番外編 デュワリエ公爵の甘ったるい誕生日
・結婚後のお話。
・サイン本に同封していたショートストーリーでした。
一か月後は夫の誕生日!
そんなわけで、何か欲しいものがないか質問を投げかける。
「あの、お誕生日に望むものはありますか?」
夫は一瞬、ぽかんとしていた。どうやら、自分の誕生日を忘れていたらしい。
「私が用意できるものでしたら、なんでもいいですよ」
などと言ったら、夫は思いがけないことを望んできた。
「ミラベルが欲しいです」
「はい?」
「ミラベルです」
はて、ミラベルとは……?
なんて一瞬思ったが、私自身のことかと気づく。
「いや、私はあなた様の物ですが?」
「いいえ! ミラベルは物ではありません!」
物扱いした件について、猛烈に怒り始める。若干、面倒に思った。
「あの、すみません。私が欲しいって、どういう意味ですか?」
夜の方面の話かと思ったが、そういうことを言う人ではない。別の意味があるのだろう。 詳しく話してくれと頼み込むと、夫はもじもじしながら説明し始める。
「その、なんと言いますか、ミラベルを、一日中傍に置いて、抱きしめたり、頭を撫でたり、キスしたり、愛を囁いたりしたいわけです」
「ぎゃーーーす!」
想像以上にとんでもない願いだったので、色気ゼロの悲鳴を上げてしまった。
「夫、本気ですか?」
「本気です。常日頃からそうしたいと望んでいたのですが、恥ずかしくて言えなくって」
そんな願望など、墓場まで持って行ってほしかった。
私にそんな思いを抱く変わり者は、世界中探しても夫くらいだろう。
「ミラベル、いいですね? 私の誕生日ですし」
「ウッ!」
なんでもいいと言った手前、ダメとは言えない。
そんなわけで、一か月後の誕生日プレゼントは、まさかの「わ・た・し」となったわけだ。
どうしてこうなった!
◇◇◇
誕生日当日はさんざんだった。
夫は満足するまで私を膝に置き、時折「幸せです」と耳元で甘く囁く。
それだけではない。
何度も抱きしめ、キスをし、幸せそうに微笑んでいた。
私は盛大に照れ、羞恥心で死にそうになる。
「ミラベル、ありがとうございます。最高の誕生日です」
「それはそれは、ようございました」
甘い甘い誕生日を、過ごしたのだった。
終




