表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/47

タイトルなくして感想文なし

 虎ノ口中学校で「ゲーム感想文の合宿」が議題に取り上げられていた時、勇斗は学進ゼミの課題に取り組んでいた。


 「勇者以外の立場で考え、文章を作成する」


 それが前回、杉田が勇斗に与えた課題だ。



 当初は勇者の仲間である戦士や魔法使い、といった内容で書いてみようと考えていた。しかし、


 「5人以上が参加する場合、自分が「勇者の仲間に入れない」というのを想定してみろ」


 合宿を想定し、追加で出された課題である。


 そうなると、例えば王様。極端に言ってしまえば魔王の立場で感想文を書くというのも一つの方法だと思った。



 「なんで学校で教えてくれなかったんだろうな~」


 最近、勇斗がネット上で熱心に見ているのは「小説投稿(とうこう)サイト」である。アマチュア作家が自作の小説を投稿し、中には書籍化(しょせきか)。即ち「プロデビュー」を果たした人もいるらしい。


 そこには主人公が異世界(いせかい)転生(てんせい)し、魔王となって第二の人生を満喫(まんきつ)するという物語が多く存在する。


 あるいはスライムといった「最弱(さいじゃく)モンスター」に転生し、苦労するという話もあった。


 

 「ある意味、これが「コピペ」なのかもしれない」


 もし自分が合宿で「魔王役」を引き受けるようになった場合、おそらくこういった作品が参考になる。


 むろん、これらは小説であって感想文ではないから、完全にコピーすることは出来ないのかもしれない。しかし今の勇斗にはこれらが「自分の創造力を高めてくれる」格好の素材となっていた。



 「もしも、自分が魔王だったら? 」


 魔王の立場で感想文を書くとすれば、きっとこういうタイトルで書くだろう。


 と、すれば既に自分が仕上げた感想文は「理想のパーティー編成(へんせい)」といったところか。



 「いや、待てよ……」


 これまで、読書感想文に「タイトル」という考えはなかった。何故なら読書感想文のタイトルは「課題図書を読んだ感想」と決まっていると思っていたからだ。


 「確かに、タイトルを書く必要はないけれど……」


 でも、これって実は結構重要ではないだろうか?


 確かに「タイトル名」としては書かないかもしれない。しかし、最初の1行目に自分の意見を入れる事は必要ではないか?



 「杉田は何て言ってたっけ……そうだ! 論理展開(ろんりてんかい)


 つまり論理展開だ。最初に「ドラクエを魔王の視点で見た感想は~」と書く。そうすれば、魔王の立場で書いても不自然ではないだろう。


 ドラクエ

 ↓

 魔王

 ↓

 悪

 ↓(なぜなら)

 世界を滅ぼす

 ↓(そして)

 勇者が戦いを挑む

 ↓(しかし)

 戦わなくてもよいのでは?

 ↓(なぜなら)

 勇者が魔王を倒したいとは限らない

 ↓(なぜなら)

 王様の命令で来ただけだから

 ↓(だから)

 勇者の気持ちを確かめればよい


 

 構成を基に、勇斗は感想文を書き始めた。


 

 ドラクエといえば魔王です。一般に魔王は悪の存在と思われています。


 なぜなら世界、即ち人間を滅ぼす存在とされているからです。


 そして、そのような存在を倒すべく、勇者が魔王の下にやってくる。敵は勇者だけではありません。戦士や魔法使いといった勇者の仲間も一緒にやってきます。


 しかし、魔王は本当に勇者達と戦う必要があるでしょうか? なぜなら勇者は魔王を倒したいと考えているかどうかが不明だからです。


 その理由は、勇者が「魔王を倒したい」のではなく、彼が王様から「魔王を倒して来い」と命令されたに過ぎません。


 だから、もし勇者と戦うことになれば、その目的を(たず)ねてみてはどうかと思います。もし自分が魔王ならばそうするでしょう。


 そして勇者の望みが魔王の討伐(とうばつ)ではなく、人類を滅亡から守るものだとすれば……魔王である自分はそれをやめればよいと思いました。


 そうすれば、人間と魔王。そしてその手下であるモンスターは敵同士ではなくなるのではないでしょうか?


