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身代わり伯爵令嬢だけれど、婚約者代理はご勘弁!  作者: 江本マシメサ


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39/46

最終話だけれど、ハッピーエンドです!

「うっ……!」


 なんだか見たことがあるような、天蓋付きの寝台で目覚める。

 家の布団よりもはるかにふかふかで、薔薇みたいないい香りがした。


 瞼を開くと、誰かが顔を覗き込んでいた。

 アナベルかと思って、そっと頬に触れる――が、違和感を覚えた。

 頬にかかる短い猫っ毛に、触れたから。肌も、アナベルとは異なるきめ細かさだった。


「ミラベル・ド・モンテスパン、意識はあるのですか?」


 焦ったような、デュワリエ公爵の声が聞こえた。


「あの、私、どうして、ここに――?」

「湖でフライターク侯爵に襲われて、そのまま意識を失ったのです」

「フライターク侯爵は?」

「拘束されました。今は、拘置所にいるでしょう」

「そう、なんだ」


 どうやら私は、運よく助かったようだ。


「デュワリエ公爵は、なぜ、湖に、いたの?」

「アメルン伯爵家に訪問していた際に、怪しい男がやってきたというのを、アナベル嬢から聞いたので、追跡したのです」

「そう。アナベルが……アナベルが!?」


 ここで、一気に意識が覚醒する。


「ちょっと待って!! わ、私っ、アナベル――」

「落ち着いてください、ミラベル嬢」


 はっきりと、デュワリエ公爵は私を「ミラベル」と呼んだ。

 ということは、私とアナベルの画策はすべてバレているのだろう。


「あなた達の話は、すべて伺いました」

「ア、アナベルから?」

「ええ」


 恐る恐る、デュワリエ公爵の顔を見上げる。久しぶりに、暴風雪が吹き荒れているような気がした。


「ぜ、全部、聞いたというのは――?」

「全部です。アナベル嬢が私の行動に腹を立てて、あなたに身代わりを命じるところから、フライターク侯爵との婚約を回避するために動いていた辺りまで」

「そ、そうでしたか」


 気まずいけれど、これでよかったのだ。世の中、悪いことはできないようになっているのだろう。

 ついでに、もうひとつ告白しておく。


「もうひとつ、隠していたことがあるんですけれど」

「なんですか?」

「私、“エール”で働いていたんです」

「それは、ここに運ばれたあと、素顔を見た瞬間、気付きました」

「そ、そう、だったのですね」 


 すべて、デュワリエ公爵にバレていたようだ。


「ご、ごめんなさい。私、酷いことをして、もう、“エール”で働く資格なんて、ないですよね?」

「なぜ?」


 真顔で問いかけられる。じわりと、瞼が熱くなった。


「だって、私は報酬に目が眩んで、ずっとデュワリエ公爵を騙していたのですよ?」

「途中から、アナベル嬢に止めようと提案していた話は聞きました」

「でも、止められなくて……」


 泣いたらダメだ。そう思っていたら、余計に泣けてくる。

 デュワリエ公爵に泣き顔を見られたくなくて、両手で顔を隠した。


「たまに挙動不審なときがあったので、何か隠し事をしているだろうなと、感じていました」

「す、すみません」

「しかし私は、素直に打ち明けてくれたら、洗いざらい許そうと思っていたのです」

「それは、なぜ?」

「あなたが、好きだからですよ」


 覆っていた両手を、思わず外してしまう。

 涙で視界が歪んでいて、デュワリエ公爵がどんな表情をしているのか確認できなかった。


 そんなことよりも、とんでもない発言を聞いた気がする。

 デュワリエ公爵が、私を好きだと?


