15、和解しました
ベイドナーやゲイン達の元に戻ってきたミシェルは、早々にベイドナーに向き合う。
「ニクス先生、レッドドラゴンの研究の事なんですけれど、正式に貴方にお願いしたいと思います」
背筋をピンと張り、堂々と語るミシェルは、当初部屋から逃げ出そうとしたり、ゲインの後ろに隠れてた逃げ腰の雰囲気は無かった。
「本当ですか!断られるかと思ってました。てっきり私は王女殿下に嫌われるような事をしてしまったと…」
「先生は何もしていませんよ」
ベイドナーを苦手としていたのは、前世のトラウマがあったからで、現時点でミシェルは何もされていない。
今こうして話す気になったのは、先ほどルディから受け取った最終兵器があるという気持ちに余裕が生まれたからだ。
そう考えると、なんだか申し訳ない気持ちになる。
喜ぶベイドナーに、ミシェルは更に言葉を続ける。
「ただし、お願いするにあたり条件があります」
「レッドドラゴンの研究が出来るのですから、どんな条件でも呑む覚悟はあります!」
かなり食い気味に乗り気な ベイドナーに引きつつ、ミシェルはにこりと笑ってみせる。
「私が指定した魔物の情報を集めて頂きたいのです」
「情報ですか?」
「ええ。 ニクス先生が研究した魔物の生息地や習性など、新たな魔物を含めて全部提供して欲しいのです」
「それは…」
研究者にとって、研究内容は報告すべきものであるが、無償で提供するとなれば、研究を横取りされたと思われても仕方がない。
ミシェルはベイドナーとあまり交流は持ちたくない気持ちは変わらない。
あのトラウマイベントはそうそう払拭できる記憶ではないからだ。
だが、先程思い至った魔物と戯れ計画の為にポチを捧げ、新たな魔物との出会いの為にミシェルは女王教育で培った外交の技術を奮う。
「勿論、研究成果はニクス先生のものですし、私から公表する事はありません。レッドドラゴンの研究が出来て、第一王女からの依頼として研究費も出ます。悪い話ではないのでは?」
魔物に対して異常な執着を見せるベイドナーであれば、この作戦は間違いなく成功する自信がミシェルにはあった。
案の定、レッドドラゴンと研究費の言葉で、 ベイドナーは目をキラキラと輝かせて二つ返事で頷いた。
「宜しくお願いしますその条件のみます!
自信はあったものの、最終兵器を使わずに済んだ事にミシェルはほっ、と一息つく。
万が一にも断られたら、ルディから受け取った雷の加護で、バチリとやって逃げ出す算段を付けていたのだ。
「ありがとうございます!王女殿下!」
「ーーえ」
予想以上に感極まっていたベイドナーが、勢い余ってミシェルを抱きしめる。
その瞬間、バチっ!という音がした後、目の前に ベイドナーが崩れ落ちた。
(あああああ!不可抗力!)
「ミシェル様の体に勝手に触れるなど、天罰がくだったのか?!」
「落ち着きなよゲイン」
「ミシェル様、面倒な事しないで下さい」
三者三様の反応を見せる中、ミシェルは顔面蒼白で立ち竦んでいた。
(どどどどどうしよう…これ、報復とかされたりするかしら? まさかのエリーに出会う前にバッドエンドを迎える感じ?)
「ーーう、」
強めの静電気を受けたベイドナーが、痛みから呻き声を上げ、ゆっくりと顔を上げる。
その目には、怒りも驚きも無く、バッドエンドで見たあの恍惚とした、色気が滲んでいる。
「ワーキヤン…」
その一言を発すると、ベイドナーはパタリと地面に倒れた。
のんびり更新となります。