 それを証明するのが「モンスターを仲間にする」ということです。もしかしたら、モンスター達は勇者と戦いたいのではなく、勇者を含めた人間と仲良くしたいのかもしれません。


 そういう考えでゲームをすすめていくと、このモンスター達はもしかして人間のエゴの犠牲者なのではないかと思いました。


 「敵だったはずのモンスターが仲間になる」


 魔王も含め、全てのモンスターと仲良くなる。もしかしたら、ドラクエの開発者もそのような気持ちなのかもしれません。


 ゲームをやっていて一番面白かったのは、モンスターの仲間が次々と増えて行くときでした。そして自分はドラクエから「相手の立場の気持ちで考える」ということを学びました。

 


 ――文字数として700文字くらい。要約(ようやく)としてはこんな感じでいいだろう。


 あとは原稿用紙の文字数を2000枚に到達(とうたつ)させるため、モンスター名をいくつか入れればいいのかもしれない。


 あるいは、友達と喧嘩して仲直りしたエピソードなんかも使えそうだ。何故なら喧嘩した直後、たとえどんなに自分が悪くても「アイツが悪い」と文句を言う。これは「魔王は悪い奴らに決まってる」という考え方と同じではないだろうか?



 「スライムくらいは知ってるかな? 」


 あの玉野の事だ。きっとゲームの事なんかよく知らないだろうし、それこそドラクエの「固有名詞」なんか入れたら減点でもしかねない。


 だが、スライムというのを「一番弱いキャラ」「可愛いキャラ」と書けば、さすがに理解は出来るだろう。



「勇斗、入っていい? 」


 勇斗の部屋をノックする音と共に、母親の美香の声が聞こえる。時間は昼の12時を回っている。


 「そっか、昼飯か」


 感想文の課題に集中して取り組んでいた結果、あっという間に時間が過ぎていた。いつもは自分が下に降りて行くのだが、12時過ぎても降りてこないから昼飯を知らせに来たのだろうか。


 「いいよ」


 部屋のドアを開けると美香は受話器(じゅわき)を手に持っており、それを勇斗に差し出す。


 「電話。玉野先生から」

 「玉野先生? 」

【登場人物紹介】


・龍崎勇人 / りゅうさき ゆうと(14歳)

 本編の主人公。虎ノ口中学校2年生。一応、将棋部所属

 夏休みのゲーム感想文が書けないため、学習塾「学進ゼミナール」の門を叩く。


・玉野悟 / たまの さとる(46歳)

 虎ノ口中学校の国語教師。教員生活20年以上のベテラン。

 夏休みの課題として「ドラクエのゲーム感想文」を出す。厳格な態度のため、生徒達の評判はイマイチ。


・杉田一郎 / すぎた いちろう(21歳)

 大学2年生。学進ゼミナール虎ノ口校講師(数学担当)。東大医学部在学中。

 石津にアニメや漫画、ゲームを授業に取り入れる方法を提案する。

 本来は数学担当であるが、勇斗のゲーム感想文の指導を任されることになる。


・石津雄司 / いしづ ゆうじ(37歳)

 学進ゼミナール虎ノ口校室長(国語担当)。

 虎ノ口中学校の生徒の多くがライバルである阪口塾に入塾したため、「シェア奪回」を目的として本部から室長として派遣される。

 杉田の企画を本部に提案するも、塾の指導方針と違うことを理由に却下された。


・龍崎美香 / りゅうさき みか(44歳)

 勇斗の母。専業主婦

 勇斗の成績が上がって欲しいと思っているものの。中学生レベルの勉強を指導することが出来ずに悩んでいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうアンテナ&ランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