初恋
彼との出逢いは縁日だった。私は彼に一目惚れをしたんだと思う。
彼に見とれていると、彼は私の前に来てこう言ったの。
「かわいいなぁ」
私、嬉しくて駆け寄って行ったの。彼ったら、優しく受け止めてくれたわ。
そのあと、彼と一緒に帰ることが出来て夢みたいだと思った。
暖かいところで寝ることも出来て、食事もできた。何より、彼が私のことをずっと見ていてくれて嬉しいのか恥ずかしいのかもう訳がわからなかったわ。
半年くらいすぎたのかしら。彼がポツリと零した言葉が信じられなかった。信じたくなかった。
「もう、お別れの時期だな。」
悲しくて、悲しくて何も手につかなかったくらいよ。
それで、三日後くらいだったわ。車が来たの。軽自動車で、運転していたのは綺麗な女の人だった。
彼、その女と親しげに言葉を交わしていたわ。極めつけにキスまでしてね。
そのあと女がこっちに来て、私を車に乗せた。
そのあと私は彼が言っていたことを理解したわ。看板が見えたの。
「国立大学獣医学部」
私は研究室の作業台の上に乗せられた。見える範囲でも、かなりの道具があったわ。汚れてもいいように準備もしておいたみたい。
さあ、いよいよよ。
私が聞いた彼の最後の言葉。
「泣いてるの?」
そうよ。動物にだって心はあるわ。涙だって流れるの。
「コケ…」
一声鳴いて、私はそれから_______。
作業台の上には麻酔が効いて寝ている鶏が乗っていた。これからこの鶏で標本を作るのだ。
青年に女性は言う。
「大丈夫?辛くない?半年の間お世話したもの。」
「大丈夫です。でも、やっぱり少し罪悪感が…」
女性は苦笑いをした。
「すぐに慣れるわ。この子達もこれからの動物のためになるんだもの。光栄だと思っているわ。」
「はい…。」
「さ、残りの作業片付けちゃいましょ!」
青年は道具を手に取りながら考えていた。鶏が最後に流した涙の意味を。