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身代わり伯爵令嬢だけれど、婚約者代理はご勘弁!  作者: 江本マシメサ


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第十六話目だけれど、隠し事を話しました!

 互いに励まし合い、なんとか落ち着いたあと、アナベルはぽつりと呟く。


「わたくし、ずっと、あなたになりたいと、思っていたのよ」

「ええ~~……」

「何よ、その反応は。失礼ね。単純に、家族に大切にされているミラベルが、羨ましかっただけなんだから!」


 家は本邸の四分の一の規模、父や兄は王族のお馬さん係、母は馬のことで頭がいっぱいで、浮き世離れしている。この家のどこに、羨む要素があるのか。


「私のほうこそ、アナベルが羨ましかったわ」

「あなた、それ、本気で言っているの?」

「うん」


 きれいなドレスを一日に何回も着替えて、取り巻きにチヤホヤされて、おいしいお菓子を食べられる。夢のような生活だろう。


「あなたね、ドレスの着替えなんて、面倒なだけよ。取り巻きだって、わたくしを慕っているわけではなく、アメルン伯爵家の権力に従っているだけなんだから。お菓子も、ここの家ででてくるミラベルとベルノルトの元乳母が作ったもののほうがおいしいわよ」

「そ、そう?」


 私が当たり前だと思っていることを、アナベルは羨む。

 逆にアナベルが当たり前だと思っていることを、ミラベルわたしは羨んでいるのだ。

 なんというか、生まれた家を間違った感がある。


「私が羨ましいのならば、アナベル、逆にあなたが、私の振りをするのはどう?」

「無理よ。あなたの脳天気な様子は、真似なんかできないわ」

「そうだろうから、身代わりについて、家族に相談するの」

「家族って、ミラベル、あなたの?」

「ええ、そうよ」

「本気なの?」

「本気」

「叱られるに決まっているわ」

「大丈夫。うちの家族は、真剣に考えてくれるわ」


 昔からそうだ。私がズボンを穿いて木登りしたいと言ったときも、男の子に交じって軍人ごっこをしたときも、両親や兄は私の行動を責めなかった。私のしたいことを、尊重してくれたのだ。


「木登りに軍人ごっこですって? 信じられないわ」

「でしょう?」


 両親は私を「女だから」とか「女らしく」と咎めなかった。逆に兄にも「男だから」とか「お兄ちゃんだから」と、我慢させることもしなかったのだ。

 今の時代に珍しい、寛大で極めて平等な考えを持っている。


「同じ双子の両親でも、こんなにも違うのね」

「みたい。なんだろう、類は友を呼ぶ的な感じで、好きになったのかなと」


 だから、脳天気な母は脳天気な父に惹かれ、野心ある伯母は野心ある伯父に惹かれたのだろう。


「まずは、家族に今日のことを謝らないといけないわ。アナベル、ちょっと待っていてくれる?」

「ええ、わかったわ」


 家族は居間に集まり、何やら話し合いをしていた。私がやってきて先ほどのことを謝罪すると、ぎょっと驚いた表情を見せている。


「あら、内緒の話をしていたの?」

「い、いや、これは!」


 父は不審なくらい、慌てていた。テーブルを覗き込むと、“エール”のパンフレットと、金貨が数枚集められている。


 兄は肩をすくませながら、事情を語った。


「みんなのへそくりを集めて、ミラベルに“エール”の首飾りを買ってあげようかと、話し合っていたんだ」


 素直に告白した兄を、母が責める。今言ってしまったら、意味がないとも。


「でも、母上。隠し事をしたら、ミラベルが不審に思うでしょう?」

「それは、そうだけれど」


 私がいつになく不機嫌だったので、なんとかしようと話し合っていたようだ。申し訳なくなってしまう。


「心配をかけて、ごめんなさい。私が、不機嫌だった理由を、すべて話すから」


 両親は目を丸くする。兄は、何かピンときたのだろうか。腕を組み、真剣な眼差しを向けていた。


「実は私、たまにアナベルの身代わりを務めていたの」

「なんだって!?」

「ミラベル、どうしてそんなことを!?」


 アナベルが社交界の付き合いにうんざりしていたこと。逆に私は、社交界の付き合いに興味があったことを、素直に告げる。今までバレなかったことも。

  兄は特に驚いていなかった。たまに、アナベルと一緒に身代わりをしていると、気付いていたらしい。


「ベルノルト、なぜ、報告しなかったんだ」

「単に、子どものするごっこ遊びだと思っていたから。悪いことは、していないと信じていたし」


 幼少期に、アナベルと服を入れ替え、間違い探しをする遊びをしていた。そのさい、どれだけ頑張ってアナベルの振りをしても、兄だけは騙せなかったのだ。

 おそらく、世界で唯一、私とアナベルの見分けを正確に行える人なのかもしれない。

 いや、デュワリエ公爵も、私とアナベルの違いに気付いていたが……。 

 そうだ、デュワリエ公爵についても、話さなければ。ここからが本題である。


「あ、あのね、それで私、アナベルに、デュワリエ公爵の婚約者の代理もするように、頼まれていて」


 父は天井を仰ぎ、母は顔を両手で覆う。いくら両親が寛大でも、想定外のものだったのだろう。


 説明するにつれて、父は絶望したような「ああ……」という声しか発さなくなる。母は耳を閉じ、聞かない振りをしていた。


「そんなわけで、デュワリエ公爵の気を引いたあと婚約破棄する予定だったけれど、中止になったの。後日、婚約破棄の申し入れは、私がすることになって、今に、至ると」


 シーンと、静まり返る。私とアナベルのとんでもない行動力に、言葉を失っているようだ。


「もしも、処刑を命じられたら、馬の墓場に一緒に埋めてもらおう」

「あなた、私もご一緒するわ」

「父上、母上、私も」


 なぜ、処刑されたときについて話し合っているのか。いくらデュワリエ公爵が暴風雪閣下と呼ばれていても、罪もない家族の首を飛ばさないだろう……多分。

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