6. 王国騎士団を訪問しました
アルトリア国の騎士団が、午前の訓練を終えた頃、マードナー騎士団長の元へ一通の手紙が届けられた。
手紙の封蝋を見つけた瞬間、マードナーは慎重かつ急いで中身を確かめた。
内容を読み進める内に、マードナーの眉間には深く皺が刻み込まれていく。
読み終えた後はすぐ様近くの団員に伝達を出した。
マードナーが手紙を受け取って間もなく、騎士団の駐屯地に一台の馬車が訪れた。
騎士団が訓練に使用する広い演習場では、団長からの緊急招集を受けた全団員達が、姿勢を正し整列している。
待機する演習場から、豪華な馬車が見えた瞬間、団長を始め、団員全体にピリリとした緊張感が走った。
馬車の扉が開かれると、侍女らしき女性が先に降り、次いで1人の女性が優雅に降り立った。
頭の後ろでダークブルーの長い髪をひとまとめに結び、一見ドレスと見間違えるが、腰辺りから前が開いており、中はパンツスタイルだと分かる。
過度な装飾が殆どない装いなのに、その容貌と佇まいからは気品さが滲み出ていた。
「ご機嫌よう、騎士団の皆様」
騎士団全員の視線が集まる中、ミシェルはつり目を細めてニコリと笑って挨拶をした。
先頭に立つ壮年のマードナーが一歩踏み出し、右腕を胸の前に当てて騎士団流の形式で敬意を払いつつ頭を下げる。
「第一王女殿下、お待ちしておりました」
「マードナー騎士団長、お久しぶりですね。急に来てしまってごめんなさい」
「…いえ、問題ありません」
姿勢を戻したマードナーは、真正面からミシェルを見据えた。
以前会った時より纏う空気が柔らかくなっている事に驚いていたが、表情に出す事はない。
「それで、早速なのだけれども…」
幾分申し訳なさそうに告げるミシェルは、身長の高いマードナーを上目遣いで見上げる。
その言葉に頷き、マードナーは背後に控える騎士団員に向けて合図を出す。
それに答えた数人の団員が前に進みでる。
彼らの年齢はバラバラだったが、王族のミシェルを前にして、皆一様に緊張した面持ちである。
ミシェルは、並んだ彼らを順に見渡し、とある青年の所で視線を止め、思わず「にやり」と笑いそうになるのを堪えた。
「王女殿下からの手紙を拝見しました。その、どういう経緯であのような内容に…」
普段堂々とした態度の騎士団長が、言い澱んだ事に周りの団員達はゴクリと喉を鳴らす。
彼らはまだ、マードナーの人選意図も、ミシェルが訪問した理由も聞かされていなかった。
「私、果たさなければならない目的がありまして、その為にはどうしても必要な事なんです」
マードナーと、団員達ににっこりと笑いかけながら、ミシェルはとても楽しそうに告げた。
「だから皆で、ドラゴンを、捕まえに行きましょう!」
キラキラと金色の目を輝かせ、まるでピクニックに行くかのような第一王女の姿に、マードナーはの眉間には、朝よりも深く皺が刻まれていた。