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第九話目だけれど、衝撃的な言葉を聞いてしまいました!

 その後、デュワリエ公爵は私を横抱きにしたまま馬車に乗り込み、おまけにシビルを乗せて動き出す。


 え、何、この状況……?


 私は眉間に皺を寄せた状態のデュワリエ公爵の前に座り、頭上に疑問符はてなをしこたま浮かべている。


 隣にシビルがいてくれるのが、どれだけありがたいか。走ってついてきてくれたことを、心から感謝したい。


 そんなことより、私はどうすればいいのか。

 無理矢理連れ去られたときのアナベルの反応が、まったく想像できなかった。

 天下無敵のアナベル様も、こうして強引に連れ去られたらスンスン泣いてしまうのか。

 それとも、怒りを爆発させて相手を糾弾するのか。


 たやすく想像できるのは、後者だろう。けれど、安易に怒って相手を触発させてしまったら、逆に危険な目に遭う。アナベルは賢い。だから、こういうときは逆に冷静なはずだ。

 きっと、弱々しく泣いたり、不安そうにして弱みを見せたりもしないだろう。


 アナベルだったら、毅然としながらも、相手を睨みつけるに違いない。

 だから、今の臨戦モードの維持で間違いないはず。


「……やはり」

「やはり?」


 言葉を切って、じっと見つめる。顎に手を添え、何か考えこんでいるように思えた。

 ドキン! と、胸が大きく跳ねる。

 もしかして、身代わりがバレたのではと、サーッと血の気が引いていった。

 アナベルとデュワリエ公爵は一度、顔合わせをしていたのだ。アナベルは無視されたと憤っていたが、デュワリエ公爵はきちんと覚えていたとか?


 やはり、引き受けるべきではなかったのだ。私がデュワリエ公爵をメロメロにするなんて、最初から無理だったのだ。


 不安が洪水のように押し寄せ、胸元に手を触れる。

 しかし、今、私を励ましてくれる“エール”の首飾りはなかった。


 ああ、神様。命だけは、お助けを……!


 こうなったら、神頼みしかできない。


 それにしても、言いかけて止めるなんてあまりにも酷い。やるならば、ひと思いに指摘してほしい。おかげで、胸を金槌で打たれているようなドキドキ感に襲われている。


 床に額を付けてでも謝るので、どうか許してもらえないだろうか。馬車を止め、解放してくれたら、ハッピーエンドである。

 デュワリエ公爵に喧嘩を売った娘として悪評は広まるだろうが、命さえあればなんだってできる。

 アナベルには慰謝料として、どこか地方貴族の侍女の仕事でも紹介してもらおう。そのほうが、地味でパッとしない私に合っている。


 アナベルとの身代わりは、刺激があって楽しかった。けれど、大変なリスクを伴うものだったのだ。


 私は覚悟を決め、デュワリエ公爵に問いかける。


「やはりとは、なんですの?」

「いえ、あなたとは、どこかでお会いしたような気がしたのですが」


 先日の夜会が初対面です……と、言おうと思っていたものの、それは“ミラベル”の記憶だろう。アナベル本人は、半月前の夜会で顔を合わせている。


「いつの話をしているのかしら?」

「一年前くらいか……デビュタントの娘達が、多く参加する夜会だったような。はっきりとした記憶ではなく、顔や服装の記憶は曖昧だったのですが」


 一年前といったら、私が社交界デビューを行ったタイミングくらいか。そういえば、そのときにアナベルとデュワリエ公爵も参加していた。

 当時のアナベルは、大勢の取り巻きに囲まれていたのだ。一方の私は知り合いもおらず、付添人シャペロンがやっとの思いで見つけてくれたダンスで相手の足を踏みつける大失態をし、そのショックを引きずって壁の花になっていた。  

 夜会はキラキラと眩しく、華やかで、洗練されていて。でも、皆が皆、楽しめるような場所ではなかった。

 話を聞かされたとき、こうなるのではと予想していた。けれど、両親は「行ってみたら、楽しいかもしれないよ」と言っていたのだ。けれど、現実は甘くなかったのである。

 私自身、視線はずっとアナベルにあったし、他の人達もアナベルに羨望の眼差しを向けていたように思える。彼女はまさしく、社交界の花なのだ。

 同じアメルン伯爵家に生まれた私とアナベルは、どうしてこうも違うのだろうか?

 がっくりうな垂れ、落ち込んだ私を励ましてくれたのは、両親が贈ってくれた“エール”の首飾りだった。触れていると、心が安らぐ。

 “エール”の首飾りのおかげで、私はなんとか夜会を乗り切ったのだ。


「声を、かけようと思ったのです」


 意外だ。この暴風雪吹き上げる閣下が、他人に興味を示すなんて。しかしそれほど、アナベルは魅力的に映ったのだろう。


「不安そうで、今にも消えてなくなりそうな儚さを覚えて……」

「え?」


 あの暴君アナベル様が、不安そうで、今にも消えてなくなりそうだったって?

 ありえない、と思ったけれど、アナベルにも私が知らないいじらしい一面があるのかもしれない。

 もしかしたら、デュワリエ公爵はアナベルが一瞬目を伏せたときに、繊細な心の内を読み取ったのだろう。


 そんなことを考えていたら、デュワリエ公爵は衝撃的な言葉を口にする。 


「あなたはあのとき、胸元の首飾りに触れていましたね?」


 それ、アナベルではなくミラベルわたし!?

 思わず、叫びそうになってしまった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白いです! 確かにアナベルが言うとおりミラベルはいい性格をしてますねw 図太くてぼんやりしててでも愛敬があって憎めないです。 暴風雪閣下の暴風雪は止んでますし、これからどうなるのかどきどき…
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