「すみません。まだ夢の中にいるようなので、もう一度眠ります。明日になったら起こしてください」

「ミラベル嬢、真面目に聞いてください」


 毛布を被って眠ろうとしたのに、引き戻されてしまう。


「あなたは、婚約破棄をしようと躍起になっていましたが、私は、婚約破棄する気はありませんので。予定通り、結婚します」

「あの……私、アナベルではないのですが?」

「わかっていますよ、ミラベル・・・・嬢」


 呆れたような声が返ってくる。


「わ、私は、アメルン伯爵令嬢ではなくて、アメルン伯爵家の令嬢で、アナベルみたいに、友達もたくさんいなくて、華やかさもなくて――」

「それでも、私が結婚したいと思ったのは、ミラベル嬢、あなたです」

「そんな、嘘です。信じられない」


 涙がボロボロ零れる。やはりこれは、私が見た都合のいい夢なのだろう。


「あなたは、私の女神でもあるのです。どうか、信じてください」

「女神?」

「あなたといると、装身具のアイデアが浮かぶのです」

「へ?」


 それって、“エレガント・リリィ”の女神、という意味なのか。問いかけると、デュワリエ公爵は頷いた。


「な、なんで!?」


 私が“エレガント・リリィ”の女神である所以を、語ってくれた。


「あなたを見かけたのは、社交界デビューの娘達が集まる夜会の晩でした。ああいう場はあまり得意ではなく、大勢の人達に囲まれて途方に暮れていたのです。そんなときに、壁際にいるあなたを見つけました」


 誰とも話さずに、私はうっとりと“エール”の首飾りを眺め、慈しむように触れていたらしい。


「その際、衝撃に襲われました。私の考案した首飾りを、愛する者に接するように触れる娘がいるのかと。そのときに、“エール”の装身具では、似合わないと思ったのです」


 それもそうだろう。私が社交界デビューをしたのは、アナベルよりも一年遅かったから。

 社交界デビューの娘達に作られた、“エール”の首飾りは実のところ似合っていなかったのかもしれない。


「そこから、十代後半から二十代過ぎに向けた“エレガント・リリィ”が生まれたわけです」

「そ、そうだったのですね」


 あのときデュワリエ公爵が私を見かけなければ、“エレガント・リリィ”は生まれていなかったと。


「実はそのとき、あなたの顔をよく見ておらず、誰かわからなかったのです。しかし、アナベル・ド・モンテスパンとしてやってきたあなたが、同じように首飾りに触れているときに、同一人物だと気付いたのです」

「なるほど……!」


 最初から、デュワリエ公爵はアナベルではなく、私を見てくれていたようだ。


「会うたびに、あなたのことがどんどん気になるようになりました。それなのに、婚約破棄すると言い出すので――」

「す、すみませんでした」

「いいえ、構いません」


 デュワリエ公爵は、私に手を差し伸べる。


「私の手を、取っていただけますね?」

「自信が、おありなのですね?」

「はい」


 そんな風に言われてしまったら、手を取るしかないだろう。

 私も、デュワリエ公爵のことが好きだから。


 差し出された手に、そっと指先を添える。すると、デュワリエ公爵は微笑みを浮かべ、私の手に頬を寄せていた。


 ◇◇◇


 そんなわけで、私とアナベルの身代わり生活は終わった。

 デュワリエ公爵はすぐに挨拶にやってきて、正式な婚約を結んでくれた。

 “エール”での仕事も、これまで通り頑張っている。


王太子を手に掛けようと画策していたフライターク侯爵は、終身刑となったようだ。

 本人は処刑を望んでいたようだが、裁判長は首を縦に振らなかったという。

 場合によっては死ぬよりも、生きるほうが辛い。

 時間をかけて、罪を償ってほしい。


 フライターク侯爵に毒を盛られていた王太子は、すぐに毒に詳しい医者の診断を受ける。

 治療に時間はかかるものの、命に別状はないという。

 アナベルはデュワリエ公爵の計らいで、王太子のもとに通えるようになった。

 デュワリエ公爵曰く、いい雰囲気らしい。

  

 いろいろと大変だったけれど、今はミラベル・ド・モンテスパンとして楽しく過ごしている。


 大好きな人達と過ごす毎日を、愛おしく思っていた。


 身代わり伯爵令嬢だけれど、婚約者代理はご勘弁! 完


後日、番外編を書くかもしれません。ブックマークはそのままで、お願いします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 完結お疲れ様でした。 読者としてはあっという間に終わってしまいましたがミラベルが報われたからよかったと思います(*´▽`*)
2020/02/29 16:51 退会済み
管理
[一言] 完結おめでとうございます。 とても面白くて毎日2回の更新がとても楽しみでした。 ミラベルは最終回までどこかのんきで憎めなくて、毛布を被って眠ろうとしたところの公爵様とのやり取りがとても面白…
[良い点] 間延びすることなくストーリーに引き込まれました。 誘拐からの急展開には驚きましたが ちゃんとお互いの名前を呼びあうような番外編があったら 嬉しいなぁと思います。 楽しいお話ありがとうござ…
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