12. 作戦を思いつきました
ゲインは、いつに無く緊張して体を強張らせていた。
その前では、研究者と名乗るベイドナーがポチを前にはしゃいでいる。
緊張の原因は、研究者がポチに食われる事ではなく、ゲインの後ろに隠れて、ぎゅっと団服を握りしめているミシェルにある。
「…ミシェル様、なんでそんなに警戒してんすか?」
顔を真っ赤にするゲインには気付かず、ミシェルはベイドナーとポチの様子をじっと伺っていた。
逃亡が失敗に終わった後、セギルスからの提案で「まずはポチに会わせてみましょう」という事になり、こうして皆でポチのいる庭へと来たのだった。
(奴がど変態のサディストだと言えたらどんなに楽か)
前世の説明をする訳にもいかない歯痒さに
、ミシェルは唇を噛みしめる。
「ゲイン、お願いよ。あの方がいる時は私から離れないでください」
上目遣いで懇願するミシェルに、ゲインは更に顔を赤くし、無言で何度も頷いた。
「あまりゲイン様を困らせてはいけませんよ」
エリザは、ゲインからミシェルを引き離し、ミシェルのドレスを整える。
「それと、私も少々困っておりまして。ゲイン様からお返し頂けませんか?」
ポケットから手紙の束を出し、エリザはゲインに手渡す。
ミシェルが離れた事で冷静になれたゲインは、受け取った手紙の差出人の名前を見て「ああ」と苦笑する。
「ルディさんから、毎日毎日毎日…手紙が送られてきており、大変困っております」
「伝えておきます…」
エリザの無表情からは分からないが、声に滲む苛立たしげな感情を読み取り、ゲインはしっかりと誓った。
そんな2人のやり取りを見ていたミシェルは、きょとんとした顔でエリザを見つめる。
「ルディ?」
聞いた事がある名前のような気がしてその名を呟く。
エリザが、ミシェルがドラゴン探しに出かけた後にあった出来事を簡単に説明する。話の最後に「非常に面倒だった」と付け加えるのを忘れずに。
そんな同僚を不憫に思ったのか、ゲインは申し訳なさそうに眉を下げる。
「良い奴なんすけどね、加護持ちだけど俺とも仲良くしてくれるし」
「ルディさんは、なんの加護を授かってるのかしら?」
「あいつの加護はエゲツないっすよ。雷の精霊なんすけど、力の使い方がちょっと。童顔だから余計にそのギャップが…」
ゲインの言葉を反芻し、ミシェルはぶつぶつと呟く。
「ルディ、雷、童顔…」
頭の中に浮かぶ個々のイメージがゆるゆると纏まっていき、瞬間、前世の記憶を思い出す。
パッと顔を輝かせ、ミシェルは急いでエリザに耳打ちする。
普段無表情のエリザが、片眉をピクリと動かし、渋々といった形で頷く。
「急を要するわ、お願いねエリザ」
「…かしこまりました」
何処かに行ってしまったエリザを見送ったあと、ゲインはミシェルに視線を移す。
「エリザさんに何をお願いしたんすか?」
ニヤリと笑ったミシェルの顔は、まるでゲームの悪役女王そのものだった。
「自己防衛です」
その時、ポチの咆哮が耳を劈いた。




