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こんなはずじゃなかった

 龍造寺隆(りゅうぞうじたかし)は学年の男子としては成績優秀で知られている。おそらく読書感想文も問題なく書いてくるような生徒だろう。そんな彼が合宿に参加したいというのは意外だった。


 それだけではない。クラスに「龍」という名が付く名字は自分の龍崎(りゅうさき)。そして彼の龍造寺ということもあって、成績優秀な彼は「いい方の龍」。そしてもう一方、即ち自分は「悪い方の龍」と(ひそ)かにあだ名されている。


 そんな経緯もあり、勇斗は龍造寺に対してあまりいい印象を持っていなかった。出席番号の都合上、頻繁(ひんぱん)に顔を合わせる事も多いものの、何となく敬遠(けいえん)している生徒であることは間違いない。


 

 「アイツさ、ドラクエをまだクリアしてないんだって」


 なるほど、と勇斗は思った。


 成績優秀な彼のことだ。きっと例年の、「文学作品の」読書感想文であれば問題なく終わっていただろう。


 だが、ゲーム感想文となると話は別だ。


 きっとゲームより勉強を優先するであろう彼のことだ。逆に「課題ゲーム」が進まず、感想文を書けない状態であることは容易に想像がつく。


 もっとも自分が杉田から教わった感想文の書き方であれば、そもそもゲーム自体をやる必要がないのだが……



 「で、大橋は?」

 「あいつの家、実はゲームないんだって」


 大橋透(おおはしとおる)……何となく目立たない奴だというイメージだ。むろん、勇斗も決してクラス内で目立つ存在ではないのだが。


 いじめに()っている、という噂も聞く。しかし自分は被害者はもちろん、加害者としても関わりたくないため、彼もまた「敬遠している生徒の一人」である。


 

 「じゃあ何で手を挙げたんだよ?」

 

 今回、ゲーム感想文を書かされてるのは「賛成」に挙手(きょしゅ)した生徒のみだ。一見すると「女子は課題を免除」のように思われているが、それはゲーム感想文に挙手しなかったのが、たまたま女子全員だったというだけのことである。


 「別に男子であっても、挙手しなければゲーム感想文の課題をしなくてもよかったはず……」


 勇斗は自分が特別、国語力があるとは思っていない。しかしその時の玉野の提示した条件だけはしっかりと覚えていた。



 「だってさ、手を挙げないと仲間外れにされそうじゃん?」

 

 確かに、と勇斗は思った。あれはゲーム感想文を課題としてやるかどうかというよりも「()()()()()の対決」といった様相(ようそう)(てい)していた。


 したがって男子に「俺はやらない」という選択肢は存在しない状況だ。仮にそんなことを主張して仲間外れにされるくらいなら、男子というグループの一員に入っていた方が安全だと判断したのだろう。



 「なるほど。で、村中は?」

 「夜の学校の校内を撮影したいって」


 村中誠人(むらなかまこと)はクラスでも有名なゲームオタクだ。本人自身は「将来の夢はYoutuber」と語っており、実際に彼が投稿した動画をネット上で視聴(しちょう)することが出来る。


 なるほど、夜の校舎を撮影すれば再生数を多く稼げる可能性は高い。しかし実際にそれが出来る機会なんて、実際にはほとんど存在しない。


 仮にやるとすれば多くは「不法侵入(ふほうしんにゅう)」となるだろう。当然だがそれは「炎上」の可能性がある。


 再生数を稼ぎたいため、いわゆる「立ち入り禁止区域」に無断で入る。そして大炎上した挙句(あげく)、視聴者がYouTubeに通報したために動画が削除されたケースは存在する。


 そんな状況の中、夜中の学校に「合法的(ごうほうてき)に侵入できる」となれば、確かに()()()()()と言えるのかもしれない。少なくとも彼にとってはそうだ。



 「あいつ、課題は終わったのか?」

 「いや、多分終わってないだろ」


 彼は以前、試験期間中も「動画の編集作業(へんしゅうさぎょう)が大変で」と()()()()()()、YouTubeにどっぷり浸かっている生活スタイルは勇斗にとって少々……いや、かなり違和感を覚えたことがある。


 (大丈夫なんだろうか?いや、待てよ……)


 例えば夜の校舎を「探検(たんけん)」する。これはドラクエにおける「ダンジョン」そのものではないか?だとすれば、彼の目的は今回のゲーム感想文合宿という趣旨に大きく貢献してくれるものなのかもしれない。


 「まあいいや。で、その7人で報告しとくけど?」

 「了解。頼むよ」


 

 ▽

 

 稔との通話が終了すると、勇斗は先程の玉野からの電話で着信記録に残っていた番号、即ち虎ノ口中学校に電話をした。


 「はい、虎ノ口中学校でございます」

 「あの、2年A組の龍崎勇斗といいます。玉野先生いらっしゃいますか?」

 「玉野先生、ちょっと待ってね」


 しばらくすると、玉野が電話に出る。


 「もしもし、玉野だが」

 「玉野先生、合宿の人数ですが」

 「合宿か。で、何人だ?」

 「7人です。自分と羽賀、佐田、当間、龍造寺、大橋、村中です」

 「合宿の日程は?」

 「23日から。2泊3日でお願いします」

 「そうか、わかった」


 とりあえず、合宿のメンバーと日程は(ととの)った。あとは自分が学進ゼミナールで教わった内容を参加者達に教えられればよいのだが……

【登場人物紹介】


・龍崎勇人 / りゅうさき ゆうと(14歳)

 本編の主人公。虎ノ口中学校2年生。一応、将棋部所属

 夏休みのゲーム感想文が書けないため、学習塾「学進ゼミナール」の門を叩く。


・羽賀稔 / はが みのる(13歳)

 虎ノ口中学校2年生。勇斗の親友。情報通。

 ゲーム感想文が全く書けず、勇斗に相談を持ちかける。


・玉野悟 / たまの さとる(46歳)

 虎ノ口中学校の国語教師。教員生活20年以上のベテラン。

 夏休みの課題として「ドラクエのゲーム感想文」を出す。厳格な態度のため、生徒達の評判はイマイチ。


・佐田弘 / さだ ひろむ(13歳)

 虎ノ口中学校2年生。

 親が裕福なため、自分の家に友達を呼んでゲームをすることが多い。


・当間翔 / とうま しょう(13歳)

 虎ノ口中学校2年生。元バスケ部の1年生エース

 去年の読書感想文の提出が終わらず、部活の練習を休んだ事が原因でバスケ部を退部に追い込まれる。


・龍造寺隆 / りゅうぞうじ たかし(13歳)

 虎ノ口中学校2年生。

 成績優秀な男子生徒。読書感想文は書けるものの、ゲーム感想文で躓いたため、合宿に参加を希望する。


・大橋透 / おおはし とおる(13歳)

 虎ノ口中学校2年生。

 クラスでも目立たない生徒。流行の話題についていけないため、いじめに遭っている


・村中誠人 / むらなか まこと(13歳)

 虎ノ口中学校2年生。

 ゲームオタク。将来の夢はYoutuberと友人に語っており、ネット上に動画をアップするのが日課。

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