少しばかり変わっているけど、倭之国の空気を感じるわ...」
三人とも黙り込み、その青年をじぃ〜っと睨みつけた。
すると、その視線を察知したかは定かでないが、青年が意識を取り戻したようだ。
三人は慌ててその青年の顔を覗き込んだ。
「...うぅ、」
ゆっくりと瞼が開いた。
その瞬間、奇声と共に物凄い勢いで布団から慌てて飛び出し、部屋の隅へと跳んでいった。
南雪はいきなりのの事だったから、心臓を落ち着かせるのに精一杯だ。天華は青年が飛び上がる時の衝撃で、今度は頭を打ち付けたようだ。つくづく可哀相な少女だ。一方魅凍は何事も無かったかのように平然とし、青年を絶えず眺め続けている。
そんな状況を目の当たりにしていた青年が、少しばかりおどおどしながら三人に言った。
「.....ここ...どこですか?」その質問に三人は目を合わせ、お互いの心の意見を見透したうえで、代表として南雪が返答した。
「ここは、白玲奏よ。」
すると青年は三人の予想を裏切らないように、困った表情をした。
「...取り敢えず、話を聞こうか.....。」
魅凍がそう言うと少しばかり空気が緊張感をもった.....。