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身代わり伯爵令嬢だけれど、婚約者代理はご勘弁!  作者: 江本マシメサ


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第三十話目だけれど、お久しぶりな暴風雪閣下です!

「彼女の名前は――」

「いいえ、必要ありません。どうせ、すぐに辞めるでしょうから」


 暴風雪が、ピュウピュウと吹き荒れる。

 間違いない。彼は、デュワリエ公爵だろう。

 それにしても、驚いた。まさか、デュワリエ公爵が“エール”に関わっていたなんて。


 回れ右をして逃げ出したかったが、ふと気付く。今の私は、アナベル風の濃い化粧をしていない。地味の化身みたいな姿である。同一人物だと結び着けるのは、極めて困難だろう。

 フロランスだって、厚化粧の私に気付かなかった。だから、きっと大丈夫だろう。


「あの、ミラさん、大丈夫ですか?」

「あ――は、はい」


 ばれないよう、高めの声を意識してみる。

 ちらりとデュワリエ公爵を見たが、興味ありませんとばかりに目も合わせようとしない。


「が、頑張りますので、よろしくお願いいたしますぅ!」


 媚びへつらうような感じで挨拶してみた。もちろん、無視である。

 これでいい。そう思いながら、部屋を出た。


 私の面倒を見てくれるのは、カナンさんという女性。普段は、デュワリエ公爵が完成させたデザイン画の原型作りをしているらしい。


「原型作りというのは、デザイン画を立体化させる仕事なんだ」


 カナンさんの工房に案内してもらう。新作のデザイン画があるらしい。


「見せてあげるよ」

「わ、私が見ても、大丈夫なのですか?」

「うん、大丈夫。ミラさんの“エール”への愛が詰まった文章は、読ませてもらったから。きっと、口外したり、デザインを盗んだりしないって、信じているよ」


 なんでも、あまりにも熱烈だったので、工房内の皆で回し読みされたらしい。

 完全に、黒歴史である。


「しかし、工房長はなぜ、装身具のブランドを立ち上げたのですか?」

「最初は、妹さんのためだったらしいよ」


 フロランスの社交界デビューの準備をするさいに、宝石商をいくつか呼んだらしい。

 しかし、持ってくるペンダントや耳飾りは、どれもフロランスに似合っていなかったという。

 装身具の多くは、大人の女性を美しく見せる物である。十五前後のフロランスに似合うわけがなかったのだ。

 業を煮やしたデュワリエ公爵は、自らペンを取って「こういう装身具を作ってこい!!」と命じたらしい。

 オーダーメイドで完成した装身具は、驚くほどフロランスに似合っていたと。

 社交界デビューを嫌がっていたフロランスであったが、デュワリエ公爵から贈られた装身具を身に着けていると、勇気がでると言っていたらしい。

 その後、フロランスが身に着けていた首飾りや耳飾りは評判となり、宝石商に問い合わせが相次いだという。

 困惑するデュワリエ公爵にフロランスが「他の貴族令嬢の勇気にもなるはず」と背中を押すような発言をしたのだとか。結果、ブランドの立ち上げを決意したらしい。


「“エール”には、社交界デビューの女性を応援するという意味合いがあるみたい」

「そうだったのですね」


 デュワリエ公爵が作った装身具は、社交界デビューをする私の勇気にもなったのだ。

 胸がじんと熱くなる。


「私が担当するデザインは、これなんだけれど」

「わあ!」


 まだ製品化されていない、“エールの”新作だ。百合の花をモチーフにした、大人っぽいひと品である。真珠とダイヤモンドをちりばめるようで、完成が楽しみだ。

 それにしても、デザイン画の状態でもかなり精緻に書き込まれている。

 まさか、デュワリエ公爵にこのような才能があったなんて驚きだ。


「これは、“エレガント・リリィ”ですよね?」

「さすがだね」


 “エール”には、十代半ばの社交界デビューした女性が身に着ける“ピュア・ローズ”と、十代後半から二十代前半の女性が身に着ける“エレガント・リリィ”が存在する。

 “ピュア・ローズ”は可憐で、“エレガント・リリィ”は美しい。パッと見ただけで、どちらかわかるのだ。

 新作はため息がでてしまいそうなほど、清純できれいなイメージだ。


「これを、カナンさんが立体化させるのですね!」

「そうなんだけれど、これを採用するか否かを、午後の会議で話し合わないといけないんだ」

「えっ、これ、製品化するか、決まっていないのですか!?」

「そうなんだよ。工房長はここ最近、“エレガント・リリィ”のデザイン画ばかり挙げるんだ。全部で、五十枚くらいかな」

「ご、五十枚も!?」

「どうやら、“エレガント・リリィ”の女神に、再会できたようでね」

「“エレガント・リリィ”の女神、ですか!?」

「そうなんだよ」


 社交界で優雅な百合の化身といったら、フロランスしか思い浮かばない。

 けれどカナンさんは、“再会”した、と言っていた。


「“エレガント・リリィ”が誕生したのは、工房長が夜会で出会った女性がきっかけだったみたいなんだ。その女性も“エール”の首飾りをしていたのだけれど、あまり似合っていなかったようでね」


 それは、社交界デビューの女性達が集まる夜会だったらしい。


「社交界デビューが遅かったんだろうね。“ピュア・ローズ”の首飾りは、子どもっぽい印象になってしまったのだろう」


 その女性に似合うように、“ピュア・ローズ”より年齢層を上げて作り、完成したのが“エレガント・リリィ”だったようだ。


「すてきな誕生秘話ですね!」

「だろう? おかげさまで、“エレガント・リリィ”は大好評。しかし、問題があったんだ」

「いったい、何が?」

「工房長は、夜会で出会った女性のみ、インスピレーションを得ていたようなんだ。そのため、新作を思いつくのに、大変苦労していたようでね」

「名前とか、聞かなかったのですか?」

「ああ。遠巻きに、見ていただけで、どこのお嬢様かもわからなかったらしいよ」

「そうだったのですね」


 なんとかひねり出して、“エレガント・リリィ”を発表していたようだが、限界がきていたと。


「“エール”の従業員総出で探したけれど、見つからなくてね……」


 信じられないことに、デュワリエ公爵は夜会で出会った女性の髪色や瞳の色を覚えていなかったらしい。顔も、忘れてしまったと。

 ただ、“エール”の宝石に触れる仕草だけが、酷く印象的だったようだ。


「すごいですね。仕草ひとつで、インスピレーションが湧くなんて」

「変態だか天才だか、わからないけれど」


 変態扱いに、笑いそうになった。カナンさんはお茶目な性格だ。話をしていて、とても楽しい。


「だから、“エレガント・リリィ”は新作があまり出ていなかったのですね」

「そうなんだよ」


 しかし、ここ最近は“エレガント・リリィ”のデザイン画が五十枚も届いたと話していた。


「もしかして、最近“エレガント・リリィ”の女神が、発見されたのですか?」

「そうなんだよ。アイデアが尽きないようで、どんどんデザイン画を上げてくれるんだ」


 デュワリエ公爵の“エレガント・リリィ”の女神とはいったい誰なのか。非常に気になる。

 

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