1.前世を思い出しました
初投稿となります。
あぁ、そういう事だったのね。
ミシェル・アルトリア第一王女は、1人で納得していた。
生まれた頃から感じていた違和感は、視線の先を歩いている少女の存在を見つけた瞬間、綺麗に霧散した。
少女の名はエリー・クラリエ。
淡いピンク色の髪は、緩いウェーブが歩く度にふわりと揺れる。髪と同じピンクの大きく愛くるしい瞳は、初めての登城に緊張と興奮が見える。
15歳になった彼女は、精霊に愛される”聖なる乙女”として覚醒し、アルトリア国の女王に謁見するべく、今ここにいる。
勿論、ミシェルは彼女を見たのは初めてだし、今日登城する事も知らなかった。
しかし頭の中では、彼女が今よりも成長したビジュアルと、これから歩む人生の映像が鮮明に駆け巡る。
そして、ミシェル自身の運命さえも知ることとなった。
『聖乙女戦争』。
なんて物騒なタイトルなんだ、と、それはミシェルが前世でプレイした乙女ゲームの最初の印象だった。
主人公エリーが、精霊の加護を受け”聖なる乙女”として17歳で入学した学園で繰り広げる恋愛ゲーム。
さまざまな乙女ゲーの中で、これを前世でやり込んでプレイしていた理由は、攻略キャラ達の為ではなく、ゲーム内で出てくる精霊や魔物達のサイドストーリーが楽しかったからだ。
美しい精霊や、格好いい魔物達が綺麗に描かれている部分が気に入っていた。
そして今、その乙女ゲームの世界に出てくる悪役女王ミシェルとして歩まされているのが、自分なのだと思い知る。
「私の将来は断罪かー…」
15歳の若さで自身のエンディングを知ったわりに、ミシェルはさほど落ち込んではいなかった。落ち込むどころかむしろ晴れ晴れとした気分になったくらいだ。
物心つく頃から、毎晩見ていた夢。
それは、第三者視点で見る悪虐非道なまでの女王ミシェルの姿であった。
今思えば、それはプレイヤーの視点だったのだろう。
ダークブルーのストレートで長い髪、王家の証である金色の瞳は、つり目がちな切れ長のせいで冷酷さをより一層際立たせる。
我儘な態度で周りを振り回し、気に入らない者には酷い罰を与え、最後には自らの国を滅ぼさんとする女王は、最後にはエリー達に断罪されて殺されるのだ。
自分が見ている夢なのだが、嫌悪しかない描写に胸糞が悪くなる。
自身の年齢とはかけ離れていたが、その容姿があまりにも似ていた為、幼いミシェルは酷いショックを受けた。
幼い頃から女王となるべく教育されてきたが、夢の女王を反面教師としていた為、幼い頃から周りに完璧に取り繕う事を覚え、女王教育も必死に努力して身につけた。
それでも、いつか自分が「ああなるのではないか」というえもしれぬ不安と戦ってきた為か、10歳になる頃には酷く冷めた性格に落ち着いていた。
「今までの苦労は一体なんだったの」
ぶつぶつと文句を言いながら、テーブルの上で頬杖をつく。
前世を思い出した今、淑女としての意識も投げやりになってしまう。
そのままミシェルは手元の紅茶が入ったカップに口をつける。
勉強の合間の休憩として、庭に出てお茶を楽しんでいた所に、エリーの姿を見つけて蘇った前世の記憶。それまでは立派な女王になるためにと受けていた教育も、意味が無いことに気付き、はぁ、とため息をつく。
そして一呼吸ついた後、ミシェルは独りごちた。
「よし、女王になるのやめよう」