13. 作戦を思いつきました Part2
その時、ポチの咆哮が耳を劈いた。
ビリビリと空気が震えるの中、咄嗟に両手で耳を塞ぐ。
ミシェルがポチを振り向くと、伏せの状態で大人しくその場にいた。
まるで何事も無かったかのように涼しい顔をミシェルに向けるが、その前脚は地面にベイドナーを押さえつけている。
じたばたと暴れるベイドナーを、ゲインが慌てて助け出す。
ミシェルもゲインの後を追うが、ベイドナーから距離を取るのは忘れない。
「いやぁ〜、突然の事に驚きました!」
前脚から救出されたベイドナーは、あっけらかんと笑って銀縁眼鏡を直す。
「怪我が無くて良かったです」
飼い主として、ポチが人を傷つけた訳ではないと分かってミシェルは胸を撫で下ろす。
「王女殿下、観察していて思ったのですが、このレッドドラゴンは、もしかしたら別の場所から来たドラゴンかもしれませんね」
「別の場所?」
「アルトリア王国が位置する、ルドワール大陸で稀に見かけるレッドドラゴンと、このドラゴンでは、いくつかの違いがありまして。
例えば、レッドドラゴンは長距離に適した翼では無いんです。縄張り意識が強く、生まれた場所から近い場所で生活する事で飛ぶ目的が減り翼が大きくなりません。だからこそ、殆ど見かけないんです。それに比べてこの子は、付け根の部分が異様に発達して大きな翼を持っている。いくらでも飛べそうですよね、それと……」
ベイドナーは観察して得た考えを一気に捲したてる。
その勢いを止める事が出来ず、ミシェルとゲインはぽかんとして話を聞いていた。
程なくしてそんな2人の様子に気付いたベイドナーは、慌てて謝った。
「すみません、魔物と研究の事になると止まらなくて…」
ベイドナーは、すっと姿勢を正し、深々と頭を下げる。
「本日も、本来なら事前に来る事をお伝えするべきでしたのに、突然の訪問とお詫びが遅れたこと、申し訳ありません」
「顔を上げてください。こちらこそきちんとした挨拶もできず、部屋では大変お見苦しい所をお見せいたしました」
前世の記憶の変態と、先ほどまでのはしゃぎっぷりのベイドナーとは一変して、真面目な一面を見たミシェルは面食らう。
流石は研究職といった観察力も、ゲーム内では細かく描かれていなかった。
魔物に対する貪欲な研究は、道を間違わなければ非常に役立つのでは?と、ミシェルは考え始めていた。
逃走手段としてレッドドラゴンを探していたが、いざ手に入れると愛玩用としての気持ちが強い。
元々、”聖乙女戦争”をやり込んでいた理由が美しい精霊や、格好いい魔物達が見れるサイドストーリーの為だ。
精霊に嫌われていた時点で諦めていたが、魔物達に会う為にゲインとベイドナーの力を借りれば、格好いい魔物達と戯れる生活も夢ではないかもしれない。
持てる力を総動員し、ミシェルはにっこりと微笑みながらベイドナーに向き直る。
「ニクス先生は、他にどんな魔物に興味があります?」
「そうですね、最近は”フェンリル”の目撃情報があり…」
「あー!フェンリルですか!僕も最近その噂聞きましたよー」
クルクルの茶色い巻き毛が、ひょっこりとミシェルとベイドナーに間に割って入る。
「ルディ?!」
突然現れた同僚に、ゲインは驚きの声を上げると、ルディは「はい!」と元気良く答えていた。
ルディの後ろには、エリザが離れた場所で控えている。
ミシェルはエリザにアイコンタクトを取り、「良くやった!」と心の中で褒め称えた。
「ルディさんというんですね、貴方もフェンリルに興味がおありで?」
キラキラと瞳を輝かせて、同志を見つけたと喜ぶベイドナーに対して、可愛い顔したルディはキッパリと否定する。
「あ、僕は騎士団ですので。討伐対象になるかな〜っと」
目に見えてしゅんとするベイドナーを放って、ミシェルはルディに近寄り、耳元でこそこそと話しかける。
ゲインが一瞬息を飲む音が聞こえたが、構わず続けた。
「ルディさん、既にエリザから説明があったかと思いますが、こちらにおいでくださったという事は、私のお願い、聞いて頂けるのでしょうか?」
「はい!勿論です王女殿下!」
満面の笑みで頷くルディに、ミシェルも優雅に微笑みを返すが、内心は力強くガッツポーズをした。




