16、変態はクラスチェンジしました
ベイドナーが異常なまでに魔物の研究を行っていたのは、魔物が好き過ぎるが故である。
そして、エリーが迎えたバッドエンドで、彼が発言した言葉にも、ちゃんとハッピーエンドへの伏線が込められている。
″ワーキヤン″は、ベイドナーが幼い頃、彼を助けた魔物である。
助けられた、と彼が思ってるだけなのだが。
雷鳴を起こす鷲の様な鳥の姿で、普段は大人しいのだが、縄張りに侵入する敵に対して、電撃を放つ。
全身真っ黒な鳥は、電撃を放つ際に金色に光る。
幼い頃に森で魔物に追いかけられて、うっかりワーキヤンの縄張りに入り込んでしまい、
追いかけてきた魔物諸共電撃を食らう。
一命を取り留めたベイドナーは痛みや恐怖よりも、攻撃する刹那の神々しいまでの光に魅了されてしまった。
いつかあの時のワーキヤンに出会う為にと、
魔物研究を推し進めた。
「そして私はあの時、王女殿下がそのワーキヤンに見えたのです。金色に輝く瞳が私を射抜いた瞬間、全身に震えが走りました!」
「それ静電気のせいじゃないかしら?」
医務室に担ぎ込まれたベイドナーが目を覚ますと、捲したてる様に過去の出来事を語り出した。
(バッドエンドの印象が強すぎて忘れてた)
ベッドの横に用意された椅子に座らされたミシェルからは、感情が抜け落ちた顔でベイドナーを見遣る。
「長年探し求めていた魔物に出会えず、少々落ち込んでいたのですが、まさかあの感動を王女殿下に頂けるとは思ってもいませんでした!もう一度あの痛みとも取れぬ快感を!」
「いえ、ですからニクス先生。何度も申し上げておりますがあれは事故でして」
「ニクスなど! どうか、ベイドナーと、呼んで下さい」
「ニクス先生、私には雷の精霊の加護はありませんので、二度と静電気を起こす事は出来ませんので、どうぞ今まで通りワーキヤンを探して下さい」
これ以上仲を深めてたまるものかと、頑として名前を呼ばない姿勢を貫きながら、うんざりとした口調でベイドナーに諭す。
目を覚ましたベイドナーを確認したら、すぐさま退室しようと思っていたのだが、王女殿下と話させろと騒ぐベイドナーに生贄として捧げられたミシェルである。
扉をエリザが塞いでいる為、逃走も出来ない。
「ミシェル様へ渡した加護は一時のものですし、僕も騎士団としてあまり頻繁にこちらへは来られませんよ」
ルディも加勢してくれるが、ベイドナーは聞きやしない。
「王女殿下ならば、これから雷の精霊の加護を授けて貰う事も出来るのでは?」
尚も食い下がるベイドナーに、思わずため息が漏れる。
これは、はっきり言わないとダメかも知れないと、相手するのが面倒になってきたミシェルはポロリと溢す。
「あまり大っぴらに言う事ではないのでここだけの話にして欲しいのですが、私は精霊に嫌われております。今後も加護を受ける事はないでしょう」
ミシェルの言葉に、ベイドナーはギョッと目を見開く。
アルトリア国の第一王女なのに、精霊から加護が貰えない事に驚いたのだろう。
「それは……」
何と言ったらいいのかと、思案するベイドナーの視線が泳ぎ、それを見たミシェルは、同情されてるのかもしれないと考えた。
(別に悲しくも何ともないのだけど。だって精霊がダメなら魔物が!格好良い魔物達との触れ合いが残ってるから!)
「悲観して無いので、ニクス先生が気に病む事ではありませんよ。ポチもそうですが、逆に私は魔物に好かれるよう……で…?」
気を抜いていた。
あまりにもベイドナーがしつこいから、投げやりな態度を取っていたミシェルだったが、今の自分の発言が地雷であると忘れていた。
「魔物に好かれる?」
ハッと気づいた時にはもう遅く、ベイドナーの双眸がじっとミシェルを捉える。
みるみる内に頬が染まる彼を見て「うわぁ」と声を上げたのは誰か、ともすればこの医務室にいる全員かもしれない。
「ちょ、違う、嘘、冗談です!」
「一生を貴方に捧げます!王女殿下ぁ!」
「いやぁぁぁぁ!」




