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身代わり伯爵令嬢だけれど、婚約者代理はご勘弁!  作者: 江本マシメサ


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第三十四話目だけれど、公爵様のお食事改革します!

 手が汚れない軽食は何かあるだろうか。考えていたら、以前恋愛小説を研究しているときに料理長にお願いして作ってもらった料理を思い出す。

 一口サイズのクッキーに、焼き菓子。四角くカットされたパンケーキもあった。

 甘いものだけでなく、ミートパイやチーズを挟んだクラッカーもあった。

 そういえば、デュワリエ公爵は私が甘いものを食べるときに、「信じがたい」と言わんばかりに顔を顰めていたことを。もしかしたら、甘い物が苦手である可能性があった。

 カナンさんに話を聞いてみると、軽食は甘い物がメインらしい。ミルクティーも好みではないのかもしれない。

 そもそも、紅茶は淹れたてがもっともおいしい。冷めた紅茶は、茶葉によっては飲めたものではなくなる。

 いっそのこと、果実系のジュースなどを瓶ごと置いて、好きなときに飲んでもらうようにしたほうがいいのではないか。

 思い立ったら即行動である。厨房に行って、主であるマリアさんに話してみた。


「工房長の軽食を変更したいだって!?」

「は、はい」


 くわっと目を見開きながら、聞き返される。瞳には、怒気が滲んでいるように見えた。

 彼女は自信を持って、軽食と紅茶を作っているのだろう。だから、私みたいな新参者に意見されるのは不服に感じるのかもしれない。


「あの、工房長って、紅茶や軽食をほとんど召し上がらないとお聞きしたので」

「お忙しいからなんだよ。それだけだ」

「もしかしたら、甘いものが苦手なのかもしれないんです。だから、食事系の軽食をお出しできたらなと、思っているのですが」


 もう一点。片手で掴んで一口で食べられる軽食も提案してみた。

 話を聞いたマリアさんの反応は、“無”である。


「あ、あの、いかがでしょうか?」

「ダメだね。工房長だけ、特別扱いはできないよ。今のところ、ひとり分だけ違うメニューを作っている時間はないし」


 “エール”は、工房長であるデュワリエ公爵であれど、皆と同じように扱うのを信条としているようだ。


「しかし、このまま水分や食事を取らず、長時間作業をし続けると、体に悪いと思うのです。専属デザイナーである工房長が倒れてしまったら、“エール”は瞬く間に傾いてしまいますよ」

「それは……そうだねえ」

「一回、試してみてもよろしいでしょうか? お出しする飲み物や料理は、私が責任を持って買って参りますので」


 ここで、「作ります」と言えないのがなんとも歯がゆい。料理はいつも、料理人に任せっぱなしだったから。


「お願いします!!」


 深々と頭を下げる。頭上で、ため息が聞こえた。


「仕方がない子だね。わかったよ」

「あ、ありがとうございます! では、今から商店に行って――」

「お待ちよ!」


 首根っこを掴まれ、「ぐえっ」とアヒルみたいな声が零れる。


「ぐっ……な、なんでしょうか?」

「その、一口で食べられる軽食とやらは、どんなものなんだい?」

「えっと、よく食べていたのは、ミートパイです。手で掴んでも具が零れないように、密封した状態のものでして」

「なるほど。折りパイではなく、練りパイを使ったミートパイだね」


 なんでも、パイ生地には二種類あるらしい。生地を重ねて作る“折りパイ”。それから、生地を練って作る“練りパイ”だ。

 今まで、あまり気にせずにパクパク食べていた。ひとつ勉強になった。


「ジュースは、ブドウのがあるね。わかった。試しに、今から用意してみよう」

「い、いいのですか?」

「ああ。工房長のお口に入るものを、余所から買ってきた品にするのは許せないからね」

「ありがとうございます!」

「その代わり、あんたも手伝うんだよ」

「はい!!」


 そんなわけで、生まれて初めてミートパイ作りに参加する。

 

「急だから、お肉はないよ。ベーコンとトマト、チーズを使ってパイを作ろう」

「いいですね!!」


 さっそく調理を開始する。マリアさんは練りパイの生地を作るため、私は具作りを任された。


「ベーコンとトマトはなるべく細かく切るんだ。それを鍋に入れて、オリーブオイルで炒めるんだよ」

「了解です」


 食事以外でナイフを握るのも初めてである。ドキドキしながら、ベーコンの塊にナイフを落とした。


「ちんたらしていたら、時間がないからね!」

「は、はい」


 ベーコンを刻み、オリーブオイルを引いた鍋で炒める。焼き色がついたら、トマトを加える。昼食の残りの澄ましスープを注いで、しっかり煮詰める。途中で、トマトソースを加えた。塩、胡椒で味を調えたあと、水分が飛ぶまで煮詰めたら、パイの具の完成である。


「ど、どうでしょうか?」

「初めてにしたら、上等だ」

「ありがとうございます!」


 具を匙で掬い、マリアさんが作って広げた生地に載せていった。


「一口大のパイだからね。匙で一杯ずつ、生地に置いていくんだよ」


 生地の上に具を並べ終えたら、さらにその上から四角くカットしたチーズを載せるのだ。続いて、同じ大きさの生地を上から被せる。それを、ナイフでカットしていくのだ。生地の四方にフォークの先端を押し当て、具がもれないように封じておく。

 これらを、オリーブオイルを塗った鉄板に並べていくのだ。


「仕上げは、水溶き卵を刷毛はけで塗っていくんだよ」


 慎重に塗っていく。これを、 事前に温めておいたオーブンで二十分ほど焼いたら完成である。


「ほら、焼けたよ」

「わあ!」


 味見用に、ひとつもらった。手で掴み、しっかり冷ましてから頬張る。

 トマトの酸味にベーコンの旨味が溶け込み、チーズのなめらかさが全体の味わいを優しく包んでくれる。生地も、バターの風味が香ばしくてとてもおいしい。


「どうだい?」

「最高です!」


 そう返すと、マリアさんはにっこり微笑んでくれた。


 このトマトとベーコンのチーズパイとブドウジュースを、デュワリエ公爵の部屋へ持って行くこととなった。

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